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『口だけ悪鬼』は成長し本物の悪鬼へと相成りました

ランプのお陰で足元に不安はない。

先陣をスチュワート、三歩遅れてマリエリ、その後に続いて私、最後尾にロバートとなる。

道幅は決して狭くない。

しかし横一列になって全員が歩ける程広くもなかった。

自主的にマリエリはスチュワートから離れたので私の精神は何故か安定した。

この辺りをここで深く考えると死に繋がるような気がしてならないので、思考を放棄する。

事前通告通りあちらこちらに穴道があるし、分かれ道も過分に多い。

スチュワートは片手に羅針盤を持ち方向を常に見定め歩いていく。

時折どこからともなく話し声や足音が聞こえる。

おそらく私達より前に出発した人達のものだろう。

目視出来る程近くはないが、それなりの距離を開けた先には人がいるらしい。

不意に私の灯すランプに血だまりが映った。

「!?」

ランプを動かして周りを照らしてみれば、私とさして変わらない背丈をもつ犬の死骸が転がっていた。

「コボルトか。」

ロバートが言う。

「どうやら先陣の誰かがお掃除してくれたみたいね?」

「ははん、ラッキー!」

マリエリが言う。

ドス

スチュワートがナイフを投げて死骸を貫く。

勿論、死骸なのでうんともすんとも言わない。

スチュワートは近づきナイフを死骸から引き抜く。

「事実死んでいるようです。進んで問題ありません。」

ナイフをズボンの生地で拭き取りながら言う。

「やっだぁん、スチュワートってば!慎重〜」

「万一動いてお嬢様にお怪我があってはなりませんから。」

「お嬢ちゃんは足手まといだもんな!」

エリーの言葉に口元がひきつる。

誰が足手まといだ、誰が。

反論しようとした時、全員揃って進行方向へと視線を移す。

視線の先、目視可能ギリギリ範囲内にはT字路がある。

歴戦練磨なスチュワート達はそこに何か気配でも感じ取ったのだろうが、私は違う。

前方、何かを引きずる音と複数の聞きなれない足音がしたので見たにすぎない。

私は何だろうと思い見たに過ぎないが彼らは何かあると判断し警戒しながら前を見た。

この差があるなら足手まといもあながち間違いではないだろう。

反論はしない事にした。

そうこうしているうちにそれは現れた。

今、私達の近くに転がっている死骸の生きてるバージョンのもの。

二足歩行の犬が複数歩いて私達の前を横切ろうとしていた。

何か引きずってると思ったらそれはどうやら人間のようである。

先陣隊の誰かが惜しくも命を散らしたのであろう。

死んだ人間を引きずってどこに持っていくのだろうか。

そして、彼らが私達に気づかないなどあるのだろうか。

死体をどこに持っていくのかは不明なれど彼らが私達に気づかないはあり得ないという答えは一瞬で出た。

コボルト達は私達に気づくと足を止め方向をこちらに変え、死体から手を離す。

コボルトの数は全部で五体。

赤い瞳を爛々に輝かせて鋭い爪と牙を剥き出しにする。

後ろでロバートがサーベルを抜き放ち、スチュワートがナイフを構えて戦闘態勢に移行した。

しかし…

「あはん、スチュワート、ここは私達に任せて?」

マリーがそう言ってウインクひとつ。

「そーそー、俺達の成長を見てくれよ!」

エリーが腰の剣を抜いてマリーが杖を斜めに持って揃って前方に出た。

その様子にスチュワートは迷わずナイフを仕舞う。

「では、お先にどうぞ。」

「あらん、ここは俺が!と淑女を守るのが紳士の役目でなくて?」

「淑女は世界で唯一お嬢様のみでございます」

「じゃあ、俺達って何よ?」

不満げにエリーが言う。

「当時の印象そのままにお伝えしてもよろしいでしょうか?」

その言葉にマリエリが答えるより早くコボルト五体が走ってこちらにやってきた!

