第36話 シトラス
■■■■■■■■■■
第36話 シトラス
■■■■■■■■■■
魔眼を発動し続けるのは負担が大きい。
一〇分置きに地下牢とアルフェニス准男爵と思われる男の姿を確認する。
おそらく騎士団がやってくるまでには、二時間はかかるだろう。
待つだけというのは、もどかしいものだ。
突っ込んでやろうかと思ったが、俺が突っ込んだら護衛はともかく、小姓たちもついてくるだろう。
それは危険だ。
だから騎士団を待つことにした。
騎士団がくるまで、何事もなければいいと思っていたら、アルフェニス准男爵家の屋敷から喧騒が聞こえてきた。
魔眼で見ると、なんとシトラスが棒を持って暴れていた。
「はぁ? どうなっているんだ?」
いや、マジで何が起きているんだ?
「何が起きているのですか?」
トットナム隊長が屋敷と俺を交互に見る。
「シトラスが暴れている」
「はい?」
そうだよな、その反応が普通だ。
「よく分からんが、シトラスが戦っている。援護するぞ」
「しかし、まだ援軍が」
「すでに事は起こっている。シトラスが危険だ」
「分かりました。某が突入します。フェリクス様は小姓らとここでお待ちください」
「そんな約束を俺がすると思っているのか?」
「……はぁぁぁぁぁ。私の首が飛びますから、絶対に怪我はしないでくださいね」
「それは大変だ。善処しよう」
そんなわけで突入だ。
「騒動が起こっていると聞いた! これより、ロッククラン家のフェリクス様が屋敷内を改める! 門を開けろ!」
「待て! ここは通せん!」
「ロッククラン伯爵家のフェリクス様の命令である!」
「ダメだ!」
「ならば押し通る!」
門を守っていた四人に雷魔法を放つ。
「「「「アガガガガガッ」」」」
「門を破壊しろ」
「はっ」
護衛たちが無属性の身体強化で強化した腕力で、鉄格子のような門を破壊した。
雪崩れ込むように敷地内へと入り、シトラスを確保する最短ルートを通る。
もうすぐ角というところで、男が吹き飛んできた。
シトラスの腕力はあり得ないほどのもので、吹き飛ばされた男はかなり大柄だった。
その金属の鎧が大きく凹んでいる。
「シトラスか!?」
角を曲がり、大立ち回りをしているシトラスに声をかける。
「そうだけど、あなたたちは?」
「ロッククラン伯爵家のフェリクスだ。攫われたシトラスを助けにきたんだが……」
最後の男が倒されたところだった。
「必要なかったようだな」
「私を助けにきてくれたの?」
「ああ、雑貨店で両親が心配しているぞ」
シトラスはニカッと笑みを浮かべ、血塗られた鉄の棒を捨てた。
あれは鉄格子だよな?
どうやって鉄格子を引き千切ったのだ?
魔法か? この子はまだ七歳になったばかりで、魔法の訓練はほとんどしてないはずだが……?
「トットナム隊長。証拠と生きている者を確保しろ。それと地下牢に囚われている子供たちの救出だ」
「「「はっ!」」」
ばーっと散っていく護衛と小姓たち。
おい、ちょっと待て、お前たち。
いくら制圧がほぼ終わっているからといって、それでいいのか?
俺とシトラスだけにしていいのか?
「まったくあいつらは……」
妙なところで抜けているヤツらだ。
しかし、俺たちも倒したが、五〇人近くの屈強な男たちをほぼ一人で薙ぎ倒したシトラスは、華奢な少女だった。
この小さな体のどこにあんな力があるのかと、思わないではない。
だが、この世界には魔法がある。
無属性のレベル次第では、子供でも圧倒的な腕力を発揮できる。
ただし、無属性だろうと火属性だろうと、どんな属性でも訓練しないと使えないはずなんだがな。
「フェリクス様」
「なんだ?」
「助けにきてくれて、ありがとう」
「その必要はなかったようだがな」
「そんなことない。きてくれただけで嬉しい」
穏やかな表情で、ぺこりと頭を下げる。
返り血を浴びて汚れていなかったら、かなり可愛いことだろう。
汚れを落としてやらないと、いけないな。
「その返り血を落としてやろう。動かずジッとしているんだぞ」
シトラスは首を傾げたが、頷いた。
水魔法と邪魔法で体中を覆って汚れを水に吸収させ、風魔法と熱魔法で熱風を送って乾燥させる。
これらの魔法は、ウォッシュとドライと名づけよう。
ウォッシュに邪属性を使うのは、分解の効果があるからだ。
汚れだけを分解させるように、指向性を持たせればいい。
「綺麗になった……ありがとう」
「おう。これで家に帰っても心配されずに済むぞ」
「お礼する」
「そんな必要はない。犯罪の摘発は貴族の役目だから」
「命を助けられた」
「いや、シトラスは俺たちがいなくても無事に家に帰っていただろう」
「そんなことない。だからフェリクス様に仕える」
「なんでそうなる?」
「私、強い」
「まあ、強いだろうな。だが、シトラスはまだ子供だ」
「ヴァストと呼ばれた子供がいた」
ちゃんと聞いているんだな。
俺は礼は不要だというのだが、シトラスはどうしても引かない。
同じやり取りを繰り返し、俺は根負けした。
この子はかなりの頑固者のようだ。
そしてシトラスは危うい。
このまま帰してしまったら、悲劇があるかもしれない。
力の扱いを間違ったら、両親を殺しかねない。
力の使い方を教えないとヤバい子だ。
シトラスは俺の護衛の一人、女性騎士のジュミルの従士見習い(付き人)にすることにした。
いきなり俺のつき人にすることはできないので、こうなった。
「シトラスが立派な騎士になったら、俺の護衛騎士にしてやる」
「うん。がんばる」
「騎士団は規律に厳しいぞ」
「大丈夫」
とりあえず、シトラスの両親(養父母)に従士見習いになることを伝えた。
ご愛読ありがとうございます。
これからも本作品をよろしくお願いします。
気に入った! もっと読みたい! と思いましたら評価してください。
『ブックマーク』『いいね』『評価』『レビュー』をよろしくです。




