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裁判開始〜被告人意見陳述〜

「続いて、スチュワート前へ!」

私が証言台に立つとスチュワートも呼ばれた。

私の後ろに立とうとするが、それを制し隣へ行くよう背中を押したのはナグだった。

そして、ナグは当たり前のように私の後ろに立つ。

さながらスチュワートのように。

「では、リナリーバー・ミハルバー、申し開きがあるのならば、申してみよ」

言われて私はちらっとスチュワートを見る。

彼は私をじっと不安そうな目で見つめていた。

そんな彼を無視して私は口を開く。

「私は私なりに色々と言いたい事がありますが、何せ時間も差し迫っておりますし?

ここで述べるのは一つだけにしておきましょう。

そう、捜査班の頑張りは認めますが生憎一点大きく違うところがありますので、その修正です。」

「今更命乞いか!?見苦しいぞ!」

声は傍聴席から聞こえた。

振り向かなくても殿下だとわかる。

殿下が相手だと裁判長も静粛にとはやらないようだ。

「私の修正したい点というのは、共犯者がいたという点です。

今回の件は全てこの私、リナリーバー・ミハルバーの単独で行われたと主張します。」

「お嬢様!?何を申しているのですか!?」

スチュワートが問いかけてくる。

しかし、無視する。

「ここにいるスチュワートが手紙を持ってウロウロしていたという話ですが、はてさてなんのことか?

そこのお嬢さんの見間違いでなくて?」

「酷い…」

ネクロスラーズ嬢は弱々しく俯いた。

内心怒鳴り散らしたいところだろうに、演技派である。

「こちらが用意した証言にケチをつけるとはいい度胸!」

ウォルコット侯爵がネクロスラーズ嬢を庇うように私を見た。

「ケチではなく、事実を述べてますのよ?

だって、彼女は手紙を持ってうろついた人物をどうしてスチュワートと見なしたのかがわからないのですもの。」

「異議あり!」

「異議を認める」

「被告人は正当なる証言を得意の戯言でなかったことにしようとする行為を平然と行っています!

即刻被告人は席に戻り、求刑へと移るべきです!」

「異議あり!」

神官長がその異議に手を挙げた。

しかし

「異議は認めない」

「異議あり!」

可愛らしい声が聞こえた。

え?

私は後ろを振り向く。

そこには手を挙げてぎゅっと前を見据えているアリス。

いや、傍聴人は裁判に口を挟めないから。

裁判長も一瞬戸惑う。

「傍聴人は退席せよ」

そう命じた。

しかし…

「アリスを退席だと!?貴様、何様だ!?」

ここで口を挟む殿下。

殿下が相手だと裁判長もどうしていいかわからない。

「殿下、私はリナさんの話を聞きたいです!」

すかさず殿下におねだりするアリス。

…アリス貴女したたかになりましたね…。

それに頷く殿下。

…殿下、貴方はバカなままですね…。

二人に呆れた視線を送っていたが前を見る。

「….捜査班の異議を却下する。リナリーバー・ミハルバー、続けるように」

「はい、なぜこのようなことを申したかと言いますと、そもそも彼女は一体いつスチュワートと面識を持ったのかという点が不明だからです。

手紙を持ってうろついていた人物をスチュワートと断言するにはまず、ネクロスラーズ嬢がそれ以前にスチュワートと面識があったという事にほかなりませんが、それが不明確です。」

「裁判長、証人を証言台へ」

ウォルコット侯爵の言葉にやる気を見せるネクロスラーズ嬢。

「認める。リナリーバー・ミハルバー、並びにスチュワートは席に戻るように」

私達は席に戻る。

「お嬢様、何故あのようなことを….?」

彼の問いは無視する。

彼の言葉をここまで徹底して無視したのはこれが初めてかもしれない。

ネクロスラーズ嬢が証言台に立った。

「ネクロスラーズ・アイノス。これより証言を行う。

ここでの証言は先程の証言同様決して偽ってはならない。問題ないな?」

「はい、問題ありません」

「では、問おう。貴女が見た手紙を持ち王都はずれをうろうろしていた人物を貴女は何を根拠にスチュワートと断じたのか」

「勿論、私は彼と面識があったからです。」

「それはいつどこで出会ったのだ?」

「はい、それは地方から王都に向かう途中の森の中にある休憩所にて出会いました。

勿論、名乗りを聞いた訳ではありませんが、彼は目立つ容姿をしていますので、その後、手紙を持ってうろついていた人物が彼だとわかり驚いたのです。」

「成る程、では証人は席へ戻るように。」

ドヤ顔で私を一瞥しましたが貴女墓穴掘りましたからね?