しかし、彼女達は不敵に嗤う。

「是非聞かせてん?」

そう言いながらマリーは腰を落として駆けた。

それは一陣の白い風と称しても良い程の速さであった。

白銀の杖を片手で前に突き出して最前列にいたコボルトこ鳩尾に一撃をいれる。

コボルトは勢いに押され地面に転がったが、それを見届けずにさらに近くにいたコボルトの右肩を杖で叩く。

どれ程の力で叩かれたのか、その一撃でコボルトの肩はひしゃ曲げ悲痛な声とともに両膝をついた。

だが、コボルトも黙って倒される訳ではない。

両膝をついた仲間を助けんと別の一体がマリーの背後から鋭い爪を向け切り裂こうとする。

が、残念ながらその爪が届くより早くコボルトの命は終わりを告げた。

エリーの剣がコボルトの首を一撃で跳ね飛ばしたからだ。

マリーが両膝をついたコボルトの頭を杖で押しつぶした。

脳味噌が肉片と血液に混じって飛び散る。

無事な二体がそれぞれ二人に襲いかかる。

エリーはその早く力のこもった一撃を片手で凌ぎ、二撃目で袈裟斬りにして倒す。

マリーは逆にドレスをわざと翻して太ももを色っぽく晒しながらコボルトの一撃を避け、その背中をとり頭を叩き潰した。

「ーーー悪鬼です。」

『うん、次はお前が死ぬか?』

一字一句違えずマリエリはスチュワートに言った。

「しかし、昔と変わらず隙が多く危なっかしい。」

スチュワートは言ってナイフを懐から出し投げた。

投げたナイフはマリーが最初の一撃で地面をに転がしたコボルトを狙った。

それは死んだふりをしており、マリエリの隙を伺って起き上がった瞬間をナイフは丁度捉え、喉元に刺さり絶命した。

「いやーーん!かっこいいーー!!」

「まさしく!英雄だな!」

言ってマリエリは私を見る。

何故私を見る。

あ、この連携を見せつけたかった訳ね。

はいはい、凄い凄い。

「スゲェな、流石はAランク冒険者だな。」

「あはん?褒めても何も出なくてよ?」

ロバートの絶賛に気を良くしたのかマリーがくねっとしながら言う。

この女、色気を振りまかなきゃ喋れないのか。

だが、そんな事を御構い無しにロバートは言う。

「いや、本気でスゲェなって思ったんだよ。」

「因みにどこが?」

「ヒール履いてるのにあんだけ早く走れるところ。」

『そこかよ』

これには私も含めて女性三人の突っ込みが決まった。

確かに凄いけどね。

私なんて靴履き替えたのに、彼女はドレスに合わせてハイヒール、しかもピンヒールであの速さ、そして動きを見せたのだ。

だが、注目ポイントは多分そこじゃない。

「おめー、おもしれぇなぁ!」

エリーがガハハと笑う。

相変わらず女性とは思えない下品な笑い声に顔を顰める。

「さて、昔は『口だけ悪鬼』、今は本物の悪鬼へと成長を遂げた二人の活躍で戦闘は終了。先を急ぎましょう。」

スチュワートはナイフを回収して先を歩く。

私達はその後に続いた。

…まあ、この二人クソ気に入らないが、実力はスチュワートが認めるだけはある、と言うことか。

エリーの剣は正確無慈悲。一撃必殺で敵を屠る。

マリーは杖…いや、棒と呼ぶべきなのか?

棒術とやらを駆使し、見た目に反する速さと力強さで敵を文字通り叩き潰す。

二人とも性格は置いておき美人なのに、やってる事はエグい。

悪鬼と呼ばれて当然だろう。

さらに私達は進む。

最初に言われた通り道は地味に下り坂。

ゆっくりゆっくり下降していく。

その時、スチュワートがカチっと何かを踏んだ。

「…?」

スチュワートが足を見る。

遥か後方でガタンという音がした事を私だけが気づいた。

「何かボタンのような物を踏んだのですが?」

ごろごろごろごろ…

「ねえ、後方から何かが転がる音が聞こえるんだけど?」

私とスチュワートが言い終わるより早く音が皆の耳にも届く。

そして後方を振り向けば道幅いっぱいの大岩!

