第39話 皇后の孫
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第39話 皇后の孫
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うおおおおおおおおおおおっ。
今、俺はシロガネの背に乗って最高速を体感している。
俺、死ぬかもしれない。
全身タイツ結界に風属性をプラスして強度を上げた時空鎧にしてなかったら、耐えることはできなかっただろう。
マッハ五は軽く出ていたはずだ。
まさかマッハ一〇はいってないよな?
短時間でかなり遠くまできてしまった。
ここはどこだろうかと眼下を見ると、火山があった。まさかバロガド山か?
噴煙が上がっているから活火山だ。
近くに深く長い渓谷がある。これはビッシュ渓谷だろう。
位置関係が俺の記憶にあるものと同じだ。
ここから先は帝国ではなくなる。
さすがに国際問題になりかねないからこれ以上はダメだな。
「シロガネ、引き返すぞ」
「ガウ」
と思ったら、南の空に何かが見えた。
それはこちらに近づいてきているようだ。
「あれは……ワイバーンか。しかも群れだな」
ひい、ふう、みい……一二体はいるな。
「いっちょやりますか。シロガネ、ワイバーンの群れに突っ込むぞ」
「ガオォォォッ!」
シロガネの咆哮が空気を震わす。
「いっく……ぞ?」
シロガネの咆哮を聞いたワイバーンの群れが、回れ右して遠ざかっていく。
野生の本能で、シロガネに戦いを挑んではいけないと警鐘を鳴らしたようだ。
「って、おい、逃げるなよ。シロガネ、追いかけろ!」
「ガルッ!」
一気に加速したシロガネが、ワイバーンの群れがどんどん近づく。
ふっ、速度が違うのだよ、速度が!
ワイバーンの群れを切り裂くように、突っ切る。
その際、シロガネは一体のワイバーンを口に咥えていた。
ガキッゴリッ。
首の骨を噛み砕くと、ワイバーンの体から力が抜けていった。
ワイバーンは散開し、バラバラに逃げ出す。
光銀神龍種のシロガネに、戦いを挑む個体はいないようだ。
「俺も負けてられないな」
逃げるワイバーンの一体に青炎弾を放つ。
この青炎弾は青い炎を使った魔法だ。
弾丸のような小さな青い炎が目にも止まらぬ速度で飛んでいき、ワイバーンの一体に着弾した。
こんなもので死なないぜ! といった表情のワイバーンだったが、次の瞬間青い炎に包まれ、足掻き苦しんだ末に落下していった。
俺の魔法の才能は、どの属性も低レベルだ。
それでも強いと言われるワイバーンを倒せるくらいの威力は出せるようだな!
才能が低くても、気合でなんとかなるってことだ。ハハハ。
まあ、実際には複数の魔法を組み合わせていることから、威力が乗算されているのだと思うけど。
「しかし、ワイバーンの素材は貴重だと聞いた。あれでは、素材がとれないか」
まあいい。青炎弾でワイバーンが倒せることが分かっただけで十分だ。
「帰るぞ、シロガネ」
ワイバーンを咥えたまま、シロガネは頷いた。
屋敷に帰ると、トットナム隊長がシロガネの咥えているワイバーンを見て驚いた。
「トットナム隊長。ワイバーンを解体し、肉はシロガネに。それ以外はお父様に確認して処理をしてくれ」
「承知しました」
俺は思い出したことがある。
以前、シロガネと散歩した時に、白い土を持ち帰っていた。
あの白い土で磁器でも焼ければと思って持ち帰ったが、前世の知識に絹雲母というものがった。
この絹雲母を精製することで、化粧品が作られていたはずだ。
白粉が毒になると聞いても、使う人は使う。
女性の美への欲望は、命を懸けるものらしい。
この白い土が絹雲母だったら、白粉など使わなくてもよくなるだろう。
領内で白粉を作っているファムバール侯爵だが、あの後健康被害のあった女性たちに賠償を命じられたらしい。
もっとも、それでも白粉を販売し続けている。それは女性たちからの要望があるからだ。
そういった女性たちには、健康被害が出ても賠償しないということで販売しているらしい。
白い土をいくつもの篩にかけ、最も細かいものをさらに細かくするために臼で挽く。
「坊ちゃま、何をされているのですか?」
「化粧品を作っているんだ」
「まあ、化粧品ですか!?」
シャインは盛大に驚いてみせ、そして臼を回すのを代わってくれた。
「ウフフフ。化粧品~♪」
「はいなのです!」
メインも手伝ってくれて、臼から出てくる白いパウダーを集めている。
これが絹雲母かは分からないが、化粧品にする前にまずやることがある。
それには時間がかかるが、やらないわけにはいかないことだ。
用意したのは、五匹の生まれてから三カ月くらいのネズミだ。
そのネズミの餌に粉を混ぜる。
これを一年ほど続けてみて、ネズミに問題なければ使用できると判断する。
長期の実験だけど、これで最低限の安全性を確認しないとさすがに使えないだろう。
俺は一、二カ月に一回は帝都にいっている。
お婆ちゃま(皇后)がどうしてもと言うので、美白魔法を施しているのだ。
潤い魔法は毎日―――できれば朝と寝る前にするのがいいのだが、美白魔法は数カ月に一回でいい。
それをお婆ちゃまは一、二カ月に一回行っているのだが、それを俺がやっているのである。
「きましたね、わたくしの可愛いフェリクスちゃん」
抱きつかれ、窒息しそうになる。
皇后つきメイドのミシュルに助けてもらい、なんとか昇天せずにすんだ。
「皇后様。毎回言いますが、フェリクス様を抱きしめるのを止めてください」
「そんなにガミガミいわなくても分かっているわ、ミシュル」
「分かっておいでとは、とても思えませんが?」
「はいはい。それより、フェリクスちゃん。今日のお土産は何かしら?」
美白魔法や潤い魔法だけで俺を呼んだと思うなかれ。
俺が作るデザートが目的なのだ。
本来後宮の中に食べ物を持ち込むのは禁止されている。
だが、祖母エリザベスがつい口を滑らせてしまったため、どうしてもプリンを食べたいとなったお婆ちゃまの一声で、皇帝の許可の下、プリンを献上した。
そしたらお婆ちゃんがプリンにハマってしまたのだ。
俺としては、後宮の料理人にレシピを教えてもいいのだが、そこに母アイリッシュがダメ出しをしたのであった。
母娘といえど、すでにアイリッシュはロッククラン家の人だ。
デザートのレシピはロッククラン家の家宝ということで、たとえ皇室にでも出すことはないと言い切ったのである。
実をいうと、デザート外交なる言葉が最近聞かれるようになった。
デザートと引き換えに、何かを引き出すという交渉が行われているのだ。
「今日はパンケーキを持ってきました」
「まあ、パンケーキを持ってきてくれたのね!」
パンケーキを焼いて皿に盛りつけた直後、俺の空間収納に収納している。
空間収納内では時間経過はないため、焼き立てのままの状態が維持されている。
そのスィーツを狙い、皇后の部屋には多くの皇室のメンバーが集まっている。
皇后、皇太子妃、各皇子の妃、皇女(皇帝の娘)、皇子(孫)、皇女(孫)がここまで揃うのは、滅多にない。
そもそも仲の悪い人もいるのだけど、スイーツの魅力に魅入られてしまって同じ場所に集っているのだ。
皇后は皇室内の不和を緩和させるために、俺のスイーツを使っているのだ。
食えないお婆ちゃまだ。
スィーツは食うけど……。
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