第15話 フェリクスだから
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第15話 フェリクスだから
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「フェリクス!」
「は、はい!」
アイリッシュが目を吊り上げる。
「これをもっと用意するのです!」
「あ、はい」
ホットケーキの試作品を食べていたら、アイリッシュがやってきた。
俺が厨房で何かしていると聞きつけて見にきたらしい。
そしたら、もっと寄こせと……。
砂糖だけと言っても過言ではない甘いだけのお菓子より、はるかに美味しいからね。
その気持ち分かるよ。
「う~ん。美味しいわ。フェリクス。これはなんというお菓子なのです?」
「ホットケーキと名づけました」
「ホットケーキですか。これは至宝。よって、製法は秘匿するのです!」
「は、はぁ。分かりました」
マイママはホットケーキを使って何かしようというのだろうか。
所詮はホットケーキ、されどホットケーキ、ということかな。
ジーーー……。み、見られている。
厨房の入り口からこっちを見つめる十の目。
俺の弟妹たちだ。さすがに一歳のパテアスはいないが、二歳のリエナまでいる。
明らかにホットケーキをロックオンしているよ。
手招きすると、いそいそと入ってきた。
「お前たちも食べな」
バター消費が激しいが、ヴァスト、アル・エド兄弟が必死でシェイクしている。がんばれ。
「「「「美味しい!」」」」
弟妹たち嬉しそうにホットケーキを満面の笑みを浮かべて食べた。
「「「「お代わり!」」」」
「フェリクス。わたくしにも」
「お母様はもう二枚食べましたよね。お終いです。皆も二枚でお終いだよ」
「えぇぇぇっ!?」
「「「「はーい」」」」
アイリッシュさんや、子供じゃないんだからそんなこの世の終わりのような顔をしないでよ。
「あ、明日もホットケーキを!」
必死だね。
「明日はプリンを作ります」
「「「「「プリンッ!?」」」」」
「「「「「って、何?」」」」」
コケッ。
子供たちはともかく、アイリッシュまで声を揃えて何してるんだよ。
さて、魔法の訓練だ。
時空属性は簡単にいうと転移と空間収納に集約される。
一般的に才能レベルが高いほど転移できる距離が長くなり、空間収納の容量が大きくなる。
俺の場合、時空属性の才能レベルは三なので、転移できる距離は大したことない。
これが才能レベル五のエドだと、一〇〇キロメートルオーバーの距離を稼ぐようだ。
格差がすごいよ、まったく。
そこで思いついたのが、某アニメで見たワープ理論。
紙の上の離れた場所に二つの点を書き、紙を歪めて点をくっつけるものだ。
「フェリクス様。何をしているのですか?」
エドの目の前で紙を伸ばしたり歪めたりし、点を離したりくっつけたりする。
「何って、ワープだよ」
「ワープ……ですか? 聞いたことがない言葉ですね」
ちょっとやってみる。
転移は時と空間を使っている。
そこで俺は空間だけを歪めることにした。
俺の部屋から訓練場までは短く見積もっても三〇〇メートル。
その距離を空間を歪めるイメージで、気合いでくっつける。
うおーっ、気合いだ、気合いのワープゾーンだ!
オラオラオラーッ!
できた!
俺の前に空間の穴ができ、その向こうに訓練場が見える。
穴を通って訓練場側に出る。
気合いのワープ大成功!
「ふぇ、フェリクス様……これは?」
目を剥いたヴァストが聞いてきた。
「ワープ」
「転移とは違うようですが?」
「転移じゃなく、ワープだからさ」
転移は対象物を一瞬で消して、別の場所に移動させる。
対してワープは空間同士をくっつけ、穴を開けてそこを通る。
似て非なるものである!
ワープでどこまで空間を歪められるかはこれから検証の必要があるけど、俺のワープ理論に問題なかったことが大事だ。
「「フェリクス様。ワープというのが転移と違うのはなんとなく分かりますが、最近自重を捨ててませんか?」」
今度はアル・エドか。
「自重って何? 美味しいの?」
「「……はぁ」」
深いため息だな。
まだ七歳なんだから、そんな人生に疲れたようなため息はよくないぞ。
てか、ため息までシンクロするんかよ。
「エド。フェリクス様だから、諦めよう」
「そうだね、アル」
おい、俺だからなんだというんだよ。
「僕たちの常識では測れないのが、フェリクス様だ。二人とも諦めようじゃないか」
ヴァストまで何を言ってるのかな。
プリンはホットケーキよりも材料がオーソドックスだ。ミルク、砂糖、卵だけ。
プリンは蒸して固めるけど、冷やしたほうが美味しいので氷属性か熱属性が必要になる。
冷蔵庫? そんなものはないよ。
砂糖を焦がしすぎないように適度に焦がし、器に入れておく。
キャラメルだ。
そこに卵と牛乳と砂糖を混ぜた液体を投入。
口当たりをよくするために、濾したものを入れるように。
もちろん、キャラメルと層をなすようにゆっくり入れる。
これを蒸して固まったら冷ます。
「よし、できた!」
振り返ったら、そこにアイリッシュと弟妹たちが待ち構えていた。
いい鼻をしているね、君たち。
「一人二個までだからね」
「「「「「はーい」」」」」
俺も食べたいし、シャインたちにも食べさせてやりたい。
一人二個でも結構な数になる。
アイリッシュと弟妹たちの前にプリンを置く。
置いた時の振動でプルルンと揺れるのが、なんとも食欲を誘う。
皆、あっという間にプリンを食べきった。
ちゃんと二個食べて、まだ物欲しそうな顔をしている。
「今さらですが、ジョルジュたちはともかく、お母様が厨房でお菓子を食べていいのですか?」
貴方は皇族で今は伯爵夫人なんだよ。
そういうことを考えないといけない立場ですよね。
「だって、美味しいんだもん♪」
だもんって、可愛いけど、立場を考えなさいよ。
「それにフェリクスたちだけズルいわ。わたくしも美味しいお菓子を食べたいもの」
「お父様に言いますよ」
「いやーん。フェリクスのいけずー」
使用人や小姓たちの前なんだから、伯爵夫人としてビシッとしてください。
ご愛読ありがとうございます。
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