第10話 従魔の卵
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第10話 従魔の卵
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魔法に言魂など不要。
神への祈も不要。
必要なのは気合いだ。
俺はそう結論付けた。
「いたたた……」
酷い筋肉痛だ。身体強化を続けると、その後が大変で筋肉が悲鳴をあげる。
ベッドから起き上がるのも大変だ。
こういう時に生魔法が使えると、筋肉痛の治療ができるんだろうな。
だから、次は生魔法を覚えることにした。
才能レベルが低くても、筋肉痛くらいなら治せるだろう。
「坊ちゃま。身体強化に頼り過ぎですね。フフフ」
俺を起こしにきたシャインが、口元を手で隠して楽しそうに笑う。
「シャイン。起こしてくれ」
体中が痛くて動けないよ。
シャインに抱えてもらい、起き上がる。
その際に、シャインの胸に顔が埋まる。
うん。清々しい朝だね!
シャインとメインに手伝ってもらい着替え寝室から廊下に出ると、すでにアル・エド兄弟とヴァストが待っていた。
「「「おはようございます。フェリクス様」」」
「おはよう。早いね、三人とも」
三人は昨日からこの屋敷に住み込むことになった。
常時俺のそばにいるのが小姓なので、住み込みなのだとか。
まだ七歳なのだから、親元で過ごしたほうがいいのでは?
「僕は五男ですから、家にいるよりお屋敷で過ごしたほうがいい生活ができます」
「「うちも同じです。三男と四男の僕たちは、家を継げませんので」」
うちでも長子の俺と他の子は明らかに立場上の差がある。
ただ、うちは生活に差はそれほどない。
あくまでも順番の差なのだ。
うちは裕福だから順番以外の差はほとんどないけど、彼らの実家では食事や教育にも差があるみたいだ。
これが現実か。
前世の価値観と差異があるから、違和感しかない。
「お屋敷の食事は実家のものよりすごく美味しいので、僕は帰りたくありません」
「「僕たちもです」」
食事は大事だよな。
うん。美味しいものをたくさん食べるんだぞ。
どうでもいいが、アル・エド兄弟は喋りが完全にシンクロしているな。さすがは双子だ。
俺は家族と共に朝食を摂り、小姓たちは使用人用の食堂で食べる。
「フェリクス。昨日は身体強化が成功したと聞いたぞ」
「はい。なんとか成功しました」
「うむ。よくがんばったな。ご褒美をあげよう。食後に私の部屋にきなさい」
パパからのプレゼント!? 楽しみだ~♪
「はい。お伺いさせていただきます!」
何がもらえるのかな。ワクワクして食事が喉を通らないではないか。
食後、スキップしそうになるのを堪えつつ、パパの執務室に向かった。
「坊ちゃま。足取りが軽すぎますよ」
「いいじゃないか。何がもらえるのか、とても楽しみなんだ」
「筋肉痛はいいのですか?」
「え……あ、いたたた……思い出したら体中が痛いじゃないか。何してくれるんだよ、シャイン」
「ウフフフ。現金な坊ちゃまですね」
俺に背中を向けて笑うんじゃないよ。
なんとか父バニアスの執務室に辿り着き、中に入った。
「お父様。フェリクス、やってきました!」
「ハハハ。元気だな。筋肉痛が酷いと聞いたぞ」
「筋肉痛など、なんのその! あいたたた……」
力瘤を作って見せたら、全身に痛みが走って、蹈鞴を踏んでしまった。めっちゃ恥ずかしい。
「フフフ。最初はそんなものだ。そのうち慣れるさ」
そう、筋肉痛なんてそのうち慣れるものだ。
そして身体強化で鍛えていけば、筋肉痛にもならないようになる。
「さて、あまり時間がないからな。ご褒美をあげよう」
「はい!」
執事のローランドがトレイの上に布を被せた何かを持ってきた。
父バニアスの机の上にそれを置き、ササッと下がる所作に無駄がない。
バニアスが布に手をかけて……取る。
「っ!? そ、それは……」
「従魔の卵だ。受け取るといい」
ダチョウの卵よりもさらに大きい卵は、俺の顔くらいあるのではないだろうか。
「これはワイバーンの卵だ。常に肌身離さずに持ち歩くのだ。決して世話を他人任せにするんじゃないぞ」
「は、はい! ありがとうございます! お父様!」
振るえる手で卵を持ち上げる。
かなり重い。
嬉しさを噛みしめるように卵を抱きかかる。
スキップスキップルンルンルン♪
「坊ちゃま。スキップなんかして、筋肉痛は大丈夫なのですか」
「問題ない」
筋肉痛なんてすっかり吹き飛んだよ。ムフフフ。
従魔のことは調べた。
イケメン副団長が従魔にしているグリフォンは、かなり珍しいものだ。
それと同様にワイバーンも従魔としてはかなり珍しい。
それだけパパが気合を入れて卵を探してくれたということだろう。
感謝感激雨霰!
パパン、ありがとー!
「さて、勉強を始めようか」
今日は地理を学ぶ。
座学の先生はリッテン男爵夫人だ。
四〇代の未亡人で、ロッククラン伯爵家の分家の方になる。
なんというか、ザマスと言いそうな風貌の人だね。
「「「フェリクス様……」」」
小姓三人組みが、ジト目を向けてくる。
何、その目は? おいらの何に不満なの?
「フェリクス様は卵を抱えて勉強をされるおつもりですか?」
リッテン男爵夫人が細い眼鏡をクイッと上げて、睨みつけてくる。
「従魔の卵の世話は他人に任せてはいけないと、お父様に命じられておりますので」
そう、俺は今、ワイバーンの卵を布で俺の胴体に固定している。
おかげで妊婦のようにお腹が大きく見えるのだ。
「……はぁ~。もういいです。参考書を開いてください」
リッテン男爵夫人は諦めたようだ。
パパの名を出したのがよかったのだろう。
誰でも長いものには巻かれたいものだ。
「このビッシュ渓谷では、過去に何度も大きな戦いがありました」
ルーンサクテット帝国西部では、異民族との果てなき闘争が繰り返されている。
その舞台となっているのが、ビッシュ渓谷である。
この異民族のことを我が国の貴族たちは、『蛮族』呼んでいる。
その蛮族はまさに戦闘をするために生まれてきたような種族であり、少数ながらも我が国と互角の戦いを繰り広げているのだ。
「ビッシュ渓谷の特徴は峻険な谷でありながら、その谷の中の起伏が激しく、入り組んでいることです」
いくつもの丘陵が谷の中にあり、さらには谷が迷路ようになっており、いくつもの侵攻ルートがあるとのことだ。
南部の貴族であるロッククラン家も、西部にあるこのビッシュ渓谷で何度か蛮族と戦ったことがあるらしい。
炎の賢者と言われるパパでさえ、蛮族に大打撃を与えるに至っていない。
それは先ほど語られたように、ビッシュ渓谷が複雑怪奇な場所で隠れる場所がたくさんあるためだからなのだ。
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