第40話 勇者(一)
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第40話 勇者(一)
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皇后たちのエステとスィーツお茶会が終わって、帰ろうとしたら呼び止められた。
「まだ公になっていませんが、先日勇者が現れました」
「勇者ですか……」
俺の記憶が確かなら、勇者とは上位四属性(熱、氷、雷、金)から一つ、そして希少系属性の時空か重力のどちらか一つを持ち、無属性を含めた三属性の才能レベルが全て八以上の者をその国が認定していたはずだ。
四つ以上属性を持っていてもいいが、三属性の才能レベルが八以上であれば、他の属性の才能レベルは一でも構わない。
ちなみに聖女認定の条件は、生属性の才能レベルが八以上で、光か聖属性の才能レベルが六以上あることだ。
女性は聖女だが、男性は聖者と呼ばれる。
共に滅多に現れないのだが、同じ時代に勇者と聖女が現れたことに何か意味があるのだろうか……。
「フェリクスちゃんと同じ年代の子よ。いずれ会うことになるわね」
勇者は国が管理することになる。
親とはいつでも会えるようだが、基本的には引き離されることになる。
その子にとってそれがいいことかは分からないな。
だが、勇者の素質を持つ子を攫って、洗脳し戦闘マシーンに仕立て上げられた事例が過去にあったらしい。
そうならないために、国はこのような対策をしているのだ。
「同じ年齢でしたら、学園で会うことになるでしょう」
その前にどこかのお茶会などで会うかもだが、別に敵というわけではないからどこで会おうが構わないんだけどね。
「勇者はバニトール公爵家の縁者ですよ」
「バニトール公爵……」
よりによってバニトール公爵とは……。
だが、バニトール公爵の家の子なら、早くに引き離したほうがいいのかもしれないな。
勇者になった子を洗脳しないとも限らない家だから。
「何かきな臭いですね」
「ウフフフ。バニトール公爵のことを知っているのですね。気をつけなさい。バニトール公爵は収入の一つを潰したロッククラン家の者を毛嫌いしていますからね」
子供を攫って奴隷として売る。そんな違法で阿漕なことをしていたアルフェニス准男爵は、爵位を失った。
皇帝がアルフェニス准男爵の犯罪を認定し、家の断絶を決めたことで親族が現れても再興はできない。
バニトール公爵はそんなアルフェニス准男爵を使っていた悪の親玉のような人物だ。
「その勇者の子は国が管理されるのですよね?」
「ええ、そうね。ただし、公爵はその子の教育係などを、すでに手の者で固めているわ。勇者はやがてこの国にとって魔王になるかもしれないわね」
勇者だから品行方正だとは限らない。
先ほども言ったが、子供の頃から洗脳してしまえば、操り人形のようになることもある。
聖女も勇者も、ただ才能レベルが高いだけの普通の人なのだから。
屋敷に帰って祖父ゴーラスに勇者のことを確認したが、祖父も勇者のことは噂で聞いていたらしい。
「そうかバニトール公爵家の縁者か。勇者が生まれるのはめでたいことだが、今回ばかりはあまり歓迎したくないのぅ」
「ですが、勇者がバニトール公爵に加担するとは限りませんよ」
「そうではない。たしかに勇者がバニトール陣営になるのは面倒だが、それ以上に面倒なのは戦だ」
「戦……ですか?」
「勇者に手っ取り早く武功を立てさせるには、戦が最もいい。魔物退治では領地は増えぬが、他国に侵攻し勝てば領地を奪えるからの」
「勇者のために戦を起こすというのですか?」
「勇者のためではなく、バニトール公爵自身のためだ」
「そんなことのために戦を起こすなんて……」
「あの業突張りならやりかねん。しかも戦争で負けた際は、誰かに責任を押しつけるだけの用意をしてな」
ウザいな、バニトール公爵。
「ですが、勇者はまだ七歳。バニトール公爵はすでに六〇を過ぎていますから、勇者が育つ頃には亡くなっているかもしれませんよ」
「あいつは一〇〇まで生きるわ。それにあやつの子もクズだ。碌な親子ではないわ」
憎まれっ子世に憚る、か。しかも二代続けて。
貴族社会じゃなくても、こういうことはある。
前世の家族経営の会社で親子孫の三代続けて嫌われている経営一族がいたっけ。
パワハラ、セクハラは当たり前の会社だけど、ワンマンで決定が早いというメリットがあった。
しかも、一般的には優良企業だったので、社員たちはそれなりの高給をもらっていた。
俺の会社はホワイトだったけど、給料はあまり高くはなかった。
ホワイトで高い給料をくれる会社もあるだろうが、まだ貴重な存在だな。
おっといけない、昔話はどうでもよかった。
今は勇者とバニトール公爵のことだ。
バニトール公爵の都合で戦なんて起こされたら、たまったものではない。
そうならないために祖父ゴーラスは動くようだが、バニトール公爵家の権勢はかなりのものだ。
簡単に止めることはできそうにないらしい。
「まあ、戦を起こすにしても、まだ一〇年ほど猶予はある。それまでにあやつが失脚しないとは言えぬからな。人生、何があるか分からぬわ」
それを期待して何もしないのは、あまりにも危険だ。
だけど、対策といっても簡単ではないし、本当に困ったことになった。
翌日、領都フランチェスコに帰ろうと準備していたら、執事が慌ててやってきた。
「フェリクス様。よろしいでしょうか」
「どうした、そんなに慌てて」
「それが……リンダ・フォン・エルバニス様がフェリクス様への面会を求めております」
ん、リンダ・フォン・エルバニス……それって勇者の名前じゃないか。
昨日聞いたばかりだから、さすがに忘れようがない名前だ。
しかし、件の勇者が俺になんの用だ?
「会おう。応接室に通してくれ。それとお爺様にこのことを知らせてくれ」
「承知いたしました」
いったい何を言ってくるやら……。
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