↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
となりの双子はキケンすぎる ~生まれた日から、ずっとそばにいる。だから、ずっとキケンなんだ。~  作者: 鍼野ひびき
第三巻 答えを出す冬と、僕たちの選択

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/37

プロローグ

冬が来る前に、決めなければならない。




 十一月の朝。

 目が覚めた瞬間、わかった。

 また、いる。


 今日は、美香だった。


 でも、俺は、今日は違った。

 目が覚めた瞬間から、胸の中に、重いものがあった。


     *

「……おはよ、博之」


 美香が、眠そうに言った。


「ああ」

「なんか、顔こわい」

「そうか」

「……うん。なんか、今日違う感じがする」


 美香が、俺の腕をぎゅっと掴んだまま、また目を閉じた。

 俺は、その小さな手を見つめながら、思った。


(……美香)

(……お前の鋭さは、いつも、俺を見透かしてくる)


     *

 文化祭の後、美紀に「好きだ」と言った。

 美紀も「私も、好きだよ」と答えてくれた。

 あれから、もう少しで一ヶ月が経つ。


 でも、美香には、まだ何も伝えていなかった。


(……伝えなければならない)

(……ずっと、わかっていた)

(……でも、伝えるということは、美香を傷つけるということでもある)


 その怖さが、ずっと、俺の中にあった。


     *

 美香の規則正しい寝息が、また聞こえてきた。

 眠ってしまったらしい。


 俺は、天井を見上げた。

 十一月の朝の光は、夏よりも、ずっと薄かった。

 窓の外で、木枯らしが、葉を揺らす音がした。


(……冬が来る)

(……文化祭の後、『この冬が来る前に答えを出す』と決めた)


 でも、まだ、何も言えていない。

 美紀との気持ちは、確かめ合えた。

 それでも、美香への答えを、まだ、言葉にしていない。


     *

 美香が、また少し身じろぎをした。

 眠りながら、俺の腕を、もう少し強く掴んだ。


(……美香)

(……お前が眠っている間も、俺は、お前のことを考えている)

(……どう伝えれば、一番、お前を傷つけずに済むか。そんなことは、不可能だとわかっていても)


 俺は、静かに、決意を固めていた。


     *

 しばらくして、美香が、もう一度、目を開けた。


「……博之」

「なに」

「今日、何か、話したいことある?」


 俺は、少し、驚いた。

 美香の、その問いが、まるで全部わかっているような、そんな声だったから。


「……なんでそう思うんだ」

「だって、今日、顔がこわいって言ったでしょ」

「……ああ」

「だから、何かあるんだろうなって」


(……美香)

(……お前は、いつも、こうやって、先に気づいてしまう)


     *

 俺は、しばらく、何も言えなかった。

 言うべきことは、もう、決まっている。

 でも、今、この瞬間に言うべきかどうか、迷っていた。


「……今は、まだ」


 俺は、そう言った。


「……そっか」


 美香が、小さく頷いた。

 それ以上は、何も聞いてこなかった。


(……美香も、待ってくれている)

(……いつ、どんな形で伝えるか。それを、俺に委ねてくれている)


     *

 美香が、ベッドから起き上がった。


「……朝ごはん、食べよ」

「ああ」


 美香が、いつも通りの調子で言った。

 でも、その声に、いつもより少しだけ、覚悟のようなものが混じっている気がした。


     *

 俺も、ベッドから起き上がった。

 窓を開けた。

 十一月の冷たい風が、部屋に入ってきた。


 水瀬家の方を見た。

 美紀の部屋の窓が、少しだけ開いていた。


(……美紀)

(……お前との約束も、ちゃんと、果たさなければならない)


     *

 俺は、窓を閉めて、部屋を出た。

 階段を降りながら、思った。


(……決める。今度の冬が終わるまでに、ちゃんと決める)


 春、俺は「嬉しいけど困る」と思っていた。

 今は、もう、その「困る」の中身が、まったく違うものになっていた。


 それは、選べないことへの困惑ではなく。

 誰かを傷つけることへの、避けられない覚悟だった。


     *

 リビングに降りると、美香が、もう朝ごはんの準備を手伝っていた。

 母さんと、楽しそうに話をしている。


 俺は、その光景を、しばらく見ていた。


(……この日常を、壊したくない)

(……でも、変わらないままでいることの方が、もっと怖い、と美紀は言った)

(……それは、今の俺にも、当てはまる)


 俺は、リビングに足を踏み入れた。


「おはよう」


 俺が言うと、美香と母さんが、同時に振り返った。


「おはよう、博之くん」

「おはよー!」


 いつもの、朝の光景だった。

 でも、その日常の中に、確かな変化への一歩が、もう始まっていた。


 冬が来る。

 答えを出すべき季節が、もう、目の前にあった。



◇ ◇ ◇


― プロローグ「冬が来る前に、決めなければならない。」 了 ―

次話:第一話「三者面談と、それぞれの将来」へ続く


お読みくださり有難うございます!!

この作品を気に入ってもらえましたら、下にある☆☆☆☆☆やブックマーク、スタンプで応援いただけると大変励みになります!!

読者の皆様からの応援が次へのモチベーションになります!!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。