10話 似たもの同士
「えーっと、駅はこっちだっけ?」
普段は城下町を馬車で通り過ぎることが多い。
だからいざ歩いてみると、見慣れているはずの景色が
別の町のように感じられる。
「……あれ?もしかして、アンゴルキア王の息子の
ノヴァさんじゃないですか?」
振り返ると、そこにはキャスケットを被った青年が
立っていた。
「うん……?」
「あっ、失礼しました。ボク、こういう者です」
彼は慣れた手つきでバッグから名刺を取り出し、手渡して
きた。
「リアン・レフティー……記者さんかぁ」
「はい!まだまだ新米ですけど、頑張ってます!」
人懐っこく、純粋な笑顔。
初対面なのにどこか親しみやすく、ノヴァは自然と
肩の力が抜けてしまった。
「リアンさんはどうしてここに?」
「ついこの前、アンゴルキア王が誰かと戦って重傷を
負ったって話を聞いたんです。その時のこと、詳しく
聞きたくって」
確かにアンゴルキアは誰かと戦っていた。
しかし、彼の体には傷一つ無かった。にも関わらず
一度目覚めたっきり、再び眠りについてしまった。
「……分からない。お父さん、一回起きたんだけど
それっきりずっと寝てるんです」
「そ、そうだったんですか……」
リアンは素早くメモを取った。
「だから今日は、気分転換にキース王国まで行くことに
したんです」
「へえ〜」
リアンは少しだけ考え込む。
彼と行動すれば、王家の人間しか知り得ない情報が
手に入るかもしれない。そう思った。
「良ければ、一緒に行ってもいいですか?ノヴァさんの
こと色々知りたいですし」
「う、うん!」
正直、一人で行くのは不安で寂しかった。
一緒に行ってくれる人が居るというのは心強い。
「ありがとうございます〜。それじゃ、向かいましょう」
二人は並んで駅へと歩き出した。道中、リアンが何気なく
尋ねる。
「ノヴァさんって、セトさんとは仲良いんですか?」
「はい!」
ノヴァは間髪入れずに答えた。
「いいですね〜。ボク、ひとりっ子なので兄弟が居る人が
羨ましくって……」
リアンは空を見上げ、微笑んだ。
「きっと、兄弟でしかできないことっていっぱいあると
思うんですよね」
「でも、一人になりたい時とかって部屋が同じだから
困るんです。年も近いから喧嘩するし……」
それを聞いたリアンはクスッと笑った。
「いいじゃないですか。喧嘩だって、相手が居ないと
できないことですよ〜」
「リアンさんって喧嘩したことあるんですか?」
「……これ、秘密ですよ?」
彼は人差し指を口に当てた。
「ボク、昔勤めてたところの編集長を殴ってクビになった
ことがあるんです」
「えっ!?リアンさんが……!?」
ノヴァは目を丸くする。
「いやね?編集長、ボクが女だから良い記事が書けない
って言ったんです」
リアンはカメラに視線を落とした。
「他の記者たちにも、パワハラやセクハラじみたことを
していました。それが見てられなくって……」
ノヴァは黙って彼の話に耳を傾けている。
「自分の拳が痛くなるほど殴りました。でもですね、
皆んなボクのことを止めるんです。編集長に逆らうな
って、編集長の言ってることは正しいって」
ーーあそこに居る人たちは、おかしくなっていたんです。
「結局、ボクは傷害罪で罰則を受けて仕事をクビになり、
編集長には何のお咎めも無し」
ノヴァは何と答えればいいのか分からなかった。
ただじっと、リアンの横顔を見つめることしかできなかった。
「……人のために行動したことが、自分に良いこととして
返ってくるとは限らない。社会とはそういうものなん
です」
そこまで言い終えると、彼……いや、彼女ははっと顔を上げた。
「す……すみません!ぜ、全員が編集長みたいな悪い大人
ってわけじゃないんです!」
「うん、分かってます。だけど、僕でもそういう人が
居たら殴っちゃうかも」
王族らしくない、率直で飾らない一言だった。
「いやいやいや!王子がそんなことしたら大変なことに
なりますって!」
「……いいんです。僕は自分の行動に後悔なんてしたく
ないから。正しいと思ったことをやりたい」




