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裁判開始〜本人確認から捜査班立証まで〜

「これより、開廷とする!」

初めて法廷に来たが広かった。

天井は高くドーム型、裁判官は高い位置から私を見下ろす位置に三人座っている。

真ん中が裁判長の席で更に一段高い。

その前には書記官、その前に証言台がある。

その更に後ろが傍聴席。

傍聴席は満席であった。かつてないスキャンダルに王都中の人々が集まったのだ。

あまりの人気ぶりに前代未聞の整理券が発行されたとか聞いた。ちょっと信じられない。

その傍聴席の一番いいところに殿下、アリス、リュド様、ザック様と、何故かワクテカ顔のルナがいた。

膝にはバスケットを乗せている。

はて、法廷に私物の持ち込みは禁止されていたはずだが…?

そして、彼女の方をまるで見ないようにするかのようにそっぽを向いているリュド様。

…まあ、気にしないでおくか…。

そして、部屋の左右に分かれるようにして、被告席と捜査班席があり、その席にはウォルコット侯爵と下っ端騎士、それと何故かネクロスラーズ嬢が偉そうに座っていた。

そして被告席には既にスチュワートが一人で座っていた。

二週間経ってやつれたかと思ったが全く変わっていない。

相変わらずの無表情ぶりである。

違いといえば、着ている服が囚人服で、手枷足枷を嵌められているところか。

私の席は彼の隣。

私は彼にゆっくりと近づく。

「お嬢様…」

彼が潤んだ瞳で私を見上げるが、私は彼を見ない。

私は自分の席に座ると私も足枷をはめるように言われ、自身の手ではめた。

はめるのは自分で出来るが解くのは鍵がないと出来ない仕様だ。

そして私達を挟むようにしてお父様と弁護士役の神官長が座り私の真後ろに直立不動でナグが立つ。

その位置はかつてスチュワートの指定席だった。

「!?」

スチュワートの瞳が揺らぐ。

だが、それに構う者はいない。

茶番はもう始まっているのだ。

「これより開廷する」

真ん中にすわる裁判長が木槌を叩き開廷を宣言された。


裁判の流れは実に分かりやすい。


1本人確認

2冒頭陳述

3罪状認否

4捜索班で立証

5弁護人立証

6論告・弁論

7被告人意見陳述

8判決


分かりやすいけど長い!

これを一日で終わらせる!!

駆け足裁判だ!

勿論、普通ならもっと長引くこともあるが、私の場合は形だけの裁判。

時間をかけてじっくりとなんてやってくれない。

ラストがわかっている劇を見るようなもので、裁判自体に私は興味がない。

大事なのはスチュワートを切ること。

今日しくじれば彼はあの世まで着いてくる。

それを避ける為だけに今日は来た。

スチュワートだけは助けてみせる。

たとえ、何を敵に回しても。


「被告人前へ」

言われて私達の足枷は外される。

スチュワートの足枷を外したのは名も知らぬ騎士の一人であったが、私の足枷はナグが下っ端騎士からわざわざ鍵を受け取り彼の手で外された。

まるで、ガラス細工でも扱うかのように慎重に私の足に触れるナグ。

まるで、神聖な儀式のようにも見えた。

「!?何故…」

「被告人は不必要に話さない」

裁判長に注意されスチュワートは口を噤む。

苦々しそうにスチュワートはナグを睨んだ。

予想通りでほくそ笑む。

私達は並んで証言台に立つ。

「名前を」

「リナリーバー・ミハルバー」

「スチュワート」

「スチュワート、お前は男爵家三男だろう?

苗字はどうした?」

「捨てました。私はスチュワート。

それ以上でも以下でもありません。」

「…そうか、では以降、平民スチュワートとして扱うが問題ないな?」

「構いません」

「では、冒頭陳述に入る」

裁判長に促され、右側の裁判官が立ち上がる。

そして書類片手に朗々と語り出す。

「事件は遡ること二週間前に起こりました。

王城で初めて行われる仮面舞踏会があった日でございます。

その日は殿下の恋人たるアリスリーザ・ベルガーネット男爵令嬢のお披露目会でした。

しかし、殿下に長い時想いを寄せ婚約まで成していたリナリーバー・ミハルバーが嫉妬に駆られアリスリーザ・ベルガーネット男爵令嬢の殺害を目論んだと当初は見られておりました。

その為に反乱分子獣人一派を王城内に潜り込ませる事に成功したリナリーバー・ミハルバーではありましたが、王家が誇る騎士団によって撃退されます。

しかし、真の狙いはアリスリーザ・ベルガーネット男爵令嬢の殺害ではなかったのです!」

ここで裁判官が息を吐き周りを見渡す。

皆が彼に注目していると知り満足気に続ける。

「反乱分子は囮でしかなく、真の狙いは正式に招かれた客に紛れた獣人ジェイドによる陛下暗殺!

