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2話 プレゼント


翌日の朝。


コンコン。

静かな部屋に、扉を叩く音が響いた。


「……ん?」


セトは読んでいた本を閉じ、机の上に置いて扉へ向かった。


「はい」


扉を開けた瞬間、彼は思わず息を呑んだ。


「ア、アンゴルキア王……!?」


「フッ、今日は珍しく起きているではないか」


アンゴルキアは軽く笑うと、そのまま部屋の中を見回した。


「ノヴァはどうした?」


「ああ……ついさっき、出かけました」


ノヴァの日課は散歩をすること。

時間を決めずに気の向くまま歩き、いつの間にか帰ってくる。


「そうか。今日の昼にソフィア女王と会食をする予定だ。

 ノヴァにも来るように伝えておいてくれんか」


ソフィア女王。

彼女は隣国、キース王国を治める若き女王だ。

アンゴルキアとの仲は良好で、よく一緒に食事をしている。


「分かりました、伝えておきます」


「任せたぞ」


そう言って、踵を返しかけたアンゴルキアだったが……


「一つ、聞かせてくれ」


ピタリと足を止めた。


「何ですか?」


「最近、図書室に居ることが多くなっただろう」


ふっと、アンゴルキアから笑みが消える。


「何を調べている?」


「そ、それは……」


セトは咄嗟に目を逸らした。

あなたのことを調べているだなんて、口が裂けても言えない。


「よく聞け。世の中には知らなくてもいいことが

 いくつもある」


アンゴルキアはそっとセトの頭に手を置いた。


「知識こそ力かもしれん。だが、あまり知ろうとするな。

 知って後悔することなど数えきれないほどある」


その声音は優しさに満ちていた。

王としてではなく、一人の父親として息子を諭している。

そんな口調だった。


「……確かにそうかもしれない」


セトはゆっくりと顔を上げる。


「でも俺は、知らずに後悔する方が嫌です」


「フッ……貴様らしい答えだな。しかし、無理はするな」


その言葉に嘘偽りは感じられなかった。

本気で自分を心配してくれている。それが分かってしまうからこそ、

セトの心は揺れる。

 

「とうさ………いや、アンゴルキア王」


彼は自分の気持ちを押し込めながら言った。


「楽しみですね、ソフィア女王との会食」


「ククッ、彼女と会うのは三ヶ月ぶりだからな。話すのが楽しみだ」


アンゴルキアはそう言うと、穏やかな笑みを浮かべたまま

去っていった。その背中を見送りながら、セトは小さく呟く。


「……ソフィア女王と会食か。ノヴァのやつ、喜ぶだろうな」


ノヴァは密かにソフィアへ好意を寄せている。

会うたびに嬉しそうに話し、花束や小物を贈っていた。

本人は隠しているつもりらしいが、周囲にはほとんどバレている。


「早く教えてやらなきゃな。どうせ、またいつものパン屋に居るだろう」


セトは黒いロングコートを羽織ると、城を出て城下町へ歩いていった。


「いらっしゃい!ピザ、できたてだよ〜!」


「今買うとお買い得ですよ!ぜひ見てってくださーい!」


今日も町は活気に満ちている。

子供たちが元気に走り回り、商人たちの威勢のいい声が響いている。


その時、見慣れたシルエットが目に留まった。

茶髪でくせ毛、そしてグレーのロングコート。間違いなくノヴァだ。


「……やっぱり居たか」 


そこはいつものパン屋だった。

店先まで漂ってくるパンの香りに吸い寄せられるように

人が入っていく。セトも木製の扉を開け、中へ入った。


「いらっしゃいませ〜」


オレンジ色の優しい照明に照らされた店内は、焼きたての

パンの香りと客たちの話し声で満ちていた。棚には色々な種類のパンが

所狭しと並んでおり、どれも美味しそうに輝いている。

 

「う〜ん。クリームパンもいいけど、カレーパンも

 いいなぁ」


「ノヴァ」


「うわっ!」


ノヴァは肩を震わせて振り返った。


「に、兄さん!?何でここに………」


「アンゴルキア王からの伝言でな。今日の昼に

 ソフィア女王と会食があるそうだ」


「えっ!ホント!?」


ノヴァは店内に響き渡るほどの声を上げた。


「やったー!じゃあ、何かプレゼント持ってかないと!

 今回は何にしようかな〜」


「あまり買いすぎるなよ」


「分かってるよ。でもここのパン、どれも美味しいから

 いっぱい食べてもらいたんだよね」


それから数十分。二人で悩み、紙袋いっぱいのパンを買い込んだ。


「早く会いたいなぁ、ソフィア女王」


「ああ、元気にしてるといいな」

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