仮面舞踏会裏側
リュド様と踊った給仕係視点
仮面舞踏会が終わり私は自宅に帰ってきた。
自室に戻った途端、笑顔で迎える声がした。
「おっかえりー!」
彼女は机の上に座ってりんごをしゃりしゃりと食べていた。
「どーだったー?」
能天気な声に私はどっと疲れた。
「いや、もう、なにがなんだか…」
私はベッドに横に倒れこんで言う。
「うまくいかなかったの?」
「うまくいったけど、結局予定通りに物事はすすんだ」
「だめじゃーん!」
楽しそうに言ってくれるじゃない。
そりゃ、貴女は関係ないものね。
「でも、全てが予定通りって訳でもないのよ。」
「へえ?」
「見ていた私にもさっぱりわからなかったけど、主要人物はなんか予定通りに動いてない感じ。」
「んー?なにそれ?」
「いや、ホントなんなんだろうね。」
私はため息混じりにそう呟いた。
はじめにおかしいと思ったのは、いつまで待っても王国に蝶の群れがこなかった事だ。
ある程度の時期は決まっていたが、日時までは決まっていない。
しかし、ここまで遅れることは今までなかった。
やきもきしていると、長雨が降った。
これで本格的におかしいと悟る。
この雨で蝶は全滅して王国は助かるのだ。
なのに、蝶より先に雨が降ってしまった。
これでは王国が助からない。
そう青ざめる私をあざ笑うかのように、結局今日まで蝶はこなかった。
と、なると今度は補正が怖い。
どんな補正がかかり、どのような未来へと突き進むのかが…。
しかし、補正も特段起こらない。
と、なると補正しなくても物語は問題なく決められた未来へと進んでいるということだ。
完全に私の手から離れて進んでいる未来は今までとは明らかに異質。
私が動かないと今なにが起こっているのかがわからないと悟り、調査を開始する。
するとフェリルを倒したリズという冒険者の正体が本来の人物ではないことがわかった。
本来の人物はその頃王城で勉強していたっぽい。
じゃあ誰だよ!と思ってさらに調べてみたら、まさかまさかのリナリーバー・ミハルバーに行き着いた。
いや、びっくりするくらい簡単に判明した。
だってスチュワートを連れていたって証言がザック様から取れたんだもの…。
ザック様はフェリル戦では強制参加者だから言葉巧みに聞いてみたらスチュワートの名前が上がったのだ。
スチュワートを連れて歩けるのは彼女しかいない。
いや、本気でびっくりした。
彼女は今頃アリスを殺す為に頭をひねっている頃だから。
なんで、フェリルと戦っているのかが理解出来ない。
しかし、彼女がリズを名乗りアリスの代わりにフェリルを退治した。
後日調査ではアリス本人がザック様に加えて殿下とリュド様を連れて調査を行い王国に謎の危機が訪れようとしていることが判明する訳で、まあ、その通りにはなった。
頭からお腹は全然違う進行状況だったけど。
そして、蝶の一件。
調べてみたら調査中にリナリーバー・ミハルバーと出くわしているらしい。
ここでもしやと思い必死で調べたら、彼女が蝶を森の中で撃ち落としていたことが判明。
結果として王都の蝶襲撃イベントが回避されてしまった。
しかし、補正は起こらない。
王国は穏やかな日々を過ごす。
てゆーか、彼女は何しに行ったんだと思っていたらオリハルコンを採りに行っていた模様。
何故にオリハルコン?と思いきや噂で光の羽の雨が降り注いだと聞こえてきた。
しかもその場所はアリスの養い親の領地にして、アリス唯一の味方である優しき伯爵、ワトソン氏の所だった。
これも本来はアリスが味方になってくれたワトソン氏のためにできる事を考えて、オリハルコン採掘に乗り出すはずなのだが。
勿論、彼女一人では何も出来ないので、ザック様、リュド様、殿下の四人パーティで乗り出す。
その先で光の妖精の子供に出会い気に入られたアリスは殿下との愛の祝福として光の羽の雨を見るのだが…。
なんで、リナリーバーが見てるのか。
何を祝福されたのか。
さっぱりわからないが、光の羽の雨のおかげでワトソン伯爵の地位は向上し、アリスの父親である男爵よりも格上貴族だったがお金がなかったせいで強く出れなかった彼がアリスの養父へと正式に名乗りをあげてアリスを養女にした。
これも結果として決められた未来通りに動いた。
途中が全く違うけど。
ここに至って漸くリナリーバーに注目した。
彼女はなせがアリスがやるべき戦闘パートを担当している。
何がしたいのかさっぱりわからない。
わからないが、結果的には決められた未来通りになっているから補正がかかっていない。
この世界は最終的に決められた未来通りにさえなればその過程はあまり重要視されない。
そのおかげで補正を免れている…!
