↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
となりの双子はキケンすぎる ~生まれた日から、ずっとそばにいる。だから、ずっとキケンなんだ。~  作者: 鍼野ひびき
大二巻 夏の熱が、距離を縮める

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/37

第十話

文化祭と、決められない僕と、笑う双子




 文化祭当日。

 二年A組のカフェは、大盛況だった。

 手作りの看板、教室いっぱいに飾られた装飾、メニュー表。準備期間の苦労が、すべて形になっていた。


 美紀が、きびきびと仕切っていた。

 お客さんの案内、注文の整理、トラブルへの対応。実行委員としての美紀は、いつも以上にしっかりしていた。


 美香は、愛嬌で客を呼び込んでいた。

「いらっしゃいませー! 二年A組のカフェ、空いてますよー!」

 元気な声が、廊下まで響いていた。


     *

 俺は、ウェイター役だった。

 お客さんの席まで料理を運びながら、教室の中を行き来していた。


 ふと、手を止めて、二人の様子を見た。

 美紀の真剣な横顔。

 美香の明るい笑顔。


(……どちらも、好きだ)

(……『選べない』というより、『どちらも選びたい』という、どうしようもない気持ちが、まだ消えない)


 でも、それを言っていられる時間は、もう少なくなっていた。


     *

 午後、少し落ち着いた時間があった。

 お客さんの数が一時的に減って、教室の中が、少し静かになった。


 美香が、俺のところに来た。


「答え、出た?」


 美香が、軽い口調で聞いてきた。

 でも、その目は、真剣だった。


「……まだ」

「だよね」


 美香が、小さく笑った。


「でも、ちゃんと待ってるから」


(……美香)

(……お前は、いつも、軽い口調で、確かな約束をする)


     *

 夕方、片付けの時間になった。

 お客さんが減って、クラス全体で後片付けを始めた。


 美紀が、俺の隣に来た。


「……文化祭、楽しかった?」


 美紀が、聞いてきた。


「ああ」

「そっか。……良かった」


 それだけ言って、美紀は片付けの作業に戻った。


(……美紀の『良かった』には、いつも何かが込められている)

(……今日のは、文化祭が無事に終わったことだけじゃなくて、俺が楽しめたことへの安堵だった気がする)


     *

 片付けが終わって、夜には後夜祭があった。

 グラウンドで、キャンプファイヤーが焚かれた。

 全校生徒が集まって、火を囲んだ。


 俺たち三人も、その輪の中にいた。

 炎が、夜空に向かって、ゆらゆらと立ち上っていた。


 美香が、俺の腕を取った。

 美紀が、反対側から少し距離を詰めた。


(……このいつもの配置が、今夜は、いつもより、近い気がする)


     *

 炎を見ながら、誰も、しばらく何も言わなかった。

 周りの生徒たちが、歌を歌ったり、笑い声を上げたりしていた。

 その喧騒の中で、三人だけの、静かな時間があった。


「博之」


 美香と美紀が、同時に、呼んだ。


 二人が、互いを見た。

 それから、少し笑った。


「……また同時に言った」

「……うん」


 二人が、おかしそうに笑い合った。

 俺も、つい、笑ってしまった。


(……この笑い方、双子だな、本当に)

(……でも、その笑顔の奥に、確かな何かが見えた)


     *

 笑いが収まった後、二人が、俺を見た。

 炎の明かりに照らされて、二人の顔が、オレンジ色に染まっていた。


「……ちゃんと、考える」


 俺は、言った。


 二人が、俺を見た。


「うん」

「……うん」


 二人が、同時に頷いた。


(……初めて、自分の意思を、はっきり言葉にした気がする)

(……『今は答えられない』ではなく、『考える』と、約束した)


     *

 炎が、ぱちぱちと音を立てていた。

 夜空に、火の粉が、ゆっくりと舞い上がっていった。


 美香が、俺の腕に、もう少しだけ力を込めた。

 美紀が、肩を、少し俺に寄せた。


 三人で、しばらく、炎を見ていた。

 何も言わなくても、何かが、確かに通じ合っている気がした。


     *

 後夜祭が終わって、三人で帰り道を歩いた。

 夜の校門を出ると、秋の冷たい風が、頬に当たった。


「今日、楽しかったね」


 美香が、伸びをしながら言った。


「うん」

「博之は?」

「楽しかった」


 美紀が、小さく頷いた。


 三人で並んで、夜道を歩いた。

 いつもの配置で、いつものように。

 でも、今夜は、確かに何かが違っていた。


     *

 桐島家と水瀬家の前に着いた。


「博之、また明日ね」

「ああ」

「……ちゃんと、考えてね」


 美香が、最後にもう一度、言った。


「考える」


 美紀も、何も言わずに、小さく頷いた。

 二人が、それぞれの家に入っていった。


     *

 俺は、一人、夜の道に残った。

 空を見上げた。

 星が、いくつか見えた。


(……ちゃんと、考える)

(……今日、そう言った)

(……でも、本当のことを言えば、もう、ほとんど答えは出ている気がする)


 まだ、言葉にしていないだけだった。

 言葉にすれば、何かが、決定的に変わる。

 その怖さが、まだ、俺の中に残っていた。


 でも、もう、逃げることはできない。

 美香も、美紀も、待っている。

 そして、俺自身も、もう、答えを出したいと思っている。


     *

 部屋に戻って、ベッドに横になった。

 今日一日のことを、何度も思い返した。


 美紀の真剣な横顔。

 美香の明るい笑顔。

「答え、出た?」「だよね」「でも、ちゃんと待ってるから」

「文化祭、楽しかった?」「そっか。……良かった」

「博之」と、同時に呼んだ、二人の声。

「……ちゃんと、考える」


(……この夏から、ずっと、考え続けてきた)

(……どちらも大切で、どちらも好きで、それでも、選ばなければならない時が来る)


 窓の外で、秋の虫の声が、静かに響いていた。

 夏は、もう、完全に終わっていた。


(……この冬が来る前に、答えを出す)

(……美香にも、美紀にも、誠実に)


 俺は、目を閉じた。

 その夜から、俺は、本気で、考え始めた。



◇ ◇ ◇


― 第十話「文化祭と、決められない僕と、笑う双子」 了 ―

次話:エピローグ「朝、また君がいた。──そして僕は、決める。」へ続く


お読みくださり有難うございます!!

この作品を気に入ってもらえましたら、下にある☆☆☆☆☆やブックマーク、スタンプで応援いただけると大変励みになります!!

読者の皆様からの応援が次へのモチベーションになります!!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。