22話 兄
「……ゲホッ、ゲホッ」
ノヴァが眠りについている頃、セトはキース王国から
三十キロ離れた砂漠の国で探し物をしていた。
この国はとてつもない暑さのため、夜が住民の活動時間に
なっている。
「すみません、この国の国王はどこにいらっしゃい
ますか?」
「知らね。よそ者は帰ってくんろ」
面倒そうに言った後、女性は家の中へ入ってしまった。
「またか……」
国とつくからには必ず国王が居る。
だが城らしき建物は見当たらず、住民に尋ねても誰一人として
場所を教えようとしない。
「……何か秘密があるのか、それとも国王なんて存在
しないのか。どちらにせよ今日中は難しいそうだな」
セトは眠気で重くなった目を擦りながら、辺りを見回す。
どれも似たようなレンガ造りの建物で、どれが宿屋なのかちっとも分からない。
「とりあえず、宿は欲しいんだが……」
「ねぇ、そこの君」
振り返ると、口元に笑みを浮かべた不思議な雰囲気の
青年が立っていた。年齢は二十代前半ほどだろうか。
「この国の人じゃないだろ?こんな夜中に出歩いて……
泊まるところはあるのかい?」
突然声をかけられたせいで驚いてしまい、セトは首を横に
振ることしかできなかった。
「そうなんだ。じゃあ、オレの家に泊まっていきなよ。
今日は家族が出かけてるからさ」
青年は迷いなくセトの手を引いた。
「まっ、待て。本当にいいのか……?」
「もちろん。誰も居なくて寂しかったんだ」
この暑さだというのに、彼の手はなぜか冷え切っていた。
よく見ると、両手とも茶色い革手袋をはめている。
「はぐれないように、ちゃんとオレの手を握っててね」
「俺はそんなに子供じゃない……!」
セトはムッとして手を振り払った。
「あはは。オレからしたら子供だよ」
青年は楽しそうにセトの頭をぽんぽんと撫でた。
「……懐かしいなぁ。君を見てると妹を思い出すよ」
「妹?」
「ああ。双子の妹が居るんだけどね、幼い頃に生き別れ
ちゃったんだ」
彼は露店を眺めながら、寂しそうに続ける。
「オレの家、一応この国の貴族なんだけどね。
家を継げるのは男だけって決まりがあってさ、女は
要らないって、妹だけ適当な家の養子にされたんだ」
「そうなのか……」
アンゴルキア王国やキース王国は、男女問わず家を
継ぐことができる。
「国が違えば、風習も違うものなのか」
「……君、意外と詳しそうだね?」
青年は感心したように微笑んだ。
「当然だ。俺はアンゴルキア王国の王子だからな」
「あはは、可愛い冗談だね〜」
アンゴルキア王国の王子、セトとノヴァは顔も名前も
他国ではよく知られている存在だ。二人を知らないというのは珍しい。
「……ところで君は、どうしてこんな辺鄙な国に来たのかな」
「『戒めの体』の一つがこの国にあると聞いてな。
お前、貴族なんだろ?何か知らないか」
かつてアンゴルキアがヴァルグリアスを封印した際、
その肉体を五つに分けて世界に散らばらせた。それが
『戒めの体』。一つでも所有していると、富と名声が手に入ると
言われている。
「ふふ……そうだね、教えてあげてもいいかな」
「ほ、本当か!」
セトは顔を上げ、青年の方を見た。
「その代わり、明日一日だけオレの弟になってよ」
「なっ……!?」
「断っても構わない。でもさ」
青年はゆっくりとセトの顔に近づいた。
「今日の宿代、そして戒めの体の情報もタダって
わけにはいかないだろ?オレも見返りが欲しいんだ」
怪しい。
今まで話したことのある奴の中で、一番怪しい。
だが、他に手がかりはない。
「……分かった。だが約束は守ってくれ」
「もちろん。そうだ、まだ名乗ってなかったね。
オレはフェンリル。フェンリル・レフティー。
よろしく」
「セト・アンゴルキアだ。セトでいい」