ここで私は諦めていた希望を見出した。
もしかしたら、私達はこの世界を欺き、自由を手にすることができるのではないかと。
ならば、その為の協力は惜しまない。
「だから、殿下を攫って黒百合の塔に閉じ込めてみたのよね。」
ぶはっ
机の上の彼女がりんごを吹いた。
「げほっ!あんた…なんつーことを…」
「いや、どう考えても殿下が邪魔だったんだよね。」
断罪には殿下が必須。
しかし、その殿下がいなければ?
それは断罪ではなく単なるアリス講評の場となる。
仮面舞踏会、陛下、アリス、リナリーバーが揃えば最低限の『場』は整うし、アリス講評は断罪にも取れる。
彼女の評価は高いのだから。
しかし、世の中予想通りにはいかない。
邪魔が入ったのだ。
獣人襲撃イベントの発生である。
これは起こる可能性が低い。
ここ最近はなかったので私もすっかり忘れていた。
そして、途中からは私も知らない事が起こる。
いや、半分は知ってる。
『生きたる亡者』の発生だ。
しかし、ここでの発生は知らない。
しかし、今までも私の知らない道筋をたどってここまできたのだ、こういうこともあるかと死んだふりをして凌ぐ。
そして、静かになったと思ったら大規模補正の発生。
全てはなかったことになった。
そこで、リナリーバーの口から男の声がして私の事を話していた。
探せと言っていたからここにいる事を知らない模様。
まあ、うまく隠れているからね。
だけど、彼のおかげか主要人物が補正に巻き込まれずにすんだ。
これは大きい。
少なくても希望を持つ程には大きなことだ。
捕らえておいたはずの殿下は気づけばここにいて用意されていた筋書きを諳んじる。
そして、それが正しくなり、リナリーバーは断罪され囚われた。
「大変だったねー」
「お気楽ご気楽だね。」
むっとしつつ言う。
こいつの存在理由がわからない。
本当に絵に描いたようなマスコットキャラである。
「で、どうするの?」
「とりあえず、リナリーバーが鍵なのはわかった。助ける。」
「また危ない橋を渡るね。」
「私は絶対に死なない。」
「その根拠が何度説明されてもわからないんだよね。」
りんごを食べながら彼女は言う。
私も説明はとっくの昔に諦めた。
「まあ、殿下をとっ捕まえた実績があるし、大丈夫よ。」
「よくトラブルなく捕まえたよね。」
「あったに決まってるでしょうが。」
「へえ?」
正確には殿下をとっ捕まえた後、黒百合の塔に放り込んだ後の帰り道にばったりリュド様に出くわしてしまったのだ。
まさか、そんなところで出くわすなんて思わなかったので、思わず『やべ!リュドがいる!』って口走ってしまった。
それがまずかった。
仮面を被った男の正体を秒速で見破ればそりゃ不審がられる。
当然詰問されるがのらりくらりとかわしていたら、人がきた。
その人達が私達をみて『あらやだ、お楽しみ?』とか言っていなくなった時のいたたまれなさと言ったら!!
思い出すだけで死にたくなる。
しかし、それでもめげずにリュド様は私を連れてダンスフロアへ。
何事かと思ったらダンスしながらなら男女がくっついていてもおかしくはないだろうと。
さあ、吐け、とダンスの間中ずーっと詰問されていた。
音楽が終わってもそのまま二曲目に突入しそうな勢いだったので、全力で逃げてやった。
その後、リナリーバーとアリスに捕まり汚れたドレスの後始末をさせられた。
いずれも最悪の思い出である。
「まあ、楽しかったんだね。」
「あんた、何聞いてた。」
私は彼女をじろっと睨む。
「で、どうやって助けるの?」
「そこよね!」
私は考える。
どう考えても普通に黒百合の塔に侵入したって補正がかかってしまう。
ここは公開処刑の場で助けるしかない。
それも、彼女が死んだと世界が見做した後で。
しかし、そんな瞬間があるのか?
私は必死に考える。
この世界で私にしかないアドバンテージ。
私はこの世界を上からみた経験があるのだ。
その経験と現実の差異をつく。
たとえば…。
上からみた時、リナリーバーは断罪された後、次の場面では処刑されていた。
『こうして悪は滅んだ。打ち落とされた首は城門前に晒されて国民から石を投げられた。
平民を馬鹿にして贅沢をしていたツケだ…』
という文で締めくくられて以降彼女は出てこない。
必ずこの文の裏をついてリナリーバーを助けなくてはならないのだ。
「出来るの?」
「さあね?」
自信はない。
しかし、やらねばならない。
私はもうこの世界に飽きた。
死んで終わりでも、さらに未来が続くでもいいから変化が欲しい。
その為ならやってやる。




