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となりの双子はキケンすぎる ~生まれた日から、ずっとそばにいる。だから、ずっとキケンなんだ。~  作者: 鍼野ひびき
第三巻 答えを出す冬と、僕たちの選択

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第五話

初雪の日、博之は走った。




 十二月。

 初雪が降った日の朝だった。


 俺は、いつものように、早朝ランニングに出た。

 雪は、もう、降り止んでいた。でも、地面には、薄く、白い雪が積もっていた。


     *

 走りながら、ずっと、考えていた。


 美紀のこと。

 美香のこと。

 幼い頃の、三人のこと。


(……どちらが好きか)


 その問いを、ずっと、自分に投げかけてきた。

 でも、走りながら、ふと、別の問いが、頭に浮かんだ。


(……どちらと、生きていきたいか)


 その瞬間、何かが、変わった気がした。


     *

 好きか、という問いには、ずっと、「どちらも」としか、答えられなかった。

 でも、「どちらと生きていきたいか」という問いには、もっと、具体的なイメージが、自然と、頭の中に浮かんできた。


 毎朝、目を覚ましたとき、隣にいてほしいのは、誰なのか。

 将来、何かに迷ったとき、一番に話したいのは、誰なのか。

 年を取って、何でもないただの日常を、一緒に過ごしたいのは、誰なのか。


 走りながら、その答えが、少しずつ、輪郭を持ち始めていた。


     *

 気づいたら、水瀬家の前に立っていた。

 まだ、朝六時だった。


(……何をしてるんだ、俺は)


 でも、足は、もう、インターホンに伸びていた。


 俺は、インターホンを押した。


     *

 しばらくして、玄関の扉が開いた。

 出てきたのは、美紀だった。

 寝ぼけ眼で、パジャマのままだった。


「……博之? なんで?」

「走ってたら来てた」

「馬鹿じゃないの」

「そうかもしれない」


 美紀が、少し笑った。

 寝起きの、無防備な笑顔だった。


     *

「……入る?」


 美紀が言った。


「いや」

「なんで」

「……まだ、言えない。でも、もうすぐ言える」


 美紀が、じっと、俺を見た。

 その目に、何か、確かなものを見つけたような、表情があった。


「……分かった」


 美紀が、それだけ言って、扉を閉めた。


(……美紀)

(……お前は、いつも、必要な分だけ、聞いて、必要じゃない分は、聞かない)


     *

 俺は、また、走り出した。

 雪の上を、足跡を残しながら、走った。


 答えは、もう、分かっていた。


(……美紀と、生きていきたい)


 その言葉が、自分の中で、はっきりと、形を持った瞬間、不思議なほど、心が静かになった。


     *

 でも、その静かさの中に、別の感情も、確かにあった。


(……美香を、傷つける)

(……それは、避けられない)


 走るペースが、少し、落ちた。

 息が、白く、空気に溶けていった。


 美香の笑顔が、頭に浮かんだ。

 美香の涙も、頭に浮かんだ。

「もし、選ばれなかったとしても、博之のこと、嫌いになったりしないから」

 その言葉も、思い出した。


     *

(……美香は、もう、覚悟している)

(……俺が、その覚悟に、誠実に応えなければならない)


 俺は、また、ペースを上げた。

 冷たい空気が、肺に入ってくるのが、心地よかった。


 走り続けて、いつもの公園を通り過ぎた。

 雪をかぶった木々が、朝日に照らされて、白く光っていた。


     *

 走りながら、もう一度、自分に問いかけた。


(……本当に、これでいいのか)


 答えは、変わらなかった。


(……美紀と、生きていきたい)

(……それでも、美香のことは、ずっと、大切な人として、変わらず、想っていく)


 二つの想いは、矛盾しているようで、矛盾していなかった。

 俺の中では、ちゃんと、両方が、同時に、本当のことだった。


     *

 家の近くまで戻ってきた。

 雪が、まだ、薄く、道に残っていた。


 俺は、立ち止まって、息を整えた。

 白い息が、空に向かって、消えていった。


(……もうすぐ言える、と美紀に言った)

(……もうすぐ、じゃなくて、もう、言える)


 でも、誰に、どう伝えるべきか。

 その順番と、方法を、ちゃんと考える必要があった。


     *

 家に戻って、シャワーを浴びた。

 体の冷えが、ゆっくりと、温かさに変わっていった。


 俺は、自分の部屋に戻って、机に向かった。

 ノートを開いた。

 美香に、どう伝えるべきか。それを考えるためのノートだった。


 今度は、少しだけ、書けた。


 「クリスマスイブに、伝える」


(……クリスマスイブは、毎年、三人で過ごす日だ)

(……その日の前夜か、当日の終わりに、ちゃんと、伝える)


 窓の外を見た。

 雪は、もう、すっかり溶けていた。

 でも、空は、まだ、冬の重たい雲に覆われていた。


 答えは、もう、出ていた。

 あとは、伝える勇気と、誠実さだけだった。



◇ ◇ ◇


― 第五話「初雪の日、博之は走った。」 了 ―

次話:第六話「クリスマスイブ、3人の夜」へ続く


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