仮面舞踏会終焉〜補正〜
私の目がおかしい訳じゃない。
少なくてもスチュワート、アリス、リュド様、ザック様、偽物はアーミオン侯爵の言葉が理解出来ずにただひたすら困惑していた。
その時、私の体の中が熱くなり、吐き気をもよおす。
「…う…!?」
立っていられず私は両膝をついた。
「お嬢様!?」
すぐさまスチュワートが片膝をついて私の様子を伺う。
「どうなされましたか!?」
ーーなんでもない、大丈夫ーー
そう答えようとしたが、全く別の言葉が別人の声で吐き出された。
さながら体の熱を吐き出すように。
『補正がかかる!気をしっかりもたないと飲まれるぞ!』
「え?」
「は?」
一体誰の声か?
理解する間もなく周囲の時間がすごい勢いで巻き戻る!!!
『ーーーーー!!!???』
全員が息をのんだ。
声なんて出ない。
目の前で時間が私達を置き去りにして巻き戻るのだから。
死に絶えたゾンビもどきは復活する。
さらに時間が戻ればゾンビもどきは黒い靄を吐き出して単なる意識を失った或いは傷ついた人間へと戻る。
さらに時間が戻れば意識は戻り傷は癒えていく。
『!!!!??』
更に現れたのは死体から正しく作られ消滅したゾンビ達。
彼らは骨も肉も全てが粒子となり消滅したはずなのにいつの間にやら姿を現した。
彼らも黒い靄を体から垂れ流して動かない死体へと戻る。
そして更に時間が戻れば…死体は復活して生者となる。
そんな馬鹿な!!!
壊れた物も時間が戻れば新品同様へと戻る。
彼らの衣装も汚れや破れも消えてしまう。
まだまだ変化は終わらない。
彼らは移動を開始する。
後ろ歩きで移動しているのに決して誰かとぶつからない。
摩訶不思議な光景に呆然としていると、その流れに乗るようにアーミオン侯爵とウォルコット侯爵も後ろ歩きで向かってしまう。
「ーー母さん!?」
「親父!?」
二人が親を呼び手をつかむ。
親二人はいつの間にやら体の傷は癒え、魔力は完全回復し、服は新品同様に戻っていた。
掴んだ瞬間、彼らも時間が戻り始める。
『ーーーあ!?』
『離せ!それ以上戻ると戻れなくなるぞ!』
私の口からまたもや別人の声が漏れ意味不明な警告を発する。
その警告をきいたというよりは本能的に恐怖を感じて彼らは手を離す。
「ゾンビは!?」
「母さんは…!?」
二人は混乱しているようにも見えたが、もしかしたら治った傷の状態時まで記憶が戻ったのかもしれない。
「二人とも!落ち着いて!!」
アリスの困惑した声がして二人は落ち着きを取り戻す。
「え?」
「あ?」
『時間が戻るものに触れるな!』
私が私ではない声で私の意思を無視して喋る。
『記憶も戻るし、書き換えられる!!』
「は?」
「え?」
『間も無く、捕らえておいた王子がここに来る』
え?
殿下がここに!?
『本来彼はここにいて殿下とアリス嬢はダンスフロア中央でダンスをする予定だったのだから。』
なにそれ、予定?
予定ってなに!?
『だから、リナリーバー、全ては侵入者を倒した直後にもっとも近い状態で補正は終わる。』
侵入者を倒した直後?
この言葉の意味はすぐにわかる。
獣人達が一箇所に集められ縄にかけられている。
…そんな場面時間をいくら戻してもない!?
『時間を戻しても存在しない場面こそ補正。
それは外見だけでない。
時間逆行をした全ての者の記憶も補正される。』
記憶まで?
酷く嫌な予感がした。
『これより行われるのは王子とアリス主導によるリナリーバーの断罪』
『はぁ!?』
私以外の全員の声が揃った。
『獣人を手引きし、かつての飼い犬を騙して王家に弓を引かせた張本人として断罪されるのだ。』
まって!私はなにもしてない!!
『何かをしてる、してないは関係ない。
これは起こらなくてはならない強制イベントなのだから。』
イベントってなんだイベントって。
『リナリーバーは王家に弓を引き失敗した。
これより断罪される。それだけだ。』
なんで私が王家に弓を引かねばならないのか!
『王子を愛しているのにアリスに盗られたリナリーバーはアリスの王妃教育が気に入らず、また成長していくアリスに恐怖しアリスを殺そうとする。
それに手を貸すと申し出た謎の貴公子に力を貸す代わりに王族を殺せと依頼される。
了承したリナリーバーは実行に移したが、アリスの機転と勇気により失敗した。
今、ここだ。』
今ここって言われても…。
誰だよ、謎の貴公子って。
『…もう、我はここにはいられない。
間も無く王子が来るからだ。』
まって、貴方は誰!?
『誰とはつれない。ずっと其方と共にいたではないか。』
…
私と共にいた。
ずっと一緒にいたのはスチュワート。
でも、そういう意味じゃない。
となれば、英雄様?
ううん、性格が違う。
彼はもっと…バカっぽい。
じゃあ…!!!
私には二人の加護者がいる。
一人は英雄様。
そしてもう一人は…!!!
私の中の彼が笑った気がした。
ひぃぃぃ!
『リナリーバー、お前はこの断罪の結果死ぬ。』
は?
『我は出来る事が限られている故、もう何もできない。
いいか?本来スチュワート以外いない筈の仲間は作ってやった。
精々足掻いて生き残れ。そして、王子の足止めをした者を探せ。
我も知らぬ理から外れた者がいる。
其奴がいなければ我は其方らを守れなかった。
敵ではないだろう。
何か知っているかもしれない。
探せそして…!』
私の中の熱が消えた。
そして気づく。
時が正しく動いている事に。
私達はダンスフロア中央にいた。
騎士が私を取り囲み凄い勢いで捕らえて床に押さえつける。
「ナグ!貴様!!?」
スチュワートが声をあげた。
私を今床に押し付けているのはナグなのか!?
「よくも!騙したな!?」
は?
「知っていたらこいつらを通したりしなかったものを!
この毒婦が!!」
…ごめん、話についていけない…
私は困惑するしかなかった。