まるでこの為だけに作ったかのような綺麗な球体の岩がこちらに向かってごろごろと…

「…って見てたら死ぬわ!」

私の突っ込みに全員我に返り走り出す。

ただし、令嬢たる私は走れないので、スチュワートが横抱きにして運ぶ。

最前列にいたスチュワートは迷わず私の元に来て抱き抱えてくれた。

たったそれだけで満足する。

「お前!自力で走れよ!」

「公爵令嬢たる私は走るなどという淑女の礼から外れるような真似は致しません。」

「状況を見なさい!」

エリーとマリーが突っ込んでくる。

「冷静に考えて私が自力で走るよりスチュワートに運ばせた方が早くてよ?」

「まさしくその通りでございます。

素晴らしい判断力、さすがはお嬢様。」

スチュワートの言葉に私は微笑む。

「笑ってる場合か!ーーあそこの道に逸れるぞ!」

ロバートの言葉に全員揃って横道に飛び込む。

直後大岩が通り過ぎてい…

がご

「止まった!?」

…かずに横道の入口を塞ぐ絶妙な場所で止まる。

「…どうやら先程の異音。大岩の重量に耐えきれず道の一部が陥没。

そこに大岩が嵌ったようですね。」

スチュワートが私を下降ろして、片膝をつきランプ片手に調査結果を伝える。

「申し訳ございません。私のミスです。」

「気にすんなー!」

「そうよん!まさか天下のスチュワート様が対モンスター用の罠にひっかかるなんて誰も思わないから!」

エリーとマリーか交互にスチュワートを慰める。

「…って、対モンスター用の罠?」

スチュワートが何かを踏むと同時に大岩が転がり逃げる。そこから横道にそれて大岩が道を塞ぐように絶妙な位置で止まる。

ここまでが一連の罠だろうが、それが対モンスター用だって?

「俺達人間だって死にたくはねぇが、持ち込める武器には限りがある。

なら、罠でも張って捕らえるなり殺すなりするってのが人間様の知恵って奴だろ?」

「そうは言いますが、誰がどこに仕掛けたのかは…。」

「そんなんわかるか。うっかり踏まねぇよう気張れってな。」

ロバートが言う。

その言葉に私は

ふと気付き口を開いた。

「…ねえ、その生存率を上げるという為という理由で罠を仕掛けたのならさ、もしかしてどこかに薬とか食べ物とか隠している人もいたりする?」

「あらーん、スチュワートのお気に入りなだけあって賢いじゃなぁい?」

私にまでくねっと色気を振りまいてマリーは言う。

「すげーな!お前!賢いぞー」

エリーが私の頭をわっしわっしと撫でる。

って!こら!触んな!!

その手を払ってぎろっと睨んでやったら口笛を吹いて下がった。

しかし、まさかと思って聞いたら当たりとか。

逆にびっくりだ。

この鉱山に入山する者はモンスターに襲われる確率が非常に高い。

しかし、武器の持ち込みは冒険者でもない限り禁止されてる中、彼らは必死に知恵を絞り罠を仕掛ける事にする。

私達が引っかかった罠は大岩の加工から考えて必殺の罠だったのだろう。

更に一歩踏み込んで入山者は考える。

自分が死にかけた時、道に迷った時何が欲しいのか。

答えは薬や食料だ。

それをモンスターに見つからないかつ取れない場所に隠す。

自分がいつかの時に使ってもいいし、誰かが己の命を繋ぐ為に使ってもいい。

ここでは人間は名前も顔も知らない間柄でも味方であり助けるべき仲間なのだ。

それぐらいの一致団結を見せなければモンスターに簡単に駆逐されてしまうと言うわけだ。

とはいえ罠は厄介だし、私は不必要に人助けなんてしないが。

「まあ気張れとは言ったが所詮素人がつけた罠だ。

注意深く観察して不用意に壁とかに触らなければ、まずかかんねぇ。

基本、犬っころを殺す為の簡易な罠だからな。」

「成る程、注意します。」

スチュワートが静かにいう。

「で、これからどうする?…この先は…」

ロバートが言いながら後ろを振り向く。

残念なことに道は続いておらず行き止まりとなっていた。

「あはん、まかせてん」

言ってマリーが棒で一突き。

なんと、大岩は脆くも崩れ去った。

怖っ!

これにはスチュワートも驚いたか無表情でごくりと喉をならす。

まあ、彼女のおかげで閉じ込められていた私達は横道から出る。

そして再び羅針盤片手に今度は足元を注意で進み始めたのだった。

さらに奥へと進みゆっくりと光が弱くなってきた頃、遠くで悲鳴が聞こえた。

…が、誰も走り出したりしない。

何故なら私達の進みたい方向から聞こえた訳ではなかったから。

しかも遠かったのでわざわざ駆け足で向かってもまず間に合わないとの判断を全員が相談なしでくだしたのである。

「へぇぇ?」

「あらん、これは意外」

マリエリが私を見て薄笑いを浮かべる。

「何が?」

「助けに行きましょう!とか言い出すかとおもったのにん」

「言い出したら面倒くせぇって思ってたんだよ」

「何故、この私がわざわざ足を運んでまで誰かを助けなくてはならないの?

