9話 新たな出発
セトが居なくなってから三週間。
ノヴァは一人寂しく、ベッドの上で絵本を読んでいた。
「むかしむかし、一匹の灰色のオオカミがいました。
オオカミはいつも野菜や果物を食べ荒らしており、
農家さんたちは困り果てていました」
幼い頃から何百回と読んできた絵本。
表紙も色褪せており、ジュースやお菓子の染みが
ついている。ノヴァは破らないよう、そっとページを
めくった。
「ある日、少年が森の中でそのオオカミを見ました。
なんと、オオカミには子どもがいました。みんな、お腹が
減っているのか、ご飯をねだっているように見えます」
パラリとページをめくる。
「オオカミは子どもを巣に居る夫に任せ、一人で
農家さんの畑に向かいました。そして畑に辿り着いた
途端……オオカミは撃たれて死んでしまいました」
ノヴァは目を伏せ、最後のページをめくった。
「農家さんは言いました。『ここは人間が開拓した土地
だから、人間の土地だ。動物は森で暮らせ』と……」
この絵本には続きがある。
だが、幼いセトとノヴァが喧嘩をした時に破いてしまった
せいで、そこからのページが無い。それから二人はよく
この物語の続きを考えるようになった。
「人間が森を開拓したと言っても、ほんの少しだろ?
オオカミが畑に降りてきたのは何らかの原因で
森の食べ物が無くなったからだ。人間は悪くない」
「そのちょっとの開拓がオオカミ……いや、動物たちを
苦しめてるんだよ。人間はちゃんと動物のことを
考えないと!」
今まで、結末が同じになることは無かった。
思い返すと思わず口元が緩む。けれど、今はそんな話が
できる兄は居ない。部屋には静寂だけが広がっている。
「なにも、出て行くことないのに……早く帰ってきてよ、
兄さん……」
ノヴァは寂しさを紛らわすようにに立ち上がると、窓を
開けた。外は太陽が輝いており、心地よい爽やかな風が
吹いている。
「……よし、ソフィア女王に会いに行こう!」
思い立ったら、それ以外のことは考えない。
目的まで一直線に向かう。
「金貨十枚、銀貨五枚……」
机の上に硬貨を並べ、一枚ずつ数える。
「これぐらいあれば大丈夫かな。汽車の時間は分かんない
けど、何とかなるよね!」
荷物をまとめ終えると、ノヴァはそっと扉を開いて廊下を
覗いた。兵士の姿は見当たらない。
「よし、今のうちに行こう……!」
いつもはセトと一緒に汽車へ乗っていた。
しかし、今日は一人。キース王国まで辿り着けるのか、
ちゃんと帰って来れるのか……大きな不安を抱えたまま
ノヴァはキース王国への道のりを歩き始めた。




