7話 敗走
その頃、ニートはアンゴルキア王国とキース王国の国境
付近にある海辺の洞窟で身を潜めていた。
「あ〜……痛ぇなァ、こりゃ」
壁にもたれかかりながら苦笑する。
背骨、左腕、そして肋骨。吹き飛ばされた衝撃で何本もの
骨を折れ、擦り傷や切り傷が体中に刻まれていた。
何とかこの海辺の洞窟まで這ってきたが、しばらくは
動けそうにない。
「ま、痛みには慣れてるからなァ。大丈夫だろ」
そう言うと、串刺しにしたトカゲと蛇を焚き火の上に
かざした。どちらも普通の人間が食べるものではない。
だが、彼にとっては大切な食料だった。
「そろそろ水が欲しい所だが、この体じゃ盗れねぇか。
海水はなるべくなら飲みたくねぇが……」
その時、洞窟の入り口から足音がした。
「………誰だ?」
静かに刀に手を伸ばす。
「あっ、やっぱり誰か居た!」
ひょっこりとキャスケットを被った中性的な青年が
顔を出した。
「帰れ。それとも、殺されに来たのかァ?」
「ちょっ、ちょっと待ってください……!ボクは血の跡を
追ってきただけなんです!」
青年はそう言うと、肩から下げたバッグを開いた。
真新しい包帯と水が入っているのが見える。
「そのバッグを置いて下がれ。消えろ、目障りだ」
「その傷だと、ここまで来るのは難しいと思います」
青年はずんずんと洞窟の中に入ってくる。
ニートは終始、彼から目を離さなかった。
「あの……心配なので、傷を見てもいいですか」
「あァ?ふざけんな、失せろ」
誰にも触れられたくない、寄り添って欲しくない。
そんな感情が渦巻いていた。
「じゃあ……また明日来ますね。今度はご飯も持って
来ますから」
「うるせぇな。メシならそこにあるだろうが」
顎で焚き火にかかげているトカゲと蛇を示す。
それを見た青年は、少し困ったように笑ってみせた。
「そんなのじゃ栄養が足りなくて、怪我も治らないと
思いますけど……」
「お前の知ったことかよ。他人なんて
どうでもいいだろうが」
それは心からの言葉だった。
「でも、困った時はお互い様です。家族でも他人でも
関係ありません」
「はっ、綺麗事だなァ。吐き気がするぜ」
ニートは青年を帰らせる気で言った。
しかし、青年は笑ってキャスケットを被り直した。
「そうだ、まだ自己紹介してませんでしたっけ。ボクは
リアン・レフティーです。あなたの名前は何ですか?」
「……ニートでいい」
「そうですか。ちょっとの時間ですけど、よろしく
お願いします」
それから、リアンは慣れた手つきでニートの服を脱がせ始めた。
「これは……」
露わになった背中には、古い火傷や鞭の痕が数えきれない
ほどあった。
「おい。手ぇ止めんな」
「は、はい」
リアンは何も聞かず、黙って作業を続けた。
水で傷口を洗い流し、添え木を当てて包帯を巻いていく。
「……よし、これで応急処置はできました。あとは
お医者さんに診てもらってくださいね」
彼がが立ち上がり、荷物を持って歩き出そうとした時。
「ーーおい」
「ん、どうしました?」
ニートは焚き火で焼いていたトカゲの串刺しを持ち
上げた。
「食うか?」
「え、えーっと……遠慮しておきます」