入れ替わるようにして、私達は証言台に立つ。

「このように証人は申しておるが?」

「ええ、森で出会ったそうで。スチュワート、貴方なんで森にいたの?」

「は、ワトソン伯爵領地へ向かう為でございます。」

「では、彼女と森で出会った後、ワトソン伯爵領地へ向かった?」

「はい」

「…と、いう訳で、彼は王都とは真逆の方向へと進んだようですが….?

手紙を持ってうろついていた人物はスチュワートではない可能性が高いかと思慮します。」

「証人前へ」

私達は下がりネクロスラーズ嬢が前に出る

「証人、証言せよ」

「は、はい!えっと、もしかしたら森で出会った人物はスチュワートではなかったかもしれません。」

おっと前回の証言を覆した!

「それは偽証であったと?」

「いいえ!違います。単なる勘違い、誤りであり法廷を欺く目的はありません。」

「次、証言が覆れば貴女は宣言書の内容を執行する。」

裁判長の言葉にぶるりと震える。

お金を取られるのは嫌だけど、それ以上に禁固刑一年が嫌なのだろう。

「手紙を持ってうろついていた人物を見た時は彼を知らず気にも止めておりませんでした。

しかし、仮面舞踏会、彼自ら仮面を外した時に王都はずれで会った男と認識したのです。」

「リナリーバー・ミハルバー前へ!」

「今の証言に対して言う事はあるか?」

「はい、彼女の証言はスチュワートの証言と矛盾致します。

ネクロスラーズ嬢は王都はずれをうろうろしていた人物をスチュワートと証言し、対するスチュワートはその時刻は森の中にいたと証言しております。

ネクロスラーズ嬢が森の外に出たのは夕刻頃と想定されますが、スチュワートの証言が正しかった場合、スチュワートはその頃森の野営地にいた事になります。

まず、王都はずれをうろうろすることなど不可能かと思いますが?」

「異議あり!」

「認める」

「被告人の証言と宣言書に署名し真実を述べると誓った証人とでは証言の重みが違います!

