4話 獣と化け物
「ーーおいおい」
赤髪の男はつまらなそうに小石を蹴り飛ばした。
「キース王国の兵士ってのは、こんなに弱ぇのかよ」
彼の手には血の滴った刀が握られている。
周囲には兵士たちが倒れており、折れた武器が散乱している。
「つまんねぇなァ。これ以上、俺を退屈させんなよ」
「……あなたは」
薄桃色の髪の女性ーーソフィアは、一歩も退かずに言った。
「退屈しのぎに、私たちを襲ったのですか?」
「あァそうさ」
男は笑った。
「お前だって、退屈しのぎに何かするだろ?
それと同じだ」
「いいえ」
ソフィアは間髪入れずに否定した。
「退屈だからと言って、何でもしていいわけではありません」
彼女の視線は男ではなく、倒れている兵士たちに向いていた。
息はある。今ならまだ間に合うかもしれない。
「用が無いのなら速やかに去ってください」
「ほぉん、兵士は弱っちぃが女王は強そうじゃねぇかァ」
彼は心底嬉しそうに笑っている。
「けどま、戦う気が無ぇならこのまま……」
その時だった。
「ソフィア女王!」
すぐ近くで馬の駆ける音が響いた。
「アンゴルキア王……!」
「何だァ……?」
アンゴルキア率いる兵士たちが駆けつけ、瞬く間に
男を取り囲んだ。
「……チッ、良いところだったのに邪魔すんなよ」
アンゴルキアは辺りを見渡し、即座に理解した。
この男はただ者ではないと。
「ここは私が引き受けよう。貴様らは倒れている兵士を
病院に運べ。それと、ソフィア女王を城にお連れしろ」
「で、ですが……!」
兵士たちは顔を見合わせた。
「はは、次はお前らが相手になってくれんの
かぃ?」
目の前の男から発される獣のような殺気と威圧感。
誰もが、本能的に危機を感じていた。
「こんな化け物と戦えば王が……」
「私を誰だと思っている?早く行け。後から必ず追いつく」
兵士たちは深々とお辞儀をした。
「………ソフィア女王、こちらへ!」
馬車へソフィアが案内される。乗る直前、彼女は振り返った。
「アンゴルキア王。どうか、ご無事で」
「心配するな。すぐ終わる」
やがて馬車は走り去り、兵士たちの姿も見えなくなった。
ここにはもう、一国の王と血に飢えた獣しか居ない。
「……さて、貴様は何者だ?ただの盗賊や山賊では
無さそうだが」
「俺かァ?お前が一番知ってるだろうが」
アンゴルキアは少し考え込んだ。
赤髪、サングラス。そしてこの異常な強さ………
「すまんが、分からんな」
「まァ、そう言うと思ったぜ」
男は刀を左手に持ち替えた。
「……俺が殺したいのはお前じゃねぇ、
アークライト・アンゴルキアだからなァ」
ピクリとアンゴルキアの眉が動く。
「アークライトは私だが?」
「確かに嘘は言ってねぇなァ。確かにアークライトだ」
男はサングラスを少し上げた。黄色い鋭い瞳が覗く。
「けどよぉ、喋ってんのは別の奴だろ?他の奴は騙せても、俺は騙せねぇぜ?」
空気が凍りついた。そしてその数秒後。
「クッ、クククク……フハハハハハ!」
アンゴルキアは腹を抱えて笑った。王の気品など微塵も感じられない。
「鋭い男だな。なぜ分かった?」
「ははっ、人よりも気配に敏感でなァ。分かるんだよ」
ーー俺と同じ、血の匂いがする。
「ククッ。我々は似た者同士というわけか」
「かもしれねぇなァ、仲良くする気はねぇが」
木々がざわつき始める。
「……で、やるかぃ?」
「久しぶりの運動か。悪くない」
アンゴルキアは口元を歪め、剣を抜いた。
「楽しませてもらおう、赤髪の青年」
「ニートだ。覚えときなァ、王サマもどき」




