第六話
クリスマスイブ、3人の夜
十二月二十四日。
クリスマスイブ。
毎年恒例の、三人でのクリスマスパーティーが、今年も開かれた。
桐島家のリビングに、両家族が集まった。父さんと母さん、パパとママ、そして俺たち三人。
*
チキンと、ケーキと、にぎやかな会話。
いつもと変わらない、賑やかなクリスマスの夜だった。
「博之、また背が伸びたんじゃない?」
ママが、いつもの調子で言った。
「毎回言ってますよね、それ」
「毎回伸びてるんだから、当然でしょう」
パパが、笑いながら言った。
*
夜が更けて、両親たちが、片付けを終えて、それぞれの家に引き上げていった。
残ったのは、俺と、美紀と、美香の三人だけだった。
「プレゼント交換しよう」
美香が、言い出した。
「準備してたのか」
「もちろん! くじで順番決めよ」
三人で、くじを引いた。
結果、俺は美紀に、美紀は美香に、美香は俺に、プレゼントを渡す順番になった。
*
まず、美香から、俺へ。
「はい、これ」
美香が、手編みのマフラーを渡してきた。
少し不器用な編み目だったが、丁寧に作られているのが、わかった。
「……時間かかったんだから」
美香が、そう言いながら、耳が赤かった。
(……美香)
(……お前は、こういう不器用さの中に、本気を込めるんだな)
「ありがとう。使う」
「ちゃんと使ってよね!」
美香が、いつもの明るさに戻って、笑った。
*
次に、俺から、美紀へ。
俺は、一冊の本を渡した。
美紀の好きな作家の、新刊だった。
「……覚えてたの?」
「ああ」
「……馬鹿」
美紀が、そう言いながら、笑っていた。
(……「馬鹿」と言われるたびに、なぜか嬉しくなる)
*
最後に、美紀から、美香へ。
美紀が、小さな箱を渡した。
中には、美香が前から欲しがっていた、アクセサリーが入っていた。
「これ、欲しがってたやつじゃん! 覚えてたの?」
「……双子だから」
美紀が、さらりと言った。
美香が、嬉しそうに笑った。
*
三人で、ケーキの残りを食べながら、他愛のない話をした。
今年あった、いろんな出来事の話。
来年は、どんな年になるだろう、という話。
でも、全員が、何かを待っている空気が、確かにあった。
(……今夜、伝える)
(……ノートに書いた、その通りに)
*
夜が、さらに深くなった。
美香が、伸びをして、立ち上がった。
「そろそろ帰ろっか」
「うん」
美紀も、立ち上がった。
玄関まで、三人で歩いた。
*
「博之、メリークリスマス」
美香が、言った。
そして、俺の頬に、軽く、キスをした。
(……!)
俺が固まっている間に、美紀が、反対側の頬に、同じように、キスをした。
「……ずるい」
美紀が、小さく言った。
二人が、互いを見て、少し笑った。
*
俺は、両頬の感触を、まだ、感じていた。
あたたかくて、柔らかくて、それぞれ違う、確かな感触だった。
(……二人とも)
(……今夜、ちゃんと伝える)
俺は、覚悟を決めて、口を開いた。
「……明日、ちゃんと話す」
二人が、俺を見た。
「うん」
「……うん」
二人が、同時に、頷いた。
*
美香と美紀が、それぞれの家に帰っていった。
俺は、一人、玄関の前に、しばらく立っていた。
夜空を見上げた。
冬の星座が、はっきりと、見えた。
(……明日、伝える)
(……ようやく、この長い時間に、答えを出す)
*
部屋に戻って、ベッドに横になった。
頬の感触が、まだ、残っているような気がした。
今夜のことを、思い返した。
「……時間かかったんだから」
「……覚えてたの?」「……馬鹿」
「……双子だから」
二人それぞれの、不器用な優しさが、今夜、たくさん見えた気がした。
(……どちらも、本当に、大切な人だ)
(……それは、これからも、変わらない)
でも、明日、選ぶ。
誠実に、向き合って、答えを伝える。
窓の外で、クリスマスイブの夜が、静かに、更けていった。
明日になれば、答えを出す日が来る。
◇ ◇ ◇
― 第六話「クリスマスイブ、3人の夜」 了 ―
次話:第七話「12月25日、博之の答え。」へ続く
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