矛盾した場合は証人の証言を優先すべきです!」

普通の裁判ではあり得ない。

矛盾が発生した場合はその矛盾をついてどちらが偽証しているかを追求するのが当たり前だし、それが出来ないならば、それは裁判ではない。

これは形だけの裁判ではあるが、書記官がいてきちんと記録に残るものでもあった。

記録に残る以上最低限の形式は整える必要がある。従って…

「異議を却下する」

「裁判長!」

「静粛に!」

カンと木槌を鳴らしてウォルコット侯爵を黙らせると、私を見据える。

「リナリーバー・ミハルバーが法廷を惑わす為の手管を用いている可能性もあるが、証言が矛盾しているのも事実。

よって、証言の信用性を確認する必要がある。

リナリーバー・ミハルバー、己の陳述を裏付ける証拠、証人はいるのか?」

裁判長はないと答えると思い問いかけてきたのだろう。

ここで無いと答えたら、私の陳述は信用性に欠けるとしてネクロスラーズ嬢の証言が採用されてしまう。

そんなものは無いとたかをくくったウォルコット侯爵が嫌らしい笑顔を向ける。

「勿論、証人がおります」

しかし、彼らの予想を裏切り私は告げた。

法廷が騒がしくなる。

「静粛に!」

裁判長がカンカンと木槌を鳴らす。

「その証人は十分以内に出廷可能か」

普通、事前に打ち合わせでもしていない限り法廷に十分で出廷など不可能だ。

しかし、ここで出来ないと告げればその証人は実在しないと断定され、やはりネクロスラーズ嬢の証言が採用されることになる。

「はい、可能です」

法廷が再度騒然とした。

裁判長すら慄き、木槌を叩いて場をおさめることを忘れてしまう。

「そ、そんなの嘘だ!不可能だ!」

ウォルコット侯爵が叫ぶ。

その声を受けて私はわざとらしく驚くふりをした。

「まあ!ウォルコット侯爵は裁判長が出来もしない事を求めたと言いますの!?」

普通の裁判では裁判長は中立公平である。

決してどちらか一方に肩入れしないし、履行不可能な条件など求めたりしない。

それは名ばかり裁判である本裁判でも適用される普遍的原則である。

それを出来ないと一刀両断に切り捨てる行為は法廷侮辱罪にあたりこのまま不可能と叫び続ければウォルコット侯爵は法廷からつまみ出される。

それに気づいたウォルコット侯爵は舌打ちをした。

ふふん、ウォルコット侯爵なんて所詮脳筋なのだ。

仮にも王妃教育で回転速度を限界まで引き上げた私の口に勝とうなど百年早い!

「では、証人到着まで暫しの休憩…」

「いえ、私の後ろに証人はおります。」

言って私は体をずらした。

まあ、ずらさなくても背丈が私よりあるナグは皆によく見えているのだけれど。

「私は彼を証人として召喚する事を求めます。」

「異議あり!」

「異議を認める」

「彼はそこのリナリーバー・ミハルバーの甘言に惑わされ王城に反乱分子を招いた張本人!

証人としての資質が疑われます」

「言われてみればそうね?」

私はウォルコット侯爵の言葉を認めた。

これは予想外だったみたいでウォルコット侯爵は鼻白む。

「続けても?」

「認める」

反論の言葉を最初に紡いでいれば認められなかったであろう許可を得て私は微笑む。

裁判長の許可なく話すという無礼を働いたかいがあった。

「ナグ、そういえば貴方どうやってここにいることが許されたの?」

「許されたというか、特に咎めがありませんでしたが。」

そう、彼は堂々と私と一緒にこの法廷に入った。

そして今の今まで入廷したことも、私と共にいることも誰にも咎められることはなかった。

「入廷出来た者に証言資格がないというのはおかしな話ですわよね?」

小首を傾げで私は言う。

最初から彼は私の陣営にいるのに何を今更問題にしているのだと暗に問いかけたのだ。

問題があればもっと早くに言えという話である。

顔や身分を偽り入廷した訳ではないので、気づきませんでしたは通用しない。

よしんば言ってみて万一通じればそれは不審者を法廷に堂々と入廷させたという裁判所開設以来の不祥事として歴史に名前が残るだろう。

「…!!」

悔しそうに歯噛みするウォルコット侯爵。

そんな些事に構ってる暇なくなりますよ?

ショーはこれから開幕するのですから。

「…証言を許可する。」

裁判長が選択の余地なしと苦渋の決断をした。

その言葉にナグは宣誓し書類に署名する。

これで彼はネクロスラーズ嬢と同じ立場に立った。

「では、ナグ、スチュワートとはどこかで出会ったか?」

「はい、私は彼、スチュワートと森の野営地にてお会いしました。

間違いなく本人であると証言します。」

「そんなの嘘よ!」

腰を浮かせてネクロスラーズ嬢が叫んだ。

「証人ネクロスラーズ・アイノス証言台へ」

裁判長が彼女を呼び寄せる。

私達は一度席へ戻る。

「証人ネクロスラーズ嬢、もう一度証言を願う。

貴女は森の外でスチュワートを見た。

相違ないな?」

「ありません!」

「その証言を裏付ける証人なり証拠なりはあるか?」

「…!」

彼女は唇を噛み締めた。

「あら?いるでしょう?」

皆が私に注目した。

「裁判長、発言の許可を」

「認めよう」

「ネクロスラーズ嬢は王都に向かう途中でスチュワートと思しき人物を目撃したという証言をしています。

はて、彼女はたった一人で森を抜けてきたのでしょうか?

それはあり得ませんね。

護衛がいたでしょうし…何より…いましたよね?

可愛い妹君が。」

「なんで知って!?」

「スチュワートから聞きましたわぁー。」

しれっと嘘を言う。

私は宣誓してないもーん。

「さて、今のネクロスラーズ嬢の言葉でどうやら一人で森を抜けた訳ではないと確定しました。

共に森を抜けた者…例えば妹君にこの場で宣誓して貰い証言を得ればよろしいかと愚考します。」

「そ、そうだ!ネクロスラーズ嬢!妹君の召喚は可能か!?

今はどこにいる!?時間が許す限りこの場で待とう!!」

私の時とは大違いな事をウォルコット侯爵は言う。

「宣誓って重たいですわよね…」

独り言のように言う。

まあ、独り言にしては大声なのだが。

「当たり前だ!」

ウォルコット侯爵が噛み付いてきた。

「姉妹で誓って万一誓約違反をしたら罰金は倍ですよね?

まあ、アイノス家ならば痛くもない…とは言いませんが、支払い不能ということはありませんわよね。

ちょっとばっかし、領地が削れるかもしれませんが。

…問題は禁固刑ですわねぇ。」

私は頬に手を置きわざとらしくため息をついてみる。

「一年ですわよ。女性で禁固刑一年。

貴族も平民も関係ない刑務所で一年。

そんな所に入ったら一年後戻ってきても社交界にも家にも居場所はないでしょうし、縁談にもさし障るでしょうね。

更には身内にそのような不祥事を働いた者を輩出した汚名はそう簡単には拭えない…。

それが姉妹揃って…なんてことになったら笑えませんわねぇ。

あ、そういえば妹君はまだ子供でしたわね?

確か、子供も同じ扱いなんでしたっけ?

大人に混じって刑務所暮らし…。

余程神経太くないと刑務所で衰弱死もあり得る…」

「うわぁぁあ!!!」

遂に堪えきれずネクロスラーズ嬢はその場で泣き崩れた。

自分よりも妹が….と思うと耐えられなかったのだろう。

シスコンなのは初対面で感じてたからね。

いやー、しかし簡単に折れたな。

「ね、ネクロスラーズ嬢!?」

「ごめんなさい!私が浅はかでした!!」

ウォルコット侯爵の動揺の声を抑えて彼女は叫ぶ。

「な、何を!?裁判長!リナリーバー・ミハルバーの精神攻撃に彼女は神経を毒されたようです!

退廷の許可を!!」

「それは大変!体調が悪いならば、すぐに家族の元に帰り体を休めるべきだわ。

…ところで、宣誓内容に偽りがある可能性があった場合、刑が確定した後調べたりするのかしら?」

答えはしない。

確定した刑は余程のことがない限り覆らないから。

それこそ、冤罪を着せられた人間の支援者が必死に訴えて再審請求して認められない限りはあり得ない。

だけど、裁判所はめったに再審を認めない。

余程の新証拠でもない限りは。

特に私は形だけの裁判なのだ。

再審請求の書類を書いている間に首が胴体から離れるだろう。

だから、このまま退廷してしまうのが賢い。

賢いのだが…。

「うわぁぁぁ!!」

予想通りネクロスラーズ嬢は証言台にしがみついて離れない。

「偽証したら罪に問われるのはわかっていたはず。

でも、しなければならない事情があれば問答無用で刑務所送りは回避出来るかもしれませんねー」

これまた独り言風に言う。

さて、何が出る?

単に私が嫌いで彼女は私を嵌めたくて偽証した?

それとも…

青ざめたウォルコット侯爵。

なんとしてでも外に追い出そうと彼女を証言台から無理に引き剥がした。

目がマジだ。

これはやらかしたな。

偽造された手紙とやらが裁判に証拠として提出された時点でおかしいと思っていた。

あるはずないものがある時、それは偽物確定である。

では、その偽物を堂々ともってきた、捜査全権を委任されたウォルコット侯爵は果たして?

