vