黒百合の塔〜甘い毒を垂れ流す〜
虐めの描写、性的表現あります。
苦手な方は回避推奨。
ほんと、マジで。
足音は部屋の前で止まった。
そしてノックもせずにドアを開けはなつ。
「!?」
「…?」
目が合った途端何故かたじろぐ彼ら。
人数は四人。
女一人に男が三人。
女はよく知っているが男は知らない。
「どほかさへまひたか?」
彼らのたじろぎが疑問だったので聞いたのだが、猿轡のせいで言葉の発音が不明瞭になってしまった。
しかし、女は私の言葉を正確に聞き取ったようで声を張り上げる。
「ほーっほっほ!貴女がリナリーバー・ミハルバーね!?
なーーんて無様なのでしょう!!
その、お姿に一瞬驚きましたが、これは見慣れれば愉快痛快ではありませんか!!!」
青いポニーテールを揺らし豪華なドレスを見せびらかすようにヒラヒラさせながらネクロスラーズ嬢は言う。
まさか私を見にきたのか。
この子暇なんだなぁ。
なんとなく哀れに思ったが私も人の事が言えないので彼女をじっと見る。
「昨日から湯浴みしていませんのね!?
ほほほっ!私は薔薇の花びらを浮かべたバスタブでたっぷり半刻程湯浴みを楽しみましたの!」
艶やかな髪をいじりながら言う。
ほんのり薔薇の香りが漂ってきた。
「それにこのドレス!!王都で貴女に会うためにわざわざ買いましたの!!
金貨が十枚もしましたわ!ほら、ここにダイヤが埋め込まれていてこうやるとキラキラとしますの!」
言って彼女はくるっとターンを決める。
ドレスはひらりと広がり彼女の言う通りキラキラと光る。
「これも国母候補たる貴女に会う為失礼になってはいけないという配慮だったのですが。
ほーっほっほ!まさかこんな事を仕出かしてこぉぉんな無様なお姿になられるとは!!
悪いことは出来ないものですねぇぇ!!」
ニヤニヤと彼女は言う。
「見まして!?彼女の髪!湯浴みをしていないのでしょうね、べっとりとしていて汚なぁぁい!」
私の髪をぐいぐいひっぱって言う。
痛いんですけど?
言葉は発音が不明瞭になるので睨んで抗議する。
一瞬彼女は怯むがすぐに立ち直る。
「ふ、ふん!その態度気に入らないわ!
貴女自分の立場がわかっていなくてよ!?
貴女は間も無く処刑される大罪人!頭が高い!」
言って彼女は私の頭をつかんで床に投げ付けようとする。
そのせいで私はソファから落ちてしまい彼女の足元に転がる。
「ほーっほっほ!なんて気分がいいのでしょう!
私はずーーっと貴女の予備扱いでしたの!
何をどれだけこなしてもミハルバー公爵令嬢様ならばもっと上手くやる、もっと上だと叱責される日々…。
所詮二番手扱いでしたが!この女の化けの皮が剥がれたおかげで私はようやく正しい評価を下されましたの!!
でも、それだけじゃ足りません!!貴女には死ぬ前に私が受けてきた屈辱の一端を受けるべきですわ!!」
成る程、想像すると嫌な日々だ。
常に上がいてどんなに努力しても届かない。
周りは誰もその努力を認めずそれどころか所詮二番手と貶める。
毎日歯ぎしりしながら日々を送っていたら、その絶対上位者が王家に弓を引いてとっ捕まったのだ。
ここぞとばかりに見にくるし、うっぷんのひとつも晴らしにくるだろう。
知るかそんなもんといつもの私なら蹴散らしている。
しかし、今の私は口も聞けなければ手も動かせない。
認めたくはないが弱者なのだ。
せめて口がきければ言い負かしてやるものを!
悔しくて奥歯を噛み締めていると、彼女の連れ三人が動いた。
まずは金髪オールバックの青年だ。
彼がネクロスラーズ嬢の肩をぽんと叩いた。
「まあ!落ち着きなよ!」
場に似つかわしくない男の声に聞き覚えがあった。
「そうですね、まあ、この有様も実に魅力的ではありますが」
青い髪を結わいた男が眼鏡を指で押し上げながら言う。
彼の声も同じく聞き覚えがあった。
「み、魅力的って…」
引きつりながら言うのは最年少と思しき茶髪の少年。
彼も同じく声に聞き覚えがあった。
「ふ、ふん。」
ネクロスラーズ嬢は我に返って息を整える。
「で?約束通りにしていいんだよね?」
「勿論ですわ!」
金髪とネクロスラーズ嬢との会話に不安を覚えてじっと二人を見上げる。
ガシャン!
