第16話 アイスクリーム
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第16話 アイスクリーム
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板ガラスはなんとか完成した。
板の波打ちを抑えるために、一メートル四方の型枠にドロドロのガラスを流し込んで平にしている。
透明度も配合比率を試行錯誤して、無色透明を実現している。
今度はグラスを作ってみようと思って、苦労している。
これこそ念力の出番なのだが、精密操作が必要で失敗を繰り返している。
そしてその時はやってきた。
綺麗なグラスだ。
この世界ではワインを飲むのも水を飲むのも金属のゴブレットなので、ガラスのグラスはない。
父バニアスに面会を求めた。
ガラスができたら見せる約束だからね。
すぐに執務室に通された。
「お父様。いい感じにガラスができました」
執事のローランドや使用人がガラスを執務室に運び込む。
「板ガラスとグラスになります」
板ガラスは一枚だけど、グラスは色々な種類を用意した。
ロックグラス、カクテルグラス、フルート型シャンパングラス、ソーサー型シャンパングラス、ジョッキ、ブランデーグラス、ワイングラス。
貴族の晩餐にはワインがマストの飲み物なので、ワイングラスの需要が一番あると思う。
俺はジョッキでビールをグイグイ飲むのが好きだが、この世界にはエールしかない。
俺が知らないだけかもしれないが、少なくともこの辺りではビールは流通していない。
しかも貴族はエールを下賤な飲み物と言って飲まないのだ。
バニアスに各グラスの説明をすると、目が点になっていた。
「ワイングラスとジョッキの使い道は理解した。だが、それ以外のグラスの用途というか、そんな酒があるのか?」
あ、いけない。思わず前世の記憶にある酒で考えていた。ウィスキーやシャンパンなどこの世界にはないのだった。
いや、あるかもしれないが、ビール同様にうちの領内では見ない。
ここは笑って誤魔化そう。
「そうでしたか? アハハハ、気にしないでください。アハハハ」
バニアスのジト目が痛い。
「板ガラスとワイングラスを皇室に献上する。板ガラスは一〇枚、ワイングラスは一〇〇個作ってほしい。できるか?」
「分かりました。用意します」
「ワイングラスに我がロッククラン家の紋章を刻めるか?」
む、それはやったことないから分からないな。
多分できると思うけど、保証はできない。
「無理ならなくてもいい。できたらで構わん」
「はい」
マイパパの要望でガラスを用意することになった。
まあ、ほとんど魔法で作っているから、そこまで苦労しない。
念力も失敗を何度も繰り返したおかげで、操作は安定している。
あとはワイングラスに紋章を入れるのだけど、どこに入れようかな。
側面がベストか。
ワイングラスの側面の湾曲に合わせた木に、彫刻を生業にしている者に紋章を刻んでもらった。
要は型を作ったわけだ。
型をワイングラスにあて、土魔法と風魔法で砂を拭きつける。
砂は細かいもので、吹きつけの威力を絶妙なものにしないといけない。
いくつかワイングラスが割れたが、ロッククラン伯爵家の紋章が入ったワイングラスができ上った。
ロッククラン伯爵家の紋章は、三日月とフェンリルの顔というもので、結構格好いい。俺は好きだ。
バニアスに献上用の板ガラスを一〇枚、紋章入りワイングラスを一〇〇個渡すと、驚かれた。
「もうできたのか?」
「紋章の型を作るのに三日かかりましたが、後は魔法で作れますので、これくらいならすぐに作れます」
「では、来月の末日までにワイングラスを一〇〇〇個作っておいてくれ。作ったものはローランドに渡せばいい」
「分かりました」
一〇〇個は献上用だろう。
一〇〇〇個のほうは、商売でも始めるのかな。
「板ガラスのほうはいいのですか?」
「そちらは職人でも作れるからな」
なるほど、今現在この世に出回ってないワイングラスのほうが重要というわけだね。
「それと、製法は秘匿するように」
「承知しました」
秘匿も何も、魔法で作るから属性と熟練度次第で作れてしまうのだけどね。
まあ、他人に漏れないように、ガラスの製法は日本語で残しておきますか。
忘れた時のためにね。
そうだ、アイリッシュからホットケーキとプリンの製法も秘匿と言われていたっけ。
これも日本語でメモしておこう。
この世界の人なら、日本語は暗号にしか思えないだろう。フフフ。
さて、ワイングラスについてはおいおいやっていけばいい。その前にやることがある。
ミルク、砂糖、卵黄、生クリーム。これらでアイスクリームを作ります!
生クリームはバターとミルクで作れるから、アイスクリームを作るのに支障はない。
鼻歌を奏でながらアイスクリームを作っていると、気配を感じた。
「やっぱり……」
アイリッシュと弟妹たちがすでに席についていた。
ここは食堂ではありませんよ。
「今日は何を作っているのかしら? 楽しみよね~」
「「「「ね~」」」」
アイリッシュはガキ大将のように、弟妹たちを仕切っている。
困ったものだ……あれ、人数が多くないか……って、側室のリラとマリカまでいるじゃないか!
おいおい、あんたたち暇なのか?
よし、できた。
大きめのスプーンでアイスクリームを掬ってソーサー型シャンパングラスの上に盛る。
シャンパンはないけど、アイスクリームを盛るにはいい感じの器になる。
「まあ、綺麗な器ね。これはガラスなの?」
「はい。目でも楽しめるようにしてみました」
「ウフフフ。フェリクスはセンスがいいのね」
皆の前にアイスが行き渡った。
さあ、食べ……って、もう食べてるし。
「器がとても冷たいのね!」
「このお菓子も冷たいわ!」
側室コンビのリラが器の冷たさに驚き、マリカがアイスの冷たさに驚いた。
「「「「「「「お代わり!」」」」」」」
「お母様たち、大人なんだから……」
「「「だってー、美味しいんだもん!」」」
困った大人たちだ。
試食後、アイリッシュにお茶会のメニュー(案)を提出した。
「まあ、ホットケーキにアイスを載せるのね! 美味しそうだわ!」
涎を拭きなさいよ。
そっとハンカチを差し出す。
「あら、恥ずかしいわ。ウフフフ」
笑って誤魔化してもダメだからね。
「お茶はチーのダッサムね。これを明日、わたくしに出してちょうだい。相性を確認するわ」
相性の確認といいながら、試食が目的なんでしょ。
「ホットケーキ、プリン、アイスクリームの製法は、料理人のジャパルに教えておきます。ただ、氷属性や熱属性を持つ者が必要ですから、手配してもらえますか」
秘匿はするが、うちの料理人には構わないだろう。
それに、アイリスッシュがいいと言えば、問題ない。彼女が秘匿の言い出しっぺだからね。
「それなら氷属性や熱属性を持つ使用人を雇いましょう。才能レベルは二くらいでいいのかしら?」
「はい。才能レベル二あれば問題ないかと」
「手配しておくわ」
アイリッシュが氷属性や熱属性を持つ使用人を手配してくれる。
毎回俺が呼ばれるのも面倒だから、そうしてくれると助かるよ。
「フェリクス、分かっていると思うけど、ジャパル以外には」
アイリッシュが口の前で人差し指を立てる。
はいはい。分かってますよ。
ホットケーキもプリンもアイスも、全てジャパル以外には秘匿しますから。
ご愛読ありがとうございます。
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