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14話 キース王国


「まもなく終点です。お降りの際はお忘れ物、落とし物のないようご注意ください」


アナウンスと共に汽車はゆっくりとブレーキをかけはじめ、

やがてホームに停車した。


「着いたー!」


「着きましたね〜」


ホームへ降りた瞬間、心地よい海風が二人の頬を撫でた。


「安いよ安いよ〜!」


「早く買わないと売り切れるよー!」


商人たちの威勢のいい声と、市場の賑やかさがここまで伝わってくる。


「今は時間的に昼市ですかね?」


「売り切れる前に、行きましょう!」


言い終わる前に、ノヴァは市場へ走り出していた。


「早っ!待ってくださいよ、ノヴァさ〜ん!」


彼女は懸命にノヴァを追いかけたが、人混みに飲み込まれて

しまい、すぐに見失ってしまった。


「しまった……あの子、一人で大丈夫かな」


「おっ、そこの(あん)さん!」


突然、露店の店主が大声で呼びかけてきた。


「珍しい毛皮のコート、買っていかない!?」


「……はぁ、そんな気分じゃないけどな」


リアンは大きくため息を吐き、渋々振り返った。


「コートじゃなくて、涼しい服とかありませんかね?」


「おう、もちろんだ!たくさん見てってくれよ!」


その頃ノヴァは、リアンから少し離れた場所で

一軒一軒じっくりと眺めながら歩いていた。どの店も普通の店では

売っていなさそうな品が並んでいる。


「なんか良さげな物ないかなぁ」


五月も中旬。今、羽織っているコートでは暑い。

新しい服を買おうと思いながらも、先延ばしにしていた。


「うーん……」


「なあ、アンタ」


正面から低い声が飛んできた。


「ひょっとして、アンゴルキア王国の王子じゃないか?」


ノヴァは、ぱっと顔を上げ店主を見る。


「うん。そうだよ」


「そうかあ、遠いところからよく来てくれたなあ」


店主は豪快に笑うと、辺りを見渡した。


「護衛が見当たらないが、大丈夫なのか?」


「あ〜……まぁ、大丈夫だと思う。この国に悪い人は

 居ないだろうから」


そう言うと、ノヴァは再び商品へ視線を落とした。


「……それがな。最近、北の街の盗賊たちがこの辺で暴れてんだ。

 ソフィア女王も手を焼いてる」


「北の街って、ファレンスのこと?」


キース王国の遥か北……標高五百メートルを超える雪山の

頂上にある街、ファレンス。一年中雪が降り積もり、外界との交流は

ほとんどない。実在を疑っている者が居るほどの、謎に包まれた土地だった。


「分かった。これからソフィア女王に会いに行く予定だから、

 できることがないか聞いてみる」


「すまねぇ、ありがとなノヴァ王子」


「いいよいいよ、気にしないで」


ノヴァは笑顔で手を振ると、そのまま城へ向かった。


「すみません」


城門の前で、一人の兵士に声をかけた。

すると、彼はぎょっとした顔でこちらを見下ろした。


「あ、あなたはノヴァ王子……!?」


「ファレンスの盗賊について、ソフィア女王と話したくって……いいですか?」


「少々お待ちください!」


大急ぎで兵士は城内に入っていった。

そのおよそ数分後。


「ノヴァさ〜ん、置いていかないでくださいよ〜!」


後ろから、リアンが息を切らしながら駆け寄ってきた。

 

「えへへ、すみません。市場を見てたらテンション上がっちゃって」


「心配したんですからね……それで、今は何をしてるんですか?」


「兵士さんが、ソフィア女王を呼びに行ってくれてるんです。

 もう少ししたら帰ってくると思いますけど……」


そう話していると、城門が静かに開いた。二人の兵士と共に、

見慣れた薄桃色の髪の女性が城の中から現れる。


「ソフィア女王……!」


「お久しぶりです、ノヴァさん」


ソフィア女王は微笑みながら、ノヴァたちの方へ歩み寄る。

その姿を見たリアンは思わず息を呑んだ。


「……驚いた、写真とは比べ物にならないほど美人さんですね」


「あら?あなたは……」


「おっと、失礼しました」


リアンは慣れた手つきで名刺を差し出す。


「記者のリアン・レフティーです。よろしくお願いします」


「リアンさんですね。こちらこそよろしくお願いいたします」


ソフィアは名刺を丁寧に受け取ると、一礼した。


「そうだ。今日は城内にお医者様がいらしていますよ」


「……お医者さん?」


ノヴァはあからさまに嫌そうな顔をした。


「ええ。世界中を旅している方で、不死になる病について

 研究されているそうです」


「へえ〜、そんな病気初めて聞きました。ぜひ取材したいですね」


リアンはメモ帳とペンを取り出し、いつでも書けるように準備した。

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