「うわぁぁぁ!!この人が!そう証言しろってぇぇぇ!!!」

特大爆弾を法廷に放り込んだ。

『この人』とは言うまでもなくウォルコット侯爵である。

「な、何を!?偽証罪に問われるのが怖くなって私に罪をなすりつけるか!?

裁判長!この女を退廷処分ならびに偽証罪の疑いで拘留願います!」

「許可する」

「うわぁぁぁ!!」

騎士二人掛かりで引きずられるようにして退廷するネクロスラーズ嬢。

それを笑顔で見送る私。

いや、満足した。

私の死後、彼女は間違いなく偽証罪に問われて刑務所送りになる。

回避するにはウォルコット侯爵に言わされたという証明でもしない限りは無理だが、彼女とウォルコット侯爵ではウォルコット侯爵に軍配があがるだろう。

そして、貴族として、女として終わるのだ。

あーーーー!すっきりしたぁぁぁ!!!

仮面舞踏会の件といい黒百合の塔の一件といい根に持ってましたからね。

はからずも一矢報いて満足満足。

さて、彼女の件は消えたし、本題に入ろう。

「裁判長、証言台に戻っても?」

「あ…許可する」

裁判長は呆然としていたが我に返って指示する。

誰も何も言わないが、この場にいる誰もがウォルコット侯爵を疑っているのは火を見るより明らかだ。

彼は彼で私の死後大変だろう。

「さて、捜査班が提出した証拠その三は証拠能力を失いました。

よって、私は改めて今回の事件は私、リナリーバー・ミハルバー単独による犯行であるとこの場で自白します。」

「お嬢様!?何故そのようなことを!?」

「事実を述べたまで。」

「事実!?お嬢様は何もしていません!!

誰も王家に弓など引いていないではありませんか!?」

「…と、このようにスチュワートは事件そのものを存じておりません。

このように無知な者に大それた犯行など可能でしょうか?」

「リナリーバー・ミハルバーの言いたいことはわかった。

では、その証言が正しいと裏付ける証拠、証人はいるのか?」

「それはスチュワートがやって『ない』ことを証明せよということでしょうか?

でしたら、現状ないとしか申し上げられません。」

なにか『やった』のではなくやって『ない』ことの証明は悪魔の証明とも言われる。

やったことの証明よりも遥かに難しい。

そんなもの、あるはずないので素直に答える。

「しかし、裁判長が必要とおっしゃるのでしたら揃えてみせましょう。

まあ、さすがに十分とはいきませんが。」

皮肉をまじえて私は言う。

「しかし、それでは話が進みませんので、論理的思考で考えて頂きたい。

そもそも、手紙を抱えてうろついていた人物がスチュワートでないのならば、一体彼はどこで今回の事件に関わっていたのでしょう?

事件は大きくわけてみっつのパートに分かれます。

計画、準備、実行です。

彼に今回の事件を計画する理由があるでしょうか。

ありません。では私にはあるでしょうか。

あります。アリスリーザ・ベルガーネットが憎い、私を愛してくれない殿下が憎い、アリスリーザ・ベルガーネットを認める王家が憎い、ならば、いっそ滅べばよいと考えたからです。

また、私が計画を立てた証拠として捜査班が提出した証拠その一、その二がありますが、スチュワートが計画を立てたとする証拠はありません。

続いて準備ですが、これほどの大事件を勢いだけでなし得ることは不可能です。

予め反乱分子とのやりとり、獣人ジェイドとの密通、仮面舞踏会への乱入への手引きに金銭的援助などやるべき事は多岐に渡ります。

それがスチュワートに可能でしょうか?

