8話 不思議な関係
それから、リアンは毎日のように洞窟を訪れるように
なった。
「今日もご飯、持ってきましたよ〜」
洞窟の入り口から、明るい声が聞こえる。
「……また来やがったのかァ」
ニートは岩にもたれかかりながら、ため息をついた。
「今日はですね、おにぎりとだし巻き玉子を持って
きました!」
リアン嬉しそうにバッグを開き、手作りの弁当を
差し出した。形は悪いが、食欲をそそる匂いが広がって
いる。
「寄越せ」
言い終わる前に、ニートは弁当をひったくった。
「いっぱい食べて、元気になってくださいね」
「……あァ」
適当に返事をすると、彼は箸も使わず素手で食べ始めた。
米粒をボロボロとこぼしながら、夢中で口に運ぶ。
「あっ、食べさせましょうか?」
「断る」
即答されてしまった。
数分後、弁当はあっという間に空になってしまった。
ニートは落ちた米粒まで拾って食べている。
「………美味かった。次も持ってこい」
彼は誰にも聞こえない声で呟いた。
「良かったです!何かリクエストがあれば、今度作って
きますよ〜」
「そんな暇があるなら仕事しろってんだ」
「あはは……」
リアンは照れ笑いして、頭を掻いた。
「実はボク、記者をやってるんです」
「記者だァ?」
ニートは怪訝そうに眉をひそめた。
「俺のことを記事にしようって思ってんのかぃ?」
「ち、違います!」
全力で首を横に振るリアンを見て、ニートは鼻で笑った。
「別に記事にしてくれて構わねぇぜ?俺は色んな国から
追われてる賞金首さァ。この場所を教えれば、多少の
金にはなるだろぉ」
そう言い終わった途端、ふっとリアンから笑みが消えた。
「ボク、お金が欲しくて記者になったわけじゃ
ありません」
彼はキャスケットを深く被り直す。
「ずっと探してるんです。命の恩人を」
「……続けろ」
「十年くらい前でしょうか。両親はボクを置いて旅行に
行ったっきり、帰って来なかったんです。捨てられたと
分かったのは、一ヶ月後でした」
両親に捨てられた………
平気な顔をして言っているが、平気なはずがない。
ニートはそれをよく分かっていた。
「家に残っていた物も食べ尽くし、ボクはふらっと
街の方へ出かけたんです。そしたら、変な人たちに
絡まれちゃって」
リアンは思い出すように俯く。
「売るとか殺すとか言ってるんです。剣とか突きつけられ
ちゃって……困ってたら、大きな赤い髪の人がやって
きたんです」
洞窟に静かな波の音だけが響いている。
ニートは珍しく、黙って話を聞き続けていた。
「その人が一言、邪魔だって言ったらあの人たち
みーんな逃げていったんです。でも、ボクはその赤い髪の人に
お礼が言えなかった」
リアンは大きく息を吸った。
「記者になれば色んなところに行けるから、いつかあの人と
会えるかなって……」
「馬鹿が。そいつがお前のことを覚えてるとは
限らねぇだろうが」
「それでもいいんです。お礼が言えれば、それだけで
満足ですから」
彼は寂しそうに笑ってみせた。
「……本当か?」
「えっ?そりゃそうですよ〜。あんな昔のこと、覚えてる
わけないですから」
どことなく、無理をしているような笑顔だった。
「はっ!俺は満足しねぇぜ?そいつから一言聞き出すまでは
ついていってやる」
「ス、ストーカーですよそれ!?でも……そうですね、
何か一言ぐらいは言って欲しいかもしれません」
リアンはバッグを持ち、勢いよく立ち上がった。
「ニートさんのおかげで、ちょっとだけ前向きに
なれました。ありがとうございます」
「……俺ァそろそろ寝る。とっとと行けよ」
そう言ったっきり、彼はいびきをかきながら眠って
しまった。




