第1話 俺、転生しました
■■■■■■■■■■
第1話 俺、転生しました
■■■■■■■■■■
俺は、死んだ。
何を言っているのか。
俺だってそう思う。
だけど、間違いなく死んだはずなんだ。
そう、あれは終電がホームに入ってきた時だ。
高卒の俺が二〇年勤めた会社は、ホワイトで残業があっても月に一〇時間くらいだった。
ちゃんと残業手当も出るし、むしろもっと残業したいくらいだった。
その日は年に一度あるかないかの長時間残業が終わり、最終を逃しては面倒だからと後輩の椎名と小走りでホームに入った直後のことだった。
椎名は最近、ストーカーに悩まされている。警察に相談し注意してもらったそうだが、ストーカーがそれで諦めたか心配らしい。
今日は夜も遅く、彼女と家が近い俺が送っていくと約束をしたのだ。
「キャッ」
二人で人気のないホームで終電が入ってくるのを見ていたら、椎名の悲鳴が聞こえた。
そして、彼女がホームへと落ちていく姿が見えた。
その後ろには、パーカーのフードで顔を隠した男が立っていたのだ。
いつの間にと思った。
まったく気づかなかったのだ。
彼女の恐怖で引きつった顔が目に焼きつく。
その彼女に俺は手を伸ばした。
彼女の手を取って引き上げたのはよかったのだが、それによって俺と椎名の位置が入れ替わった。
ヤバいと思った。
その時、フードの影から歪んだ笑みを浮かべる男の顔が見えた。
こいつだ、こいつのせいだ。
俺は無意識に男に手を伸ばし、そいつのパーカーを掴んだ。
そして共に線路に落ちたのだ。
そこへ電車が……最後に聞いたのは、「ひぃっ」と情けない男の声と、椎名の「先輩」という悲鳴のような声だった。
椎名は生きているよな?
せっかくの美人さんがあんなことで死んだら、世界の損失だ(私見)。
あとストーカーは滅べ!
お前のせいで椎名は酷い顔をしていたんだ。
ストーカーが生き残るなんて絶対にあり得ない。もしあそこで誰かが死ななければいけないのなら、それはストーカーであってほしい。
しかし、俺はなんで生きているのかな?
しかも見慣れない部屋の中で?
それに視界が狭い。右側はいいが、左側が真っ暗で見えない。
ズキンッ。
「うっ!?」
左目に痛みが走り、俺は手で押さえた。
どういうこと……だ?
右目が見た俺の手はとても小さかった。左手を何度かグーパーさせてみたが非常に小さい。これではまるで……。
「子供?」
その声にも驚いた。
自慢ではないが、俺は一九〇センチメートルの巨躯だった。
手も普通の人よりかなり大きく、よく運動をしていたのか、と聞かれるくらいの体格で声も低いものだった。
たしかに俺は柔道をしていた。
まあ、全国には届かない下手の横好きのようなものだ。
大学へいって柔道を続けようかと思ったが、親に負担をかけっぱなしだったので、大学には進まず高校卒業後就職した。
それはいいんだ、それは。
でもさ、この小さな手はなんだ?
声まで甲高い子供のものだった。困惑するなというほうが無理な話だ。
そしてこの左目。
まったく視界が開けない。
ズキズキと不快な痛みもあり、怪我か何かで失明しているのが分かるものだった。
起き上がろうとしたが、体が鉛のように重い。しかもあちこっちに痛みがあり、思わず声が出るほどだ。
「ぐぅっ」
しばらく起き上がるのは無理なようだ。
電車に轢かれたのだから、怪我をしたのは分かる。全身が痛い程度で済んでいるほうがおかしいと思うくらいだ。
では、この手は、声はどう説明する?
……さっぱり理解できないし、答えることができない。
状況把握に務めていると、部屋に誰かが入ってきた。
まだ二〇歳にもなってないくらいの、若く綺麗な女性だ。
しかも金髪碧眼である。ここは外国か?