スチュワートは私専属の執事で常に私の側に侍っております。

彼が私の側から離れるなどの不穏な動きは大変目立ちます。

もし、そういう時があれば屋敷の人間が覚えているかと思われますが、そういう証言をここに用意しなかったのは、なかったからでしょう。

さすがに我が家の使用人は偽証などという愚かな事をしてまで私を死罪にする理由はありませんからね。

私から離れる事も叶わず、多数の目が光る中、一使用人が用意するには桁違いの大金を流出させるなんて事可能でしょうか。

少なくてもスチュワート個人資産、公爵家の資産は動いてないのではないでしょうか。

不審な動きがあれば証拠として提出しますものね。」

犯罪立証において金銭の出入り確認は基本のキです。

「そして、最も重要なところ、実行。

実行とは直接手を下したかどうかです。

彼は陛下を刺しましたか?いいえ、陛下を刺したのは獣人ジェイド。

その時、スチュワートは一体何をしていたのでしょうか….?」

彼らの記憶の中で一体スチュワートが何をどうしていたのか、それはわからない。

しかし、ジェイドが陛下を刺そうとしたという記憶があることはわかっている。

特になにか言われる事もないので、さらに続ける。

「何もしてません。ただ事態の推移を見守っていただけです。

何も知らない彼はもしかしたらジェイドが私を襲うかもしれないとすら考えていたことでしょう。

場合によってはその身を盾にして守るつもりですらあったかもしれません。

そんなことあるはずないということを全く知らず滑稽な話です。」

クスクスと笑う。

「な、何を仰っているのですか?お嬢様?」

私の言葉にただひたすら困惑するスチュワート。

いや、頭のいい彼のことだ、私の話の行く末が見えたのだろう。

「これだけ、彼が犯行の一部すら担っていないことは明らかなのに、皆さんは彼が私の共犯だと言います。

それは、なぜか。それは常に私の側にいる彼は私の命令に絶対服従と知っているからこそ、そう思い込んだにすぎません。

そして、私もその思い込みを利用して、万一の時は彼に全ての罪を着せて逃げ切ろうと思いました。」

ここで意味ありげに後ろにいるアリスを見る。

そしてすぐに前をむく。

「しかし、その企みもアリスリーザ・ベルガーネットに見破られ私は捕まってしまったのです。

こうなってはさしもの私も逃げることなど叶いません。

となれば、最後に残るのは貴族の娘として生まれた矜持のみ。そこに『平民』たるスチュワートが入り込む隙間はないのです。

故に、私は貴族の矜持を持って罪を告白し、懺悔し、そして、いかなる刑にも処されましょう。

それを邪魔するものはたとえ、専属執事として十年仕えたスチュワートといえども許しはしません。」

私はスチュワートを睨む。

敵意を込めて。

怯むスチュワート。

彼を敵とみなしたことはない。

従ってこのような目を向けたこともない。

「そのような戯言を信じろというのか!?」

ウォルコット侯爵が場を忘れて追及する。

「さあ?信じる信じないはどちらでもいいのです。

ただ、私は貴族として生きてきたので貴族として死にたいのです。

リナリーバー・ミハルバーは己の持てる限りの知略を巡らせ王家に弓を引きそして破れて死んだと。

その記録にいないはずの共犯者の名前が連なるのは我慢できません。」

私はここに至るまで、自分単独犯という証拠もスチュワートが無実であるという証拠も提出していない。

しかし、これはリナリーバー・ミハルバーという世紀の大悪党を処刑するのが最大の目的であり、スチュワートはいわばとばっちり。

彼の処刑は私ほど強くは求められていない。

故に彼の判決結果が求刑と異なり無期懲役となってもいいはずなのだ。

私は暗に彼の処刑を回避するなら全ての罪を自白し、貴方方にとって都合のいい処刑を受け入れると。

しかし、それが受け入れられないのであれば、証拠を出すよと脅したのだ。

まあ、はったりなのだが、それを試す時間も根性も彼らにはない。

駆け足裁判の弊害だ。

まあ、この手を使ってもスチュワートが無罪放免とはならない。

すまんが、無実の証明は私の死後自身の手で支援者を募るなりして自分でなんとかしてくれ。

物凄く時間とお金がかかるだろうが、こんな私に関わったのが運の尽きと思い諦めて貰うしかない。

娑婆に出たら私の墓…あるのかも怪しいが…に蹴りの一つもいれて憂さ晴らしくらいは許してやる。

「リナリーバー・ミハルバーの陳述は以上となります。」

「続いてスチュワートの陳述。何かあるか?」

裁判長は言った。










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