軽い木製の机が青髪の男に蹴り飛ばされて部屋の片隅へと追いやられる。
そして、茶髪君が床に膝をついて転がる私を仰向けにしたかと思うと私の上に乗り上げてきた。
「!!??」
何をしようとしているのか、理解出来ずに混乱する。
「クスクス…舞踏会で声をかけてきた男の相手をさながら娼婦のようにする…。男好きな貴女にはお似合いでなくて?」
ネクロスラーズ嬢は心底楽しそうに言う。
あの時私に声をかけてきた男三人が彼らだとようやく思い当たった。
一体どういう経緯で四人一緒に行動しているのかは知らないが、今の私は人生最大のピンチを迎えているのはわかる。
はらりと金髪の着ていたシャツが床に落ちて日焼けしていない白い肌を晒す。
これは本格的にヤバイと悟り上に乗る男を跳ね除けようと暴れる。
しかし、拘束された私は大した動きが出来ない。
青髪が自身のズボンのベルトを性急に緩めながら私の顔を舐めようとしようとして…
「動くな」
ぞっとする程無機質な声がしてそちらを見れば一人の騎士がネクロスラーズ嬢の首に剣をあて威嚇していた。
私はその様子に目を見開く。
「あ…な….!?」
ネクロスラーズ嬢の体がこわばりガタガタと震える。
「塔の見張りの隙をついて上手く侵入したようだが、お前たちの足跡が階段に続いていた。
まだまだ甘い。」
その言葉に青髪は不機嫌そうに騎士に声をかける。
「貴方も混ざります?」
「下賤な行為には加わらない」
「え?でも貴方そうしたかったんですよね?」
茶髪君が小首を傾げる。
「そ、そうですわ!ここにいる者は全員身分確かで口が硬い者たちです!
安心してもいいのですよ?….興奮されているようですし?」
クスリと笑うネクロスラーズ嬢。
意味は分からなかったが騎士は顔を紅潮させる。
…怒りで。
「っち!私は気に入らない行為には加わらない。
今なら見逃すが、大事にされたら困るのはそちらだろう!?」
『….!?』
全員が息を飲む。
黒百合の塔に幽閉されているのは犯罪者だ。
しかし、王城敷地内にある為、問題が起きればそれは王家が解決に乗り出す。
と、ならば、当然家に問題は降りかかる。
身分確かな家柄とやらが逆に問題となるのだ。
四人はしばし逡巡し…
金髪はシャツをさっと羽織り、青髪はベルトを直し、茶髪は私の上からどく。
それを見た騎士はネクロスラーズ嬢を離した。
「覚えておきなさい!」
見事な捨て台詞を残し四人は部屋から出て行った。
そして残された私と騎士。
騎士は私の側にくると手を伸ばし強制的につかんで起こす。
「無事ですか?」
「ええ。助かったわ。….ナグ」
まったく変な縁が続く奴だ。
髪が乱れたので手枷で不自由ではあったが直そうと動かす。
….確かにベタつく。
まあ、あれだけの大立ち回りをしたのだ。
汗臭く汚れていて当然だろう。
「…汚くないですよ?」
言って彼は私の髪を手に取り唇を落とす。
「!?」
私は目を見張る。
まさか、そのような事をするとは思わなかったのだ。
彼の記憶では私は毒婦なのだから。
しかし
「…などと言うと思ったか?」
言って私の髪を強くひっぱって無理矢理彼の腕のなかに私の頭をおさめる。
「あのまま男どもに弄ばれたかったか?
男好きだからな…!」
「そふなほとあいましぇん!」
そんなことはないと強く抗議したいのだが、不明瞭な発音は間抜けなだけであった。
だいたい男好きってなんなのだ!
断固抗議する!!
「舞踏会では随分楽しそうでしたね?」
ぐいぐいと私の頭を自身の胸に押し付ける。
ち、窒息する…!!
「男が貴女と踊りたがって列を作っていましたが、とても嬉しそうでしたね?」
だって初めての体験だったんですもん!
楽しんだっていーじゃん!