彼女は黒を基調とした随分とシックな服に白いエプロンをしていた。メイドのように見える。
「坊ちゃま!?」
俺の顔を覗き込んだ彼女が叫ぶように声を出した。
「気がつかれたのですね!? 今、旦那様と奥様をお呼びいたします!」
彼女は俺の顔を見るなり、慌てて部屋を出ていった。
なぜか『坊ちゃま』と呼ばれた。こんなオッサンになんでやねんと、ツッコミたくなる。
今度は先ほどの彼女の他に、三人の男女が部屋に入ってきた。
一人は赤毛茶目のかなりのイケメンだ。
年齢は二〇ちょっとか。
一人は銀髪金目のモデルかというくらい美しい女性だ。
年齢は二〇になってない感じかな。
一人はロマンスグレーの髪に茶色の目をした老紳士だ。
燕尾服をビシッと着込んでいる。執事といった感じだ。
四人は俺が寝るベッドの左右に陣取り、俺を見下ろしてくる。
「フェリクス!」
銀髪のモデル系美女が俺の左手を握る。
「目が覚めたのね! ああ、よかったわ!」
涙を浮かべ、俺に抱きついてきた。
美女に抱きつかれるのは嬉しいのだが、今は体中が痛くてそれどころではない。
「うっ」
「どこか傷むの?」
全身が痛いです。
「フェリクス。大丈夫か」
赤毛のイケメンは、声までイケボ(イケてるボイス)だな。
「あ、あの……」
「何?」(美女)
「何だ?」(イケメン)
「ここはどこですか? それにあなたたちは……?」
「「っ!?」」
美女とイケメンは目を見開いて驚いた顔をし、メイドは口に手を当て、執事は顔色を変えず俺たちを見ていた。
状況を整理すると、俺は転生したらしい。
今の俺はフェリクスという名の少年で、年齢は六歳。
父はあの赤毛のイケメンで、バニアス・フォン・ロッククランという貴族だった。年齢は二四歳。
母はモデル系美女で、アイリッシュ。年齢は父と同じ二四歳。もっと若く一〇代かと思っていたよ。
金髪のメイドはシャインといって、一八歳。
執事はローランドで五八歳。
この国はルーンサクテット帝国といい、父バニアスは領地持ちの伯爵だった。
しかも母のアイリッシュは皇帝の娘なのだ。つまり、俺は皇帝の外孫ということになる。
俺が寝ていた理由は、馬の訓練中に落馬したかららしい。
そこら辺は徐々に記憶が戻ってきているが、断片的なもので完全とは言い難い。
医師は落馬の際に頭を打ったことで、記憶を失うことがあると説明してくれた。
記憶が完璧ではないことは、それで誤魔化すことにした。
ただ、両親はとても悲しんでおり、心が痛んだ。
本当のフェリクスの記憶が完全になり、彼が目覚めて親孝行できたらいいのにと思ってしまう。
あと、転生という衝撃的な事実を目の当たりにした俺は、まだ実感が湧いていない。
少し時間がほしいかな。
俺の左目は落馬した際に岩にぶつけてしまい、潰れてしまったらしい。
医師たちが懸命に治療してくれたようだが、失明は免れなかった。
そして今も医師が俺の左目や体を治療してくれている。
それがとても不思議な光景だった。
医師たちは俺の記憶にあるメスや聴診器を使う人たちではなく、なんと魔法を使うのだ。
そう、魔法なのだ! この世界には魔法が存在するのである!
医師たちが詠唱をして魔法を発動させるのを初めて見た時は、なんとファンタジーな光景なのだろうかと感動したものだ。
治療を何度か受けて起きられるようになった俺だが、屋敷から出ることは許されなかった。
また怪我をするのではないか、と。
母アイリッシュが過保護すぎて、困っている。
「フェリクスの左目は治らないのですか」
「申しわけありません。私どもではいかんともしがたく……」
母アイリッシュの質問に医師たちがたじろぐ。
下手をすれば、死罪になりかねないから戦々恐々なんだと思う。
貴族社会というのは、そういった理不尽が罷り通る世界なのだ。
なんと言っても母アイリッシュは皇帝の娘なのだから。
「誰なら治せるのですか?」
「せ、聖女様であれば、あるいは……」
回復魔法や浄化魔法の才能に秀でた女性を聖女と呼ぶらしい。
男性の場合は聖者だね。
「ならば聖女を呼びなさい」
母アイリッシュのこの言葉はむちゃぶりだった。
聖女はアーデン王国という国にいて、呼ぶどころか国から出ることはまずないのだとか。
重要人物なのだから、簡単に他国にいかれては困るのだろう。
つまり、俺の目の治療をするためには、聖女がいるアーデン王国にいかなければならない。
伯爵の息子で、皇帝の外孫の俺が外国にいくのは、聖女を呼ぶくらい難しいことだ。
結果として治療はできないということになる。
母アイリッシュは医師から説明を受け、かなりごねたが、どうにもならないと理解したようだ。
母アイリッシュが俺のために必死なのはありがたいのだが、当たりがきつくなる医師たちに申しわけない。
あとからしっかりフォローしておこう。
ご愛読ありがとうございます。
これからも本作品をよろしくお願いします。
気に入った! もっと読みたい! と思いましたら評価してください。
『ブックマーク』『いいね』『評価』『レビュー』をよろしくです。




