↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
となりの双子はキケンすぎる ~生まれた日から、ずっとそばにいる。だから、ずっとキケンなんだ。~  作者: 鍼野ひびき
第三巻 答えを出す冬と、僕たちの選択

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/37

第三話

美紀との距離、縮まる夜




 美香への中間報告の翌日。

 夜、いつものように、合鍵の音がした。


 順番からすると、今夜は美紀だった。

 ドアが、静かにノックされた。


「……入っていい?」

「ああ」


     *

 美紀が、部屋に入ってきた。

 部屋着のままで、髪をおろしている。


 美紀が、ベッドの端に腰を下ろした。

 俺は、机の前の椅子に座った。


「……美香と、話したんだよね」


 美紀が、聞いてきた。


「ああ」

「……どうだった」


 俺は、少し考えてから、答えた。


「美香に話してきた。まだ答えは出ていないって」


 美紀が、静かに「そっか」と言った。


     *

「……美紀は」


 俺は、少し迷いながら、聞いた。


「文化祭の翌朝、俺が言ったこと、覚えてるか」


 美紀の体が、少し固まった。


「……覚えてる」


「あれは、本当のことだ」


 長い沈黙があった。

 美紀が、小声で言った。


「……知ってる」


「知ってた?」

「……なんとなく。でも、言葉で聞いたのは、初めてだった」


(……美紀)

(……なんとなく分かっていても、言葉にされることには、別の意味がある)


     *

 美紀が、ゆっくりと、俺の方を向いた。


「博之」

「なに」

「……もっと近くにいていい?」


 俺は、答える代わりに、腕を広げた。

 美紀が、そっと、俺の胸に頭を預けた。


(……いつもの「抱き枕」とは違う)

(……どちらも、分かっていた)


     *

 美紀の体温が、いつもより、近かった。

 いつもの、無意識の抱き枕のときとは、明確に違う近さだった。

 今夜は、美紀も、俺も、意識して、この距離を選んでいた。


 しばらく、何も言わずに、そのままでいた。

 美紀の呼吸が、ゆっくりと、伝わってきた。


「……答えが出たとき、ちゃんと言って」


 美紀が、小さく言った。


「ああ」

「……それまでは、こうしてる」


(……美紀)

(……ずっと「さりげなく」近づいてきたお前が、初めて、はっきりと、近さを求めた)

(……この一言がくる日を、俺はずっと、待っていた気がする)


     *

 俺は、美紀の髪を、そっと撫でた。

 柔らかくて、いい匂いがした。


「……美香のことも、ちゃんと考えてる」


 俺は、伝えるべきことを、伝えた。


「……知ってる」

「お前は、それでいいのか」


 美紀が、少し、考えるように、黙った。


「……いいわけじゃない」


 美紀が、正直に言った。


「でも、博之が誠実でいようとしてること、私は、知ってるから」

「……それを、信じることにした」


(……美紀)

(……お前は、いつも、俺が思っている以上に、強くて、優しい)


     *

 しばらく、二人で、静かにしていた。

 窓の外で、冬の気配を感じさせる、冷たい風の音がしていた。


「……今夜は、帰らなくていいのか」


 俺が聞くと、美紀が、小さく頷いた。


「……今夜は、いる」


 美紀が、もう少しだけ、俺に体を寄せた。

 俺は、そのまま、美紀を抱いていた。


     *

 しばらくして、美紀が、また口を開いた。


「……博之」

「なに」

「……怖くない?」


 俺は、少し、考えた。


「怖い。美香を傷つけることが」

「……それでも、決める」


 俺は、はっきりと言った。


 美紀が、静かに、頷いた。


「……うん」


(……美紀は、何も問い詰めない)

(……ただ、信じて、待っている)


     *

 夜が、深くなっていった。

 美紀は、いつの間にか、俺の胸の中で、眠っていた。


 俺は、しばらく、その寝顔を見ていた。

 穏やかな、安心したような顔だった。


(……美紀)

(……お前との気持ちは、もう、確かなものになっている)

(……あとは、美香に、ちゃんと伝えるだけだ)


     *

 翌朝、目が覚めると、美紀が、まだ俺の胸の中にいた。

 いつもの「例の場所」を握っているわけではなかった。

 ただ、そっと、俺の胸に頭を寄せて、眠っていた。


(……変わったんだな)

(……朝の『例の状況』から、こういう、もっと、ただ寄り添うだけの形に)


 美紀が、目を覚ました。


「……おはよう」

「ああ、おはよう」


 美紀が、少し恥ずかしそうに、身を起こした。


「……昨日のこと」

「覚えてる」

「……忘れないで」

「忘れない」


     *

 美紀が、ベッドから降りて、髪を直した。


「……朝ごはん、作る」

「ああ」


 美紀が、部屋を出ていった。


 俺は、一人、ベッドの上で、天井を見ていた。


 美紀との関係は、確かに、変わった。

 でも、美香への答えは、まだ、出していない。


(……早く、答えを出さなければならない)

(……美紀のためにも、美香のためにも、そして、俺自身のためにも)


 窓の外で、冬の朝の光が、薄く差し込んでいた。

 もう、十一月の終わりが、近づいていた。



◇ ◇ ◇


― 第三話「美紀との距離、縮まる夜」 了 ―

次話:第四話「双子の秘密会議」へ続く


お読みくださり有難うございます!!

この作品を気に入ってもらえましたら、下にある☆☆☆☆☆やブックマーク、スタンプで応援いただけると大変励みになります!!

読者の皆様からの応援が次へのモチベーションになります!!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。