第四話
双子の秘密会議
【特別視点回:美紀と美香】
この話だけは、俺の視点では語れない。
後で美香から聞いた話を、できるだけ忠実に再現する。
*
夜、水瀬家の、美香の部屋。
美紀が、ノックをして、入ってきた。
「……話がある」
美紀が、静かに言った。
「……博之のこと?」
「うん」
美香は、ベッドの上に座って、美紀を見た。
美紀が、ドアを閉めて、部屋の中に入ってきた。
*
「美香、博之に告白したんだって」
美紀が、言った。
「……したよ」
美香が、隠さずに、答えた。
「私も……好きだ、って言われた」
美紀が、続けた。
「知ってる」
美香が、即答した。
「え?」
「雰囲気で分かった。お姉ちゃん、分かりやすいもん、博之の前だと」
(……美紀ちゃんは、いつも自分を隠そうとするけど、私には分かる)
*
姉妹の間に、奇妙な沈黙が流れた。
「……取り合いになるね」
美紀が、言った。
「うん」
「いやだね」
「いやだね」
二人が、同じ言葉を、同じトーンで言った。
それに気づいて、少しだけ、空気が緩んだ。
*
「……でも」
美香が、言った。
「でも?」
「どっちが選ばれても……お姉ちゃんのことは、ずっと好きだから」
美紀が、少し、目を見開いた。
それから、小さく笑った。
「……馬鹿」
「なんでそれ馬鹿なの!」
「……いい意味で」
「私もよ」
(……美香。お前は、いつも、まっすぐに、大事なことを言ってくれる)
*
二人は、しばらく、笑い合った。
久しぶりに、姉妹だけの、何の気負いもない時間だった。
「ねえ、お姉ちゃん」
美香が、聞いた。
「なに」
「博之のこと、いつから好きだったの?」
美紀が、少し、考えるように、目を伏せた。
「……分からない。いつからか、わからないくらい、ずっと」
「私も、それかも」
美香が、頷いた。
(……お姉ちゃんも、私も、同じくらい長く、博之のことを好きだったんだろうな)
*
「……怖くない? このまま、どっちかが選ばれて」
美香が、聞いた。
「怖い」
美紀が、正直に答えた。
「でも、博之が、ちゃんと考えて、ちゃんと選んでくれるなら、それでいいと思ってる」
美香が、しばらく、黙っていた。
それから、小さく言った。
「……うん。私も、そう思う」
*
「一個だけ、約束して」
美紀が、言った。
「なに?」
「博之が誰かを選んでも、3人でいること。形は変わっても、いること」
美香が、しばらく、美紀を見た。
それから、しっかりと、頷いた。
「……うん。約束する」
(……これだけは、絶対に、変わらないでいてほしい)
(……博之が誰を選んでも、私たちは、姉妹で、ずっと一緒だ)
*
二人は、しばらく、何も言わずに、並んでベッドに座っていた。
窓の外で、冬の気配を感じさせる風が、音を立てていた。
「……ねえ、お姉ちゃん」
美香が、また、口を開いた。
「なに」
「もし、私が選ばれたら、お姉ちゃん、本当に大丈夫?」
美紀が、少し、間を置いて、答えた。
「……大丈夫じゃないかもしれない。でも、時間が経てば、大丈夫になる」
「……正直だね」
「正直でいたいから」
美香が、小さく笑った。
「……私も、同じこと聞かれたら、同じこと言うと思う」
(……お姉ちゃんと、こんなに正直に話せるのは、博之がいるからかもしれない)
(……博之が、私たちに、いつも正直でいようとしてくれているから)
*
夜が、更けていった。
美紀が、立ち上がった。
「……戻る」
「うん」
美紀が、部屋を出る前に、一度、振り返った。
「美香」
「なに」
「……今日、話せてよかった」
美香が、頷いた。
「……うん。私も」
美紀が、部屋を出ていった。
ドアが、静かに閉まった。
*
美香は、一人、ベッドの上で、しばらく、天井を見ていた。
(……お姉ちゃんと約束した)
(……博之が誰を選んでも、3人でいる。形は変わっても)
それは、慰めではなかった。
二人とも、本気で、そう思っていた。
(……でも、それでも、選ばれたいと、思ってしまう)
(……お姉ちゃんも、きっと同じことを思っている)
美香は、目を閉じた。
窓の外で、風の音が、続いていた。
*
俺は、この夜のことを、ずいぶん後になってから、美香から聞いた。
美香は、笑いながら、それでも、少し目を潤ませながら、話してくれた。
「お姉ちゃんと、あの夜、ちゃんと話せてよかった」
美香は、そう言っていた。
俺の知らないところで、美紀と美香は、姉妹として、ちゃんと向き合っていた。
俺が、どちらを選んでも、二人の関係は、変わらない。
その約束が、後に、どれだけの意味を持つことになるか、俺はまだ、知らなかった。
◇ ◇ ◇
― 第四話「双子の秘密会議」 了 ―
次話:第五話「初雪の日、博之は走った。」へ続く
お読みくださり有難うございます!!
この作品を気に入ってもらえましたら、下にある☆☆☆☆☆やブックマーク、スタンプで応援いただけると大変励みになります!!
読者の皆様からの応援が次へのモチベーションになります!!




