12話 食い意地が張っている男
食事をしている間にも、汽車は何度か停車した。
国境付近に住んでいる人は少なく、人の乗り降りは
ほとんどない。そんなことを思っていた時だった。
「なっ……!?」
汽車が駅に停車した瞬間、ノヴァは今まで感じたことの
ないような恐怖を感じた。本能的に体が逃げたいと
叫んでいる。
「リ、リアンさん。僕から離れないでください……!」
「え?どういうことですか?」
やがて扉が開き、一人の男が入ってきた。
「………あァ、ここか」
低く、気だるそうな声が響く。
赤い髪の男がのっしのっしと入ってきた。その異様な気配に気づいた
乗客たちはそそくさと席を立ち、男から距離を取った。
「な、何あの人……」
ノヴァの手がわずかに震えている。不思議に思ったリアンが男へ視線を向けた。
「あっ、ニートさん!」
「よぉ……さっきぶりじゃねぇか」
男は音もなく歩いてくると、リアンの隣にどっかりと座った。
「紹介します。えーっと、この人はボクの……」
「今から死ぬ奴に、紹介はいらねえ」
そう言うなり、木製の机の上へ乱暴に足を乗せ、刀の先をノヴァに
突きつけた。
「っ……!」
ノヴァは目を見開き、軽くのけぞった。
「ちょっとニートさん、止めてください!傷口が開いて
しまいます!」
「ごちゃごちゃうるせぇな……お前から
殺っちまってもいいんだぜ?」
空気が凍りついた。乗客たちは目を合わせようとせず、声を上げなかった。
いや、上げられなかった。口を開けば殺される。それが分かっていたからだ。
「……何で」
ノヴァが沈黙を破る。
「何で僕を殺そうとするんだ。僕が君に何をしたって言うんだ」
彼は目に涙を滲ませながらも、ニートから目を逸らさなかった。
「お前……アークライトの息子だろぉ?
数年経てば、アンゴルキア王国の王になる」
「それが何だって言うんだ」
「………腹立つんだよ、アークライトもそのガキもな!」
右手でぐっとノヴァの喉を押さえ、刀を突き立てようとした瞬間。
「ニートさん!」
リアンは自分の弁当からハンバーグを掴み、そのままニートの口へ押し込んだ。
「んぐっ……!?」
突然のことに、思わず彼は動きを止めた。
「落ち着いてください」
「お前………!」
しばらく二人は無言で睨み合っていた。
少しすると、ニートは舌打ちをして刀を納めた。
「……チッ、もういい。萎えちまった」
「は、はあ?」
困惑しているリアンをよそに、ニートは硬直しているノヴァの弁当を
手に取り、がっつき始めた。
「あっ!それ、ノヴァさんのですよ!」
「このガキにお前の弁当はもったいねぇ」
彼は流し込むようにして弁当を食べていく。
弁当が完食された時、ようやくノヴァは我に返った。
「い、生きてる……」
「すみません、ノヴァさん……大丈夫ですか?」
「……生きた心地がしないけど、とりあえず大丈夫です」
ノヴァは安堵の息を吐いた。
「それより、ニートさん。どうしてノヴァさんを殺そうと
したんですか?」
「言ったろ、腹立つからだって。それ以上でも以下でも
ねぇよ」
ぶっきらぼうにそう言うと、彼は空の弁当箱を置いて窓を開けた。
「な、何してるの!?」
ノヴァが目を丸くする。
ニートは平然と窓枠に足をかけ、今にも飛び降りそうだ。
「もう用は済んだからなァ、帰る」
「危ないですって!その怪我で降りたら、本当に死んで
しまいます!」
すると、彼はくるりと振り向いて言った。
その黄色い瞳には、一片の迷いもない。
「……死なねぇぜ?俺は。俺は最期まで俺を貫く」
その時、ニートは迷いなく窓から身を投げた。
「ニートさん!」
「ははっ、はははははっ!」
草むらを何転がりながらも、彼は笑い続ける。
その狂ったような笑い声だけが辺り一帯に響き渡っていた。




