21話 山小屋にて
コツンと小石が窓に当たる音がした。
「……ん」
「すみません、起こしてしまいましたか」
兵士の声に、ノヴァはぼーっとした頭のままキョロキョロと馬車の中を見渡した。
「あのおじさんはどこ……?」
「おじさん?誰のことでしょうか」
兵士が首を傾げるのを見て、ノヴァはようやく理解した。
「……なーんだ、夢だったんだ」
あまりにも鮮明で、本当に誰かと過ごした記憶のような夢だった。
「変な夢だったなぁ。またあのおじさんと会いたいや」
ふと窓の外へ目をやると、夕日が真っ白な大地を赤く
染め上げていた。
それから一時間ほどして、馬車はゆっくりと止まった。
「着きました。ここが、ファレンスへ続く山の麓になります」
「わーい!ふっかふかだ〜!」
ノヴァは馬車から飛び降り、ふかふかの雪を何度も踏み締めた。
「ここまで送ってくれてありがとね!」
「はい。王子こそ気をつけて。失礼いたします」
兵士は軽く会釈すると、馬車をキース王国へ走らせていった。
「……それにしても、かなり寒いなぁ」
まだ雪は降っていないものの、空は曇っていて今にも
降り出しそうだった。
「夜の雪山を登るのは危ないだろうし、今日はこの辺で
休んだ方が良さそうかも」
どこかに泊まれそうな場所がないか探してみると、
ポツンと明かりのついた小屋が目に留まった。
「……あそこで泊めてもらえないかな」
ノヴァは雪を踏み締めながら歩き出した。
距離は遠くないはずなのに、やけに遠くに感じる。
「断られたらどうしよう……いや、何とかして泊めて
もらわなきゃ」
何とか玄関まで着いた彼は、力強く扉をノックした。
「すみませーん。誰か居ませんか〜?」
数十秒後、ガチャリとドアノブを回す音がして中から老夫婦が顔を出した。
「えっ、えーっと……色々あって今晩ここに泊めて欲しいんですけど……」
老夫婦は顔を見合わせると、笑顔で頷いた。
「い、いいんですか?ありがとうございます!」
それから老夫婦は色んなことをしてくれた。
毛布を用意してくれたり、ココアを用意してくれたり、
温かくて美味しいシチューを作ってくれたり……
まるで、家族のようにもてなしてくれた。
「色々とありがとうございました。これ、お礼です。
良かったら受け取ってください」
ノヴァは銀貨を二枚取り出し、机の前に置いた。
「これしか持ってなくて……もっと良いもの持ってくれば
良かったかな」
老夫婦はしばらく銀貨を見つめていた。
やがて小さく首を横に振り、銀貨をそっとノヴァの前へ
押し返した。
「い、要らないんですか……?」
老夫婦は静かに頷く。
「そっか……分かりました」
外ではいつの間にかしんしんと雪が降り始めている。
あと一歩遅ければ、吹雪に巻き込まれていたかもしれない。
「……っと、もうこんな時間か。じゃあ僕、先に
寝させてもらいますね」
ノヴァは老夫婦に頭を下げた後、二階へ上がってすぐさま
二人が用意してくれた布団へ潜り込んだ。
一日の疲れがどっと押し寄せてくる。
彼はそれに逆らうことなく、眠りについた。




