裁判開始〜弁護人立証から論告、弁論まで〜
「続いて弁護人立証。弁護人前へ」
裁判長は神官長を呼ぶ。
神官長は怪しげな笑みを浮かべて証言台に立つ。
「何か申し開きはあるか?」
何もないと答えること前提に問われ神官長は口を開いた。
「はい、証拠に関してこちらも提出したいものがあります。」
「なに?」
ざわっ
傍聴席だけでなく捜査班の席でもざわめきがおこる。
「では、捜査班が提出した証拠その一、その二に関してですが、それは捜査班の捏造だと思われます。」
「何を!?」
ウォルコット侯爵が席を立ち声を荒げる。
「捜査班静粛に」
裁判長に諌められウォルコット侯爵は不機嫌そうに座る。
な、何が始まるのか!?
想定外の神官長の言葉に私はドキドキする。
「捏造というからには、それを証明する手立てはあるのだな?」
「はい、こちらを」
そう言って取り出したのは…
「こちら、リナリーバー・ミハルバーの学園で使用されているノートでございます。
こちら裏表紙に本人の署名があり、学生複数名から間違いなく本人が使用していたと証言を得た本物でございます。」
「それが何か」
「こちらの中身と証拠その一とその二と見比べてください。」
そう言ってノートを差し出す。
右側の裁判官が面倒そうに受け取って捜査班が提出した証拠その一、その二と並べて裁判長に手渡した。
「ん?これは!?」
「もうおわかりですね?筆跡が違います。」
「た、確かに…」
「裁判長、異議あり!」
ウォルコット侯爵が席を立ち手を挙げた。
「意義を認める」
「筆跡が違うと申しますが、それは裁判長の主観であって事実とは異なるかと思われます!」
「しかし…」
裁判長は困惑しながら手紙と私のノートを書記官に手渡す。
書記官は裁判の流れを記載する記録係であり文字の専門家でもある。
裁判がない時は筆跡鑑定の仕事をしていると聞いたこともあった。
つまり、この場で即席の筆跡鑑定が行われた。
それに気づいたウォルコット侯爵は青ざめる。
「…これは…筆跡が違いますね…」
「異議あり!」
「異議を認める」
「そちらのノートが弁護人が捏造した偽造品であると思われます!」
「裁判長、発言の許可を」
「認めない」
「ちっ!」
神官長は舌打ちする。
所詮不公平裁判。
こちらの言い分は最小限に抑えられ、あちらの言い分は最大限に認められるのだ。
「偽造品の可能性が僅かに認められる為、証拠品として認めない。」
「それを言ったら手紙もだろう!?」
ウォルコット侯爵の息子でもあるザック様が傍聴席から大声を張り上げた。
それに周囲もそうだよな…的な空気が流れる。
「傍聴席、静粛に!ウォルコット侯爵子息は周囲を扇動しない!」
「扇動などしていない!私は事実を述べたまでだ!」
「一度証拠品として認められ提出されたものは証拠品として覆らない。」
裁判が何度か繰り返されたら話は違うが今日で終わる裁判では実質その通りだろう。
寧ろよく神官長は手紙の信憑性に疑問を投げかけることのできる証拠品を持ってこれたと思う。
しかし、証拠品として認められなければ意味はない。
「他に証拠品は?」
「…特にありません」
「ではこれより弁護人立証を終了とし、論告へと移る」
その言葉に神官長は席に戻り鼻息荒くウォルコット侯爵は証言台へと移動する。
「裁判長、我々が提出した証拠は全て揺るぎない事実を指し示しておりますが、弁護人が用意したものは逆に拙い偽造品。
これは全てミハルバー公爵が己の家存続の為にやった工作活動であります!」
「異議あり!」
「異議は認めない」
「ちっ!」
再度舌打ちする神官長。
こんな推察をさも事実のように述べても異議は認められない。
わかってはいるが苛々する。
「証拠ならありますぞ?リナリーバー・ミハルバーが収監された後、ミハルバー公爵は自宅を担保に現金を掻き集めリナリーバー・ミハルバーの弁護人を王都中から募り雇おうとした!
これも全ては家存続の為の処置であります!」
「え!?」
さすがに驚いてお父様を見る。
お父様は苦々しそうにそっぽを向いた。
事実?事実なの!?
家存続の為じゃないことはすぐにわかる。
もしそうならお金は弁護人じゃなくて有力貴族にばらまくべきだから。
そうしなかったのは、私を助ける為…?
「しかし、王都中の弁護人は懸命であり、リナリーバー・ミハルバーの弁護を務める者はおらず、そこの神官長が引き受けた。
彼は金に汚いともっぱらの噂がある、よそ者神官長。
大金に目が絡み引き受けた俗物にすぎません!」
神官長に衆人の視線が集まる。
見られることに慣れている神官長は微笑みを浮かべる余裕ある態度。
それにイラつくウォルコット侯爵。
「今回の事件全ての元凶はリナリーバー・ミハルバー、共犯のスチュワートにあります!
よって我々捜査班は、リナリーバー・ミハルバーに斬首刑を求刑いたします。
なお、今回の事件は我が国建国以来の大不祥事。
見せしめとして、王都中央広場にての公開処刑を進言致します!」
言い切った!と、ドヤ顔のウォルコット侯爵。
「続いて弁論」
ドヤ顔のウォルコット侯爵は胸を張って席に着く。
入れ替わるようにして神官長が証言台に立つ。
「何かあるか?」
「はい。」
頷く神官長をあるのかよと言った顔で見つめる裁判長。
「では申してみよ」
「はい、まず、捜査班が提出した証拠品その一、その二に関しては仮に本人が記載した本物であったとしても、本人の意思で書いたかどうかはまた別問題であります。」
「何を言うのか!」
ウォルコット侯爵は声を張り上げたが注意を受ける前に黙った。
「私は提出された証拠にケチをつけたいわけではありません。
ただ、手紙というのはその気になれば本人の筆跡での偽造すら容易であると言いたいのです。
本来であれば、何者にも偽造は不可能、本人が明らかに手を下した証拠なり証言なりを用意すべき場でありますが、現在そのような証拠はなくまた、唯一証言可能かと思われる獣人ジェイドは逃亡中。
さらにスチュワートの件に関しては目撃証言のみという脆弱ぶり。
これでは、彼女達が本当に王家に弓を引いたかどうか疑わしい。」
「弁護人は要点を絞って話すように。」
ようはさっさと終わらせよとの申し出を受けた。
これ以上話されると問題ありとみなされたのだ。
しかし、弁護人が話すべき時に話している現在、警告なしに即退場は出来ない。
だから、無理矢理警告をした。
次の警告は退場の言葉だ。
「裁判長、法の大原則に『疑わしきは罰せず』というものがあります。
私は今回の件はまさにそれに当たる事案と思慮致します。
よって、私は推定無罪を主張致します。」
「なんだと!?貴様も王家に弓を引く不届き者か!?」
ウォルコット侯爵は立ち上がり腰に手を持って行き…帯剣していない事に気付き舌打ちする。
貴方、帯剣してたら神官長を斬ったのですか?
法廷での殺傷は重罪ですよ?
「以上で私の弁論は終わりです」
「…では、これより被告人意見陳述へと移る。
リナリーバー・ミハルバー、前に。」
呼ばれて私は前に進み出て証言台に立つ。
漸く主役である私の番だ。
さて、演じてみせましょう!!




