第18話 昔話
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第18話 昔話
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夏本番という暑い日だ。
俺はイケメン副団長と剣の稽古をしている。
いつも思うが、彼は俺の右側からしか攻撃をしない。
つまり見えない左側からの攻撃をしないのだ。
俺とイケメン副団長の実力差を考えると、それでも俺は彼に勝てない。
悔しいが、まだ七歳のこの体では身体強化しても勝てるものではない。
「はぁはぁふー……」
「息を整えるのが早いですね。いいことです」
「いつか勝ってみせるからな」
「はてさて、その日はやってきますかね?」
莫迦にしやがって。
余裕な表情でいられるのも、今のうちだ。首を洗って待っていろよ。
とはいえ、前世でも俺は中途半端だったもんなぁ……。
前世の俺は柔道をしていた。小中高校と全国レベルの大会には出場できなかった。
俺の世代は黄金世代だった。
俺の同じ年にオリンピック選手が四人いて、俺はそのうちの三人と試合をしたことがある。
その三人は九〇キロ以下級、一〇〇キロ以下級、一〇〇キロ超級と重量級は彼ら三人が君臨していたのだ。
九〇キロ以下級の高神、一〇〇キロ以下級の久松、一〇〇キロ超級の岩佐、この三人はオリンピックで金メダルを取るほどの猛者だった。
俺の階級は一〇〇キロ以下級で、搾って九〇キロ以下級でも、逆に増やして一〇〇キロ超級でも試合に出た。
そこそこ強かったと自分では思うのだが、化け物級の三人がいたことで一度も全国には出られなかったのだ。
あの三人がいなければ、と何度か思ったことか。
だが、結局俺はその程度の強さだったのだと何年もしてから想い至ったものだ。
ちなみに岩佐はオリンピック二連覇、久松はオリンピックで金と銀を一つずつ、そして高神はなんとオリンピック三連覇を成し遂げた。本物の化け物たちだ。
なんかこうやって体を動かしていると、柔道に真っすぐに取り組んでいた若かった頃の俺の姿が思い出される。
この世界でも俺は中途半端なままで終わるのかな。
左目が見えないことで、剣も槍も極めることができないのだろうか。
それは……悔しいな。
そういえば、俺と同じように高神にコテンパンにやられていたヤツがいたっけ。
そいつは地区が違ったので、全国で高神と当たり敗退していた。
隣の地区だったこともあり、俺や高神、そしてそいつは合同稽古でよく顔を合わせた。
俺同様に負けず嫌いだったことから、合同稽古でも高神に果敢に挑んでいく姿が印象的だったな。
あいつ、今何をしているんだろうか?
もしかしたら、俺みたいに異世界に転生していたりして。そんなわけないか(笑)。
この左目が見えるようになれば強くなれるのかな?
いや、左目が見えても俺は剣を極めることなどできない。
この世界では、無属性の身体強化で躰の機能を高められる。
俺の無属性の才能レベルでは、とても八や九といった化け物たちには勝てない。
理不尽だな……。
「ふっ。フフフ」
「何を笑っておいでで? 真面目に取り組んでください」
「すまん、すまん。剣の稽古は楽しいと思ってな」
イケメン副団長が困惑している。
俺は天邪鬼なんだ。
前世と違って膝が十全に動かないわけではないのだ。
左目が見えないくらいで、一番になることを諦めてなんてやらないぜ。
そのためにも、俺は訓練をする。
俺にはそれしかできないのだから。
俺が休憩すると、今度はヴァストがイケメン副団長にしごかれる。
イケメン副団長のやつ、容赦なく打ちつけてくる。おかげであちこち痛い。
ここで生属性でヒーリングだ。
筋肉痛の時にも役立つが、打ち身にも役立つ。便利なものだ。
しかしイケメン副団長め、骨を折らない絶妙な力加減で打ってきやがる。
腹が立つほど男前なことをしやがるぜ。
ヴァストの番が終わると、アル・エド兄弟だ。
連続の訓練だが、イケメン副団長は涼しい顔をしている。
ムカつく。いつかその顔を歪めてやる。
剣の稽古の後は魔法だ。
魔法の訓練は大好きだ。
やっぱり魔法には夢が詰まっている。
今日は重力と風属性を使って空を飛んでみようと思う。
重力魔法の多くは、重量を大きくする方向で使われる。
敵の動きを悪くするデバフのように。
今回、俺は重力を少なくするほうに挑戦する。反重力だ。
月面でジャンプしたらとても高く飛び上がれると、聞いたことがある。
実際に月面でジャンプしたことないから、本当かどうかは知らない。
それと同じで重力を小さくし、ジャンプする。
「うおーっ」
すっげー、これ。楽しい。軽くなのに三メートルくらいジャンプできた。
もっと重力を小さくしてみる。
「おおおっ!」
一〇メートル近くジャンプしたよ!
この反重力を維持し、今度はジャンプ後に風魔法を使う。
「とべっ!」
ビューンッ。
「うっひょーっ」
おっといけない。訓練場を飛び越してしまった。
方向を変える……ちょっと手間取ったが、なんとかUターンして訓練場に帰りついた。
着地すると、ヴァスト、アル・エド兄弟、シャイン、メインが口をポカンと開けていた。
「口に虫が入るぞ」
「「誰のせいですか!」」
シャインとヴァストに怒られた。
俺は魔法の訓練をしているだけなのに、解せぬ。
「アハハハ。フェリクス様は本当に魔法の天才ですね。どうやって飛んだのですか? 某でも飛べますか?」
「なんだ、セザール副団長も飛びたいのか?」
「できれば、飛びたいですね。詠唱を教えてください」
「詠唱なんてしないぞ」
「ですが、今のは魔法ですよね?」
「ああ、魔法だ。だが、俺は魔法に詠唱は使わん」
「本気ですか……それでどうやって魔法を発動させているのですか?」
「気合いだ」
「は?」
「き・あ・い」
「本気で言ってます?」
「もちろん本気だ。そもそも、セザール副団長は俺が詠唱して魔法を発動させているところを見たことがあるのか?」
「……そういえばありませんね。詠唱なしで魔法を使うなんて、まるで御伽噺の勇者様ではないですか」
イケメン副団長が騒いでいるが、飛行魔法をものにするためにもっと訓練するぞ!
「最近、空を飛んでいるらしいな」
父バニアスに呼ばれて執務室に入るなり、そう聞かれた。
バニアスはちょっと疲れているように見える。
「はい。魔法は楽しいですね!」
俺はいい笑みで答えた。
本当に魔法は楽しいからね。
「詠唱をしてないとか?」
「はい。魔法に詠唱は必要ないと結論づけました。実際に詠唱せずに魔法は発動しています」
「それについてもっと詳しく教えてほしい。どうすれば詠唱なしで魔法を使えるのだ?」
「魔法を発動させるのに、詠唱や言魂、祈りは不要です。必要なのは気合です。魔法を発動させるのだという強い意志―――気合いがあれば発動します」
俺は力強く拳を作る。
「ふむ。気合か。私も詠唱なしで魔法を発動できるかな」
「やれるかどうかではなく、やるのです。その強気意志が重要なのです」
「ふむ。相分かった。下がっていいぞ」
炎の賢者と言われるほどのバニアスが、気合で魔法を発動できるようになったら手がつけられないだろうな。
戦争が身近にある世界で、それはとても重要なことである。
父バニアスにはがんばってもらいたいものだ。
ご愛読ありがとうございます。
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