23話 氷像のお屋敷
大通りから少し外れたところにフェンリルの屋敷は
あった。周囲の屋敷よりも一回り広い敷地で、高い塀の
向こうには白い大きな屋敷が佇んでいる。
「……ん?」
屋敷の扉の両脇に男と女の氷像が左右対称に置かれている。
「あの氷像、あんなところに置いてたら溶けるんじゃないのか」
「ふふ、面白いことを聞くね……」
フェンリルはくすりと笑った。
「溶けないから、溶けるようにあそこに置いてるんだよ」
よく見ると、氷像は至るところに飾られていた。
人や動物、植物……どれも精巧に作られていて、今にも
動き出しそうだ。
「触ってみるかい?」
「いや、俺の手垢がつくだろ。見てるだけでいい」
幼い頃、セトは珍しい壺を素手で触ってアンゴルキアに
叱られたことがある。それ以来、触られてもいいと
言われても触らなくなってしまった。
「にしても、こんな大きな屋敷なのに使用人の一人も
居ないのか?」
「あぁ、今日は皆んな他の貴族たちのところへ行ってるんだ。
この国じゃ、使用人が複数の貴族に仕えてることは珍しくないんだよ」
「へぇ、そうなのか。知らなかったな」
セトは感心したように頷いた。
「……さ、そろそろ中に入ろう。家は冷房が効いていて涼しいよ」
フェンリルはゆっくりと扉を開けた。
「ようこそ、オレの家へ。遠慮せずゆっくりしていって」
扉が開いた瞬間、中からひんやりとした空気が流れてきた。
「寒くない?」
「大丈夫だ。丁度いい」
屋敷の中にも外と同じような氷像が飾られていた。
「ずっと思ってたんだが、この氷像は誰が作ったんだ?」
「……さあ、誰だろうね。オレが生まれた時にはもう
あったよ」
彫られた年月日も作者名も書かれていない。
これほどの作品を作れるというのに、なぜ名を残さなかったのだろうか。
「こっちがオレの部屋だよ。ちゃんとついてきてね」
フェンリルは何事もなかったように歩き始める。
「待て、来客用の部屋はないのか」
「あるけど、一人で寝れるのかい?」
「……あのな」
セトは軽くフェンリルを睨みつけた。
「俺はもう十五だ。子どもじゃない」
「ううん。十分、子どもだよ」
彼は微笑みながら振り返った。
「どうしてそんなに大人に見られたいのかな。子どもの方が何かと便利だろ?」
「……ダメだ。子供じゃダメなんだ」
声がどんどん小さくなっていく。
セトはそれを隠すように拳を握りしめた。
「早く大人にならないと、アイツを守ってやれないから……」
「アイツ?」
フェンリルの声ですぐさまセトは顔を上げた。
「何でもない。というか、俺の話なんていいだろ。
「……そっか。言いたくないってことだね。それなら、
無理には聞かないよ」
それ以上は何も尋ねてこなかった。
二人はお互いに無言のまま廊下を歩き、一番奥の部屋で
立ち止まった。
「ここがオレの部屋。ついこの前、掃除したばかりだから
大丈夫なはず」
彼はそう言いながら扉を開けた。
中は広々としていて、大きなダブルベッドがあった。
天井まで届きそうな本棚がいくつも置かれており、
小さな図書館のようだ。
「本は好きに読んでくれて構わないけど……今日は
遅いし、お風呂に入ったら寝た方がいいかも」
「ゲホッゴホッ……」
セトは口元を押さえ、軽く咳き込んだ。
「おや、風邪かい?」
「……いや。シャワー室、借りてもいいか」
「ああ、シャワー室はそこの洗面所の隣だよ。
タオルとかもいっぱいあるから、自由に使ってくれ」




