第42話 勇者(三)
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第42話 勇者(三)
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「なあ、時間軸がおかしくないか? なんで俺が死んだ後七六年も生きた椎名が、俺と同じ年齢で転生してるんだよ?」
「そこについては、神様も大変だと言ってました。ただ、向こうとこっちは存在する空間自体が違い、流れている時間も違うらしいので帳尻を合わせてくれると言ってましたよ」
「なんでもありだな」
「そのおかげで私は先輩にまた出会えました。先輩、あの時は本当にありがとうございました。そして、これからよろしくお願いします」
「なんだか、嫁入りのようだな。ハハハ」
「私はそのつもりでいますけど?」
「ハハ……はい?」
笑っていたら、とても大事なことを聞いたような?
「先輩に助けられた命と体を、他の男に触らせるようなことはしませんでしたよ。私」
「えーっと……それは独身を通したってことか?」
「はい。一〇〇歳で処女でした」
「そ、そうか……」
処女とか聞いてないし!
俺のせいで椎名は結婚もしなかったと思うと、とても悪いことをしたような気になってしまうじゃないか。
「三〇歳で童貞だと魔法使いになれると聞いたことがありますが、一〇〇歳で処女の私はその三倍の大魔法使いですよ。フフフ」
まあ、勇者の条件が、才能レベル八以上の属性を三つ持つことだからな。才能は高いんだろうさ。
「てか、お前、勇者だろ」
「そうなんですよ。賢者とか大魔法使いとかになると思っていたのに、なんで勇者なんですか? 勇者は先輩のはずなんですけど?」
「俺は勇者じゃないぞ。それに俺は無属性と特殊はレベル六だが、それ以外は各属性のレベルは三しかないから、魔王なんかと戦えないからな」
「先輩の各属性レベルは圧倒的だと聞いていたのですが、なんでそんなに低いのか分からないです。でも、神様から聞いた先輩の特殊属性があれば大丈夫じゃないですかね」
「俺の特殊属性のことを知っているのか」
なんで俺が知らないことを、椎名が知っているんだよ!?
「はい。先輩の特殊属性は『強化』ですよ」
「強化だと……?」
なんの溜めもなく、さらっと言ったね、君。
「他の属性の才能をレベル六分上昇させると聞きました」
「なんだそれ? それだと才能の意味がないだろ」
「ええ、反則です。チートですね」
「チートねぇ……。たしかにそれはチートだと思うが、そもそも俺の才能レベルは低いのだから、その神様というのは嘘を教えたんじゃないか?」
「そうは思いたくないですが……もしかしたら、六歳で記憶が戻ったことが弊害になっているのではないでしょうか」
「……その可能性はありうるが、確認のしようがないな」
「神殿で祈ってみたらどうですか? 私には時々答えてくれると言ってましたよ」
「神様に祈るだと? 神殿で祈れば、神と会話ができるのか?」
「そう聞きましたよ……?」
才能レベルを強化するのが本当なら面白いが、本当だとは思えないんだよなぁ。
「それに、魔王ってなんだよ。俺の思考回路はオーバーヒートだぞ」
「魔王についても神様から聞いていますよ」
「また神様か。いったい、今度は何を聞いたんだ」
「そう、神様を毛嫌いしないでください。こうやって私を先輩に会わせてくださったのですから」
「そう……だな。で、何を聞いたんだ?」
少なくとも椎名の記憶は神の言うように戻った。
俺のことは、本当に落馬のせいでイレギュラーなことが起きたのかもしれないな。
「この世界の文明は一度滅んでいるって知ってます?」
「いや、知らないな」
いきなり重大なことをぶっ込んでくるな。
「人々は魔王によって絶滅寸前に追い込まれながらもなんとか魔王を倒したようですが、文明を維持できるだけの人がいなかったようで、文明は一度滅んだと神様が言ってました」
「わずかに残った人が、数を増やし、そしてここまで文明を再興したということか」
「その通りです」
なんともヘビーな話だ。
魔王というのは、人を殺戮するのが趣味なのか?
嫌なことを聞いてしまったよ。
「ですから、この世界には古代文明の遺跡があるのです」
「その遺跡がどうした?」
「遺跡といったらお宝じゃないですか!」
「お前は小説の読みすぎだ」
「何言っているんですか、これは神様情報ですから間違いないですよ!」
「そんなことまで教えてくれたのか」
「長いこと先輩のことを思っていた私へのご褒美です」
「……そうか。そうだな、七六年も後ろ向きの生活をしてきたんだ、もう十分だ。これからは前だけ向いて生きていけばいい」
「はい。先輩とずっと一緒に生きていきます!」
「お、おぅ……。最後に三つ、聞いておくことがある」
「なんでしょうか」
「一つめは、魔王はいつ現れるんだ?」
「分かりませんが、私たちが三〇歳になるまでには現れると言ってましたよ」
「最大であと二二年ちょっとか。もしかしたら明日ってことはないよな?」
「そこまでは分からないみたいでした」
当てにならん神だな。
「二つめだが、お前が俺と親しくするのを、エルバニス子爵とその本家であるバニトール公爵はよく思わないと思うぞ」
「ああ、あの人たちですか。エルバニス子爵家とは親子関係の解消をしてもらうつもりです」
「本気で言っているのか?」
「はい。私は妾の子なのですが、家畜以下の扱いをされていました。ですからあの家には、いい思い出はありません。むしろ憎んでいます。勇者認定されたのは、ある意味幸いでしたね。そのネームバリューを使って、あの家と縁が切れるように働きかけるつもりです。あと、公爵とかいう尊大なクズ野郎にもいい感情はありませんから、縁切りです」
何があったんだ、椎名!?
「そ、それでは三つめだが、どうしてフェリクスが俺だと気づいたんだ? 神とやらが教えてくれたのか?」
「いえ、後宮で噂になっているスイーツを見たのがきっかけです。この世界のお菓子といえば、砂糖を大量にかけただけのただ甘いしか取り柄のないものです。あんなものをありがたがるなんて、舌が腐ってますよね」
悪意のある言い方はともかく、俺もそう思う。
「それなのに、今年になって美味しいスイーツが後宮に持ち込まれました。しかもプリンやホットケーキ、シュークリーム、ショートケーキといった前世で馴染みのあるものばかりです。それを持ち込んだ人が転生者なのは、私じゃなくても分かることです」
「な、なるほど……」
「転生者なんてそうそういないですから、フェリクスと先輩を重ねるのは簡単でしたよ」
俺は無意識に、自分が転生者だと言いふらしていたようだ。
もっとも、相手が転生者だから気づけたことだが。
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