…なお、ジェイドは現在逃亡中であり、騎士団、憲兵総出で捜索にあたっております…。

しかし、アリスリーザ・ベルガーネット男爵令嬢の機転と殿下の勇気、そして側近であられる方々のご活躍もありそれを撃退致しました。

そして、主犯のリナリーバー・ミハルバーと共犯スチュワートを捕らえ現在に至ります。」

「相違あるか」

裁判長が問いかける。

相違しかない。

ないが、一つ一つ論破している場合ではないし、どんなに華麗に論破しても私の極刑は覆らない。

そんなことに時間を費やしている場合ではないのだ。

「ありません」

「そんなはずありません!」

声が傍聴席からした。

振り向かなくてもそれがアリスだとわかる。

「傍聴人は静かに」

「だって違うんですもの!本当は…」

「静粛に!」

カンカンと木槌が鳴った。

アリスは諦めたか諌められたかして黙る。

「スチュワート、相違あるか?」

「ありません」

彼だって内心突っ込んでいるのだろうが、私が肯定した事に否はない。

「では、罪状認否に移る。」

その言葉を受けて左側の裁判官が立ち上がり右側の裁判官は着席した。

「リナリーバー・ミハルバー。

貴女は新涼の月第十八位の月影の頃、王城で開かれた仮面舞踏会に乗じて陛下殺害を目論み実行に移した。

相違ないな。」

「ありません」

「何故…!?」

またもやアリスが傍聴席から声をあげる。

「傍聴人!次回声を出したら退席願います!」

裁判長の言葉に困惑の気配を残しておし黙る。

「スチュワート。

貴方は新涼の月第十八位の月影の頃、王城で開かれた仮面舞踏会に乗じて陛下殺害を目論み実行に移した。相違ないな。」

「ありません。」

「では、捜索班立証に移る。

騎士団長、ウォルコット侯爵前へ」

今回の捜索の全権を委任されたウォルコット侯爵が証人席へと移動してきた。

「今回の事件を立証せよ。」

「は!まず、我ら騎士団は反乱分子自宅の家宅捜査を行いました。

その結果、リナリーバー・ミハルバーと反乱分子達とのやりとりをしたと思える手紙を複数発見致しました!

内容は割愛しますが、大筋として、仮面舞踏会でいつ頃襲撃するのかというタイミングを詳しく打ち合わせしておりました!

第一の証拠として提出致します!」

手紙が数通、右側の裁判官にウォルコット侯爵の手で連れてこられた下っ端騎士の手で渡される。

「続きまして、陛下殺害における本命暗殺者ジェイドとのやりとりを記した手紙がリナリーバー・ミハルバーの自宅を家宅捜査した際に発見されました!

こちらもタイミングを計る内容と金銭の授受に関する記載がありました!

こちらを第二の証拠として提出します!」

私の自宅から出てきたと称する手紙が数通裁判官に渡された。

「さらに周辺の聞き込み捜索を実施したところ、リナリーバー・ミハルバーの片腕たる執事スチュワートが数度に渡り王都外れに出入りしていたという目撃証言を複数得られました!

その周辺を捜索しますと、反乱分子獣人一派のアジトを発見。

おそらく、手紙の受け渡しの為出入りしていたものと想定されます!

なお、本日は証言者代表として、ネクロスラーズ・アイノス侯爵令嬢が出廷しております!

お許しがあればいつでも証言台に立たせることが可能です!」

「許す。ネクロスラーズ・アイノス侯爵令嬢!

証言台に立て!」

「は!」

騎士団側に座っていたネクロスラーズ嬢が優雅に席を立つ。

「ネクロスラーズ・アイノス侯爵令嬢!

貴女はこの場での嘘偽りなく証言することを誓わなくてはなりません。

もし、その誓いを破れば罰金大金貨百枚と禁錮刑一年が科されます。

それでも問題ないようでしたら、誓いをたて宣誓をお願いします。」

「はい!私、ネクロスラーズ・アイノスは神に誓って嘘偽りを述べることなく真実のみを語ることを誓います。」

「では、こちらにある宣誓書にサインを」

左側の裁判官が一枚の紙をネクロスラーズ嬢に手渡す。

彼女はその紙を受け取り、一緒に渡された羽ペンでサインを施す。

そして彼女のサインが入った宣誓書裁判官に渡された。

「では、証言をお願いします。

貴女はいつ、どこで、何を見ましたか?」

「はい、それは私が地方から王都に向かっていた時です。

森を抜けて、緩衝地帯をぬけて王都に入る時に私は彼…スチュワートを見かけました。

彼は手に何かを持っており、あたりを警戒しているようでもありました。

そして、彼は私がいることに気づくことなく、人と会いました。

遠目からでもわかる獣の耳は大変目立っており、一目で亜人とわかりました。

私はスチュワートが亜人と密会しているところを目撃したのです!」

ネクロスラーズ嬢が鼻息荒く堂々と宣言する。

「以上の証拠からリナリーバー・ミハルバー並びにスチュワートの本件関与は明らかであると騎士団の名の下に宣言致します!」

高らかにウォルコット侯爵は言い放った。

彼の言葉に私は安堵する。

なんだ、この程度なら簡単にスチュワートを切り離せる。

今日しか裁判は行われない。

つまり追加の証拠はあり得ない。

だから、証言とやらを覆してしまえばスチュワートの無罪は確定し処刑は私のみとなる。

あとは、自主的な心中、後追いさえ封じればいいだけだ。

私は気合をいれて前を見据えた。


勝負はこれからだ!

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