6話 はじめまして、お父さん
ーーさん。お父さんってば!
どこか懐かしく、温かい声がする。
「起きてよ、お父さん!」
「……っ」
重い瞼をゆっくりと開く。
ぼやけていた視界が少しずつ鮮明になった。
「あっ、兄さん!お父さん、目が覚めたよ!」
「本当か……!」
セトは淹れかけていたコーヒーを机へ置き、急いでベッドへ駆け寄る。
「お前たちは………」
体を起こそうとすると、ノヴァが慌てて肩を押さえた。
「ダメ!まだ寝てて!」
「……大丈夫だ。心配をかけたな」
その声はいつものように穏やかだった。でも、どこか弱々しかった。
「それより、お前たちこそ無事なのか。奴に何かされて
いないか?」
「えっ、何の話?」
困惑するノヴァの隣で、セトは目を伏せた。
「やはり、今まで俺たちと話していたのは別人だったんですね」
「えっ!も、もしかして本当に……」
アンゴルキアの中に別人が居る。
聞いてはいたが、ノヴァは半ば信じていなかった。
「気づいていたのか」
「はい。それを知ったのは偶然でしたが……」
しばらく沈黙があった。
やがて、アンゴルキアは二人から視線を外して呟いた。
「……すまなかった。あの時、私が奴をしっかり
封印していればこうはならなかった」
「ねえ、お父さん」
ノヴァが聞きづらそうに尋ねる。
「奴って誰のこと?」
「……暴君、ヴァルグリアスだ」
「ヴァルグリアス!?」
セトとノヴァはゴクリと唾を飲み込んだ。
「ヴァルグリアスって、世界を滅ぼしかけたっていう……?」
アンゴルキアは頷いた。
「私は千年前、奴の魂を封印するのに失敗した。
それ以来、意識はあるが体を動かすことはほとんど
できなくなってしまった」
視線が部屋の隅へ向く。
そこには、一枚の写真が飾られていた。ヴァルグリアスに
乗っ取られた自分と優しく微笑んでいる妻。
そして、幼いセトとノヴァ。
「お前たちが生まれた時も、妻が亡くなった日も、私は
ただ見ていることしかできなかった」
アンゴルキアは唇を強く噛み締める。
「正直、お前たちとはこれからどう付き合えばいいのか
分からない。お前たちは……私の息子ではないのだから」
「何を……」
セトの拳が震える。
「何を言っているんですか」
その声には悲しみと怒りが滲んでいた。
「子供には、必ず親が居ます。あなたが俺たちの父親
ではないと言うのなら……俺もあなたを父親だとは
認めない」
「それはーー」
「あなたが乗っ取られていると分かった日から、
俺は本当の父親と話せることをずっと
楽しみにしていた」
セトは淡々と続ける。
「それなのに、あなたは俺を……俺たちを否定した」
アンゴルキアは言葉が見つからなかった。
「セト、私はーー」
「言い訳は聞きたくありません。失礼します」
セトは一礼し、足早に部屋から出ていった。
「……ノヴァ。悪いが、少し一人にしてくれないか」
「う、うん。また来るね」
ノヴァは扉の前まで行き、ふと足を止めた。
こういう時、ヴァルグリアスなら黙って頭を撫でて
くれる。だが、彼は本当の父親ではない。
「……なんか、モヤモヤする」
胸の奥に言い表せない寂しさを感じながら、部屋を後にした。




