第20話 バニアスの出征
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第20話 バニアスの出征
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夕食でバニアスが出征すると言うと、お葬式のように静まり返った。
アイリッシュは先に聞かされていたようだけど、側室の二人と俺以外の子供たちはここで初めて聞いたようだ。
子供たちは泣きそうな顔をし、本当に可哀想になってくる。
「私がいない間は、フェリクスがこの家の主である。頼んだぞ」
「はい。お任せください」
家の主といっても、俺が何かをするわけじゃない。
何かあっても大人たちが全部対処してくれる。
俺はただのお飾りに過ぎない。
バニアスは家族皆にちゃんと声をかけて、食堂を後にした。
子供たちの不安はそれで少し改善されたことだろう。
俺も兄として何かをしないといけないと思うのだが、俺は子供を持ったことがないし、一人っ子だったから兄弟がいた経験もない。
かける言葉が思い浮かばない。
頼りない兄でごめんな。
バニアスは予定通り出立した。
俺や弟妹たちは、バニアスが見えなくなるまで手を振っていた。
身内が戦争に向かうというのは、いい気分ではない。
とにかく無事で帰ってきてほしいと願うばかりだ。
バニアスが出征しても、俺のやることは変らない。
勉強は自主勉だけだけど、剣の訓練、槍の訓練、弓の訓練、魔法の訓練とやることは結構ある。
いずれ俺も戦争に出るのだろうか。
そう思うと、手に力が入ってしまう。
これでは剣でも槍でもいいことはない。
だから走ることにした。
身体強化して走って走って走りまくる。
そんな訓練場の一角では、弟のジョルジュも剣を振っている。
俺も五歳から剣を振っているが、ジョルジュも同じように訓練を初めて一年になる。
うちの方針で、最初はとにかく素振りをする。
素振りがものになったら、初めて次のステップにいけるのだ。
フェリクスも一年以上素振りだけをひたすらしていたようだ。
今はジョルジュに武術を教えていた騎士が、バニアスと共に出征している。
だから臨時の教官がついている。
「ふー、ふー……」
息を整えて今度は腕立て伏せと腹筋をする。
幼いうちに筋肉をつけすぎるのはよくないが、腕立て伏せと腹筋は休憩の一環だ。
すぐにまた走り出す。
民衆が浮足立っていないか確認するために町に出てみた。
「全然普通じゃね?」
「炎の賢者と言われる、伯爵閣下が負けるわけありません。民たちはそう考えているのでしょう」
護衛隊長のトットナムがそういうものだと教えてくれた。
父バニアスは民から絶大な信頼を受けているようだ。
今回の出征は戦争になるか分からない。
あくまでも備えるだけで、ビンライド王国軍が攻めてこなければそのまま引き返してくる。
どうもこういう待つのはじれったくて俺の性には合わないが、戦争なんてないほうがいい。
毎日暑い日が続く。
俺は父バニアスに頼まれていたワイングラスを一〇〇〇個をローランドに渡し終わった。
一〇〇個のワイングラスは皇室に献上されて、かなり話題になったそうだ。
皇帝がかなり気に入ったらしく、皇室の紋章入りのワイングラスを一〇〇〇個頼んできたらしい。
まあ、型さえあれば紋章を入れるのは難しくないので、了承した。
ちなみに皇室の紋章入りのワイングラスには、うちの紋章も入れている。
これはうちが作ったワイングラスという意味があるので、絶対に入れている。
だから皇室の紋章の横にうちの紋章が並んでいるのだ。
元々炎の賢者である父バニアスの名声と、皇帝の娘である母アイリッシュのおかげでうちの地位はかなり上がっていたが、今回の紋章並びのワイングラスのおかげでさらに権威が上がるだろうとの見方だ。
「一〇〇〇個のワイングラスをたしかに確認しました。お疲れ様でした、フェリクス様」
皇帝向けの一〇〇〇個と、それ以外の一〇〇〇個で合わせて二〇〇〇個になったが、俺はちゃんと要求に応えたよ。
といっても、他の貴族も一〇〇個や二〇〇個、中には五〇〇個などの注文があるらしい。
バニアスは皇帝以外のそういった注文はかなりシビアに絞っていると聞いた。
俺は毎月三〇〇個のワイングラスを生産し、それをローランドに渡せばいい。
あとはローランドが注文に合わせて発送する手配をしてくれる。
一時的なものならいいが、三年もそれを続けるのかと思うと遠い目をしてしまう。
父バニアスが出征して一カ月ほど経過した。
小姓たちは夏バテしている。
鍛え方が足りないな。
「無理はせず、休んでいていいぞ」
などと言うわけない!
平和な日本ならハラスメントがどうこう言われるが、ここは命の危険が身近にある異世界なのだ。
鍛えておくのは、誰のためでもなく自分のためだ。
死にたくなければ、強くなれ。
この程度の暑さなど、気合いで吹き飛ばせ!
「気合いだ、気合い! お前たちは気合が足りないのだ!」
でも優しい俺は三人にヒーリングをかけてやる。
塩に砂糖を混ぜたなんちゃってスポーツ飲料も与える。
てか、エドは生属性の才能レベルが俺よりもはるかに高い六なんだから、自力でヒーリングしろよ。
「それが、僕のヒーリングでは夏バテは治らないのです。なんでフェリクス様のヒーリングで治るのでしょうか?」
そう言って可愛く首を傾げるのだ。
「首を傾げる暇があったら、気合いで治せ。気合が足りないから、治らないんだ」
「「「暴論!?」」」
俺は魔法に関しては気合い論、根性論を推す。
それで俺の魔法が発動しなかったらそんなことは言わないのだが、発動しているのだから強力に推進する所存だ。
さて、どうやらビンライド王国軍は帝国に進軍してきたようだ。
今は小競り合いを数度行い、両軍は国境付近で睨み合っているらしい。
ビンライド王国軍は国王の命令で仕方なく軍を起こしているのか、かなり士気が低いらしい。
もう何十年も戦続きで国民が辟易しているのが分からないのかね、国王は。
そういうことが分からないから、歴史上に愚王と言われる国王が多く存在するのだろうな。
国を統治するのに、国民を見ないとか本当に愚王だよ。
この間のロッククラン伯爵領は、特に大きな混乱なく過ごしている。
そう思っていた時だった。
バロガド山が噴火したという報告があったのだ。
バロガド山は西方の異民族領との境界にあるガンガド山脈に属す火山で、年に何度も噴火しているような活発な火山だ。
ただし、今回の噴火はかなり激しいもので、周辺地域へ大きな被害が出ていると報告を聞いた。
大規模の噴火は周辺の地殻に大きな変化をもたらす。
それで影響があるのが、ビッシュ渓谷になる。
バロガド山はビッシュ渓谷に隣接していて、マグマが谷に流れ込んだらしい。
しかも谷が隆起しており、地形が完全に変わってしまったようだ。
直接うちのロッククラン伯爵領には関係ない話だが、場合によっては大事になりかねない事案だ。
当面は情報収集をしっかりするようにと、指示を出す。
あと同じ帝国貴族でも、支援要請もないのに勝手に物資や人員を送ることはできない。
そこら辺はメンツにかかわるものらしい。
そんな大変な状況なのに、その騒動は起こったのである……。
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