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フェリクス ~この男、取り扱い注意にて~  作者: 大野半兵衛


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第2話 立場の差

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 第2話 立場の差

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 ロッククラン伯爵屋敷。広い……。

 端から端までおよそ二〇〇メートル。地上三階、地下二階の巨大な屋敷だ。

 この他に迎賓館と使用人用住居、兵士用住居、複数の兵士詰所、訓練場、数十頭用の厩、倉庫がいくつか……とにかく色々ある。

 しかも敷地は当然ながらさらに広いわけですよ。


「森……か」


 屋敷の三階のベランダからは森が見える。その森も屋敷の敷地内だ。


「どれだけ広いのか、この屋敷は」


 起きられるようになったはいいが、庭に出ることさえ許されない。

 屋敷内なら自由に歩けるのが幸いだな。


 図書室。

 ここには多くの蔵書がある。

 俺はなぜか文字が読める。考えたら、起きた直後にこの世界の言葉を理解していたのだった。

 おそらくだが、フェリクスがこれまで受けてきた教育のおかげだろう。


 フェリクスの記憶はまだ完全じゃない。

 断片的なものばかりだが、なんとか両親の顔と名前は思い出した。

 椅子に座ってこのルーンサクテット帝国の歴史書を読む。

 歴史はいい。この国の本質が分かるからね。

 もっとも歴史書というのは、主観が多分に入る。

 客観的に書かれた歴史書など滅多にない。


 幸いというべきか、ロッククラン伯爵領はフレンジス国という国の国境に近いことから、フレンジス国の歴史書もあった。

 ルーンサクテット帝国の歴史とフレンジス国の歴史書を見比べることで、お互いの主観の差が明らかになる。


 たとえば、今から八〇年ほど昔に起こった両国間の戦争だが、お互いに自国が勝利して停戦したことになっている。

 お互いに敵国の戦死者が多いと言っていることから、どちらが正確なのか分からない。

 共に事実ではない可能性も十分にある。


 一五〇年程前に即位した皇帝についてだが、帝国の歴史書は流行り病で皇帝が崩御し、その後は皇太子から第三皇子までが立て続けに薨御(こうぎょ)したことから第四皇子が即位したとある。