「私の事は遊びだったようですが、それにのぼせ上がって私は貴女のために賊を招き入れたんですよ?」
そこは私も知りません。
補正結果を押し付けられても困ります。
「本来ならば私は貴女に近すぎてここの警備にはつけなかったのですが、仲の良い友人に金を掴ませてわざわざ貴女に会いにきたのですよ?」
おかげさまで助かりました。
「そこまでして会いにきて男どもから守ってやったんだ、褒美くらいあってもいいでしょう?ね?」
ね?ってなんだ、ね?って。
だいたい褒美ってなんだ。
…そう考えて私は補正結果を思い出す。
彼は私の体目当てで賊を侵入させたのだった。
つまり、体が欲しいと。
だったらさっきあいつらと一緒に犯せばよかったとも思うのだが…あれか。輪姦は好みじゃないと。
まあ、よく知らない男三人に犯されるよりかはまあ、顔見知りのナグに犯される方がまだましか?
頭のなかで二つの損を天秤にかけてみる。
…ナグの方がやっぱりマシだけど嫌だなぁ。
かと言って魔法を使うのは奥の手だよな。
できれば初日の段階で魔法が口を封じられても使えるとバレるのは避けたい。
かといってか弱い令嬢が丈夫な騎士に力で勝てるはずもないし…。
とりあえず、話し合いたい。
「とひあへう、こへとっへくははい。」
とりあえず猿轡をとってくれと訴えてみる。
「取ったら何くれる?」
今の私にあげられるものは何もない。
体は回避の方向だ。
「なひがほひひ?」
何もない私にはとりあえず相手の希望を聞くくらいしかできない。
「唇。」
「はめ!」
即答で拒否った。
「なら、笑顔。」
「へかお…?」
そんなものでよければいくらでも。
私が頷くとナグは無言で猿轡をとった。
ぷは!
息苦しくない!
猿轡はやはり苦しかったのだ。
猿轡って考えたら拷問の一種だものね。
「笑え!」
ああ、はいはい。
にっこり。
令嬢スマイルをお見舞いしてやる。
それも王族に対する極上笑顔だ。
鏡の前で何万回と練習した最高の笑顔をくれてやった。
しかし…
「そんな作り笑顔じゃなくて本物をよこせ!」
「はあ?」
私は眉をしかめる。
そりゃ作り笑顔ですよ。
でも今の笑顔は会心の出来だった。
文句をつけるとは何事か。
「なら、私を笑わせてみせなさいよ!」
「お前自分の立場わかってるのか!?」
「あら。貴方こそ危うい橋を渡ったのではなくて?」
「…」
「…」
互いに立場はよろしくないのでそこはつかないこととする。
「で?何か用があってここまで来たのでしょう?」
補正結果に対する文句は受け付けてないぞ。
私は緩んだ彼の腕からするりと抜け出しソファに座りなおす。
「お前このままだと死ぬぞ」
「そうね。」
だから何か。
「それでいいのか?」
問われて私は笑う。
「私は自分が死ぬのは構わない。
ただ、残していきたい人がいて、そいつが追随してこないようにしたいと思うだけ」
「…あの執事か。」
言い当てられてバツが悪く視線をそらす。
「心中しないよう、後追い自殺をしないよう協力してやろうか」
「!?」
思わぬ申し出に私は彼をみる。
「その代わり褒美をよこせ!」
「何を望むの?」
「お前の心だ。」
「こころ?」
「お前が処刑されるその日その瞬間まで私に心を寄越せ」
つまり、愛せとな。
なんだ、簡単じゃないか。
拍子抜けする。
体を寄越せよりずっと簡単。
私は愛する事は得意だ。
「わかったわ」
二つ返事で頷く。
「なら来い」
「貴方が来なさい」
ポンポンとソファの隣を叩いて招く。
ナグは一瞬迷ったがすぐに座った。
そして肩に手を回してくる。
ドキッとしたが、所詮ナグなのだ。
すぐに平静となり彼にもたれかかるぐらい余裕ですることになる。
寧ろナグのほうが硬い。
片手で顔を覆っていたが、手では隠れない耳が真っ赤だ。
そんな彼を見てつくづく思った。
こいつは馬鹿だ。
補正結果を聞くところ彼は私に騙されたのだ。
ならば痛めつけるくらいすればいいのに、愚かにも同じ毒を舐めようとやってきた。
これを馬鹿と言わずとしてなんと言えばいいのか。
しかし、馬鹿とハサミは使いようと言う。
彼をうまく使ってスチュワートを死なせずに済むのならば喜んで甘い毒をナグが望むまま望む量をタレ流そう。
毒婦とはよくいったものだ。
まさしく私は毒婦だったのだ…!
次回別視点




