第十話
新年、3人の初詣とこれから。
一月一日。
新年。
毎年恒例の、初詣に、三人で行く日だった。
今年は、両家族の親たちも、一緒だった。
*
参道は、人で賑わっていた。
屋台の匂い、お囃子の音、たくさんの人の声。
俺は、賑やかな参道を歩きながら、去年の同じ日を、思い返した。
(……去年は、まだ、何も変わっていなかった)
(……ただ、毎朝、誰かが来て、それに困って、それでも嬉しくて、という日々だった)
その一年で、たくさんのことがあった。
*
本殿で、お参りをした。
両親たちは、それぞれの願いを込めて、手を合わせていた。
俺たち三人も、並んで、手を合わせた。
俺は、何を願えばいいか、少し迷った。
でも、結局、「この三人の関係が、ずっと続きますように」と、心の中で、願った。
*
お参りを終えて、おみくじを引くことになった。
美香が、引いた。
「……大吉!」
美香が、嬉しそうに、紙を広げた。
恋愛の欄には、「思い通りにはいかないが、得るものは大きい」と書かれていた。
美紀が、引いた。
「……中吉」
恋愛の欄には、「静かな幸運が訪れる」と、書かれていた。
俺も、引いた。
「……吉」
恋愛の欄には、「誠実さが実を結ぶ」と、書かれていた。
*
「なんかリアルなおみくじだな」
美香が、笑いながら、言った。
「ほんとに」
美紀も、笑った。
俺も、つい、笑ってしまった。
(……それぞれのおみくじが、それぞれの今の状況を、的確に表していた)
(……美香の『思い通りにはいかないが、得るものは大きい』。美紀の『静かな幸運』。俺の『誠実さが実を結ぶ』)
*
屋台で、たこ焼きと、甘酒を買って、三人で食べながら歩いた。
冬の冷たい空気の中、甘酒の温かさが、心地よかった。
両親たちは、少し先を歩いていた。
俺たち三人は、少し、遅れて歩いていた。
*
帰り道、少し遅れて、俺と美紀が、並んで歩いた。
「……付き合い始めて、変わった?」
美紀が、聞いた。
「何が」
「3人の関係」
俺は、少し、考えた。
「……変わったけど、壊れてない」
「そうだね」
*
「美香は、大丈夫だと思う?」
美紀が、聞いた。
「大丈夫だよ。あいつは強いから」
「……そうだね」
美紀が、少し、笑った。
*
「博之」
「なに」
「好きだよ」
美紀が、静かに、言った。
初めて、自分から、まっすぐに、その言葉を言った。
「……俺も」
俺も、答えた。
(……文化祭の翌朝、俺が先に言った。今は、美紀が、自分から言ってくれた)
(……その変化が、嬉しかった)
*
前を歩いていた美香が、振り返った。
「二人とも遅い! 甘いものでも食べに行くよ!」
美香が、元気よく、叫んだ。
俺と美紀が、顔を見合わせて、少し、笑った。
それから、二人で、走り出した。
(……この声が聞こえる限り、三人は、大丈夫だ)
(……これが、『変わったけど壊れていない』の、答えだ)
*
甘味処で、三人で、ぜんざいを食べた。
あたたかくて、甘くて、新年の幸せな味だった。
「今年も、よろしくね」
美香が、ぜんざいを食べながら、言った。
「よろしく」
「うん。よろしく」
俺と美紀が、同時に、答えた。
*
夕方、家に帰る道を、三人で歩いた。
冬の夕暮れが、空を、橙色に染めていた。
いつもの配置で、いつものように、三人で歩いた。
でも、その中身は、もう、春の頃とは、違っていた。
(……俺は、美紀と、付き合っている)
(……美香とは、友達として、これからも、大切な関係を続けていく)
(……そして、三人での日常は、形を変えながらも、ちゃんと、続いていく)
*
桐島家と水瀬家の前に着いた。
「今日も、楽しかったね」
美香が、言った。
「ああ」
「うん」
俺と美紀が、頷いた。
「また明日ね」
美香が、いつものように、手を振って、水瀬家に入っていった。
*
美紀が、少し、残った。
「……今年も、いい年になりそうだね」
「ああ」
「……おやすみ、博之」
「おやすみ」
美紀が、俺の頬に、軽く、キスをした。
それから、笑って、水瀬家に入っていった。
(……美紀)
(……お前は、もう、迷わずに、こういうことをしてくれる)
*
俺は、一人、夜の道に、しばらく、立っていた。
空を、見上げた。
冬の星座が、はっきりと、見えた。
今年一年のことを、思い返した。
「……一緒にいれば、なんとかなる気がする」
「ちょっとだけ、答えてほしかったかも」
「……いつかちゃんと、答えてほしい」
「私は、もう少し待てる」
「……選ばれなかったけど、嬉しかった」
「好きだよ」
(……たくさんの言葉が、この一年に、積み重なっていた)
(……どの言葉も、本物だった。どの想いも、本物だった)
俺は、家に戻った。
部屋に入って、ベッドに横になった。
(……新しい一年が、始まる)
(……新しい関係の形で、でも、変わらない、三人の日常とともに)
目を閉じた。
今日見た、新年の景色が、まぶたの裏に、残っていた。
冬の夜が、静かに、更けていった。
新しい年の、最初の夜が。
◇ ◇ ◇
― 第十話「新年、3人の初詣とこれから。」 了 ―
次話:エピローグ「朝、また君がいた。──これが、僕たちの日常。」へ続く
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