そこに私に何か利があって?」

不思議に思い聞く。

「なーんにもなくても、場所が場所だから助け合い精神のもと死地へと行く人っているのよん」

「お嬢様は夢見る夢子ちゃんだから、自分達が正義の味方のつもりで誰彼構わず助けたがるもんかと思ったんだわ」

ん?

私は首をかしげる。

「何、その夢見る夢子ちゃんって」

「冒険者に憧れてこんなところまでスチュワートを盾にしてやってきたのでしょ?」

待て。

さっとスチュワートを見れば、スチュワートも驚いていた。

きちんと表情に出ていたから、これはマジで驚いている。

彼女達は私が魔法使いだとは知らない。

この格好でわかるだろうと思っていたが、単なる衣装だと思われたか。

「あの、私一応…」

「たすけてぇぇ!」

悲鳴が今度は近く後方で聞こえた。

しかも足音を聞く限りこちらに向かってる。

「どうする?夢子ちゃん??」

クスクスと意地悪な声をあげる。

「え?普通に前に進むよ?」

先程の言葉を切り上げて問いかけに答える。

「え?助けないのか!?」

エリーが驚く。

「何故?」

「今度は近いぜ。」

「近い遠いではなくて私がわざわざ足を向ける理由がないのです。」

「…」

エリーがちらっとスチュワートをみる。

スチュワートは無表情であり何を思っているのかは不明。

残酷だと非難しているのかもしれない。

「貴女は助けを求めてる人を誰も助けないのん?」

「私が歩いていく先に助けを求めてる人がいてその上でその状況を解決しなくてはならないようなら対応します。」

「…人助けはあくまでついで、なのね?」

「当然です。私達の目的は人助けではありませんから…?」

私は後ろを振り返った。

足音がすぐ近くからしたから。

その足音は私達にどんどん近づいてきて、遂に目視可能となる。

「たすけ…」

その人は手を伸ばして救援依頼をしてきた。

しかし、遅かった。

天井から汚泥がその人に降り注ぐ。

汚泥は単なる汚泥ではなかった。

意思ある汚泥とでもいうべき代物で、汚泥は狙ってその人間の口内に侵入、蹂躙し、息の根を止めた。

その後、汚泥は死体から離れていく。

死体から離れた汚泥は私の膝くらいの高さに盛り上がった。

盛り上がった表面には三つの窪みがありそれが人の顔にみえなくもない。

明らかに敵である。

「念の為聞くけど、自分の対応が早ければ助けられたかも!みたいな罪悪感はないのか?」

問われて私は肩をすくめる。

「まさか!」

私は鼻でせせら笑う。

顔も名前も知らない赤の他人が目の前で万と死のうが心は全く痛まない。

目の前で死なれて心が痛む人はたった一人しかいないことを私以外誰も知らない筈だ。

私の答えにマリエリは笑う。

「前半聴いてた話通りなのはわかったわん」

「後半は…願望だろう?」

「エリー賭ける?」

「お?何を?」

「ここ出た後でどっちが奢るか」

「乗った!」

「どっちに賭ける?」

「俺はスチュワートの言う通りに賭ける。」

「なら私はスチュワートの願望に賭けるわん」

意味不明のやり取りをマリエリはする。

なんだ、言う通り?願望??

「貴女方いい加減にしなさい。」

スチュワートが注意すると同時にくねっと同じ動きをマリエリは見せた。

「そうねん」

「増えるもんな」

そしてここ一番で真面目な顔つきになる。

「もう増えてますよ」

スチュワートも鋭い目つきでナイフを構える。

「まあ、いるのは知ってたが数が多いな」

ロバートが呪文を唱え始めた。

彼らの言う通り顔つき汚泥がヌポ、ヌポと前方後方を挟みうちにする形で増えてきたのだ。

その増殖は際限がない上に場所を選ばない。

遂に頭上にも現れる。

「足元にも普通にくるから注意しなぁ!」

まるでそれを合図とするかのように私の足元に汚泥が現れ足に絡みついてきた!



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