 これに対し、フレンジス国の歴史書では、第四皇子が武力によって帝位を簒奪したとあった。

 第四皇子の即位に関しては、フレンジス国史のほうが信憑性が高そうに思えるものだ。


 このように歴史について、主観が誰なのかで結果は同じでも内容が違うことはよくあるものだ。

 そういった不確定なものを排除したり考察することで、自分なりの見解を導きだすのが楽しい。


 前世ではよく古戦場めぐりやお城めぐりをしたものだ。

 歴史物の創作物や時代劇も好きだった。

 よく同僚からはオヤジと言われたが、歴史にはロマンがあるのだ。

 それを理解できないのは可哀想だと思うわけですよ。


 何日か図書室にこもっていると、歴史書を読み終わった。

 視界が右目だけだから不便だけど、徐々に慣れつつある。

 今は左目に眼帯をつけて、中二のような心持だ。


 今度は魔法に関する書籍を手にとった。魔法の基本というものだ。


 なんでも父バニアスは炎の魔法が得意なのだとか。

 炎の魔法で魔物を焼き殺し、敵を滅ぼす姿から、炎の賢者と言われているらしい。

 父が伯爵で賢者とか、俺はどんな良血なのか。

 おかげで家臣領民からとても期待されているらしい。しかも皇帝まで。


 それなのに左目を失ってしまい、かなり問題になっているらしい。

 皇帝もなんか騒いでいると聞くが、俺は知らん。


 魔法の基本には、なんか小難しいことが書いてあるが、要約すると……神に祈れというものだ。

 祈りが通じれば、魔法が発動するのだとか。眉唾っぽい……。


 とはいえ、祈りに似た想いが必要らしい。

 それが詠唱なのだとか。

 俺の魂の叫びを聞け! って感じでいいのかね。


 魔法の基本には、魔法についての基礎知識があるだけで、魔法の詠唱文などは記載されていなかった。


 棚をぶっしょくすると、火の下級魔法書というものがあった。

 これを読めば俺も魔法が使えるのかな。


「坊ちゃま。魔法は七歳になるまでお待ちください」


 火の下級魔法書を手にとったら、シャインにダメだと言われた。


「七歳? なんで?」

「属性が固まるのが、七歳なのです」

「属性が固まる?」


 なんでも七歳になると、その人が使える属性が定着するのだとか。

 六歳では属性が定着してないため、魔法を使ってはいけないらしい。

 そういうものは生まれた時に持っているものではないだろうか。

 どうやらこの世界では、そうじゃないらしい。


「とりあえず魔法は七歳まで使えないのは分かった。でも、魔法の基本を読むのは構わないよね」


 シャインは魔法の基本だけなら問題ないと、持ち出すのを許してくれた。




「坊ちゃま。夕食のお時間です」


 魔法の基本を読み込んでいると、シャインが声をかけてきた。

 もうそんな時間か。


 食堂へ入ると、長いテーブルがある。

 軽く一〇メートルはある長いものだ。

 家族三人が食事をするだけなのに、大きすぎませんかね、これ。

 と思うかもしれないけど、実は三人家族ではないのだ。


 まず父バニアスには、アイリッシュの他に二人の妻がいる。

 側室というやつだ。

 この国では一夫多妻は普通に認められている。

 我が父ながら、ハーレム野郎かよ。爆発すればいいんだ!


 俺の母であるアイリッシュには、もう一人子供がいる。俺の一歳年下の弟(次男)のジョルジュだ。


 それからリラという側室(二一歳)の子には、二歳年下の三男イグアス、四歳年下の長女ルチア、六歳年下の五男パテアスがいる。


 もう一人の側室であるマリカ(二〇歳)の子は、三歳年下の四男テリウス、五歳年下の次女リエナだ。


 父バニアスには俺の他に六人の子供がいる。

 つまり俺は七人兄弟の長子になるわけだ。

 他に前ロッククラン伯爵家当主、俺から見たら祖父に当たる人もいるけど、今は祖母と共に帝都で暮らしている。


 二人の側室と六人の弟妹は先に席についていた。

 俺は側室たちに目礼し、弟妹たちと一言ずつ交わす。

 小さい子供は可愛いね。特に二人の妹は愛らしくていい!

 俺が席に着くと、母アイリッシュが入ってきて俺の前に座った。


「早いのね、フェリクス」

「部屋で本を読んでいただけですから」


 屋敷から出してもらえないから、呼ばれたらすぐ移動できますよ。


 父バニアスはやってこない。

 仕事が忙しいらしい。

 朝食は毎日一緒に摂るけど、夕食を一緒に摂るのは五日に一回くらいかな。


「今はどんな本を読んでいるのかしら」

「ちょっと前までは歴史書を読んでいました。今は魔法の基本を読んでいます」

「魔法は七歳になるまで使ってはダメよ。もっとも簡単に使えるものではないけどね」

「アドバイスをありがとうございます」

「そんな他人行儀なこと言わないの。貴方は私の可愛い子供なのだから」


 母アイリッシュは悲しそうにする。

 まだ断片的な記憶しか戻ってないし、本来のフェリクスの気持ちや感情というものはまったく感じない。

 だから母とはいえ、アイリッシュのことは綺麗な女性としか思えないのだ。


 食事のマナーには、苦労をする。

 弟妹たちも苦労しているようだ。

 こんな堅苦しい食事は前世でしたことがない。

 美味しい料理だけど、庶民として育った俺としてはハンバーガーや立ち食い蕎麦が懐かしい。

 肩ひじ張ったお洒落な食事よりも、騒がしくても気軽な食事のほうが、俺には合っているようだ。


 母アイリッシュ上品な所作で音を立てずに食べていく。

 美人で上品、自分の母親ながら見入ってしまう。


「どうかしたの?」

「いえ、お母様のような美しい食事マナーを身につけないといけないと思いまして」

「ウフフフ。徐々にでいいわよ。食事は楽しく食べるのが、一番ですもの」


 母アイリッシュは分かってらっしゃる。

 俺も食事は楽しく食べるのが一番だと思うよ。


 視界が右だけなので、左側のフォークなどが取りづらい。

 今後はこういうことも慣れていかないといけない。


 食事中に喋るのは主に俺とアイリッシュだけ。

 側室と弟妹たちは、アイリッシュか俺が喋りかけない限り声を出してはいけない。

 そこには純然たる生まれの差があった。

 これも堅苦しい原因だろう。



ご愛読ありがとうございます。

これからも本作品をよろしくお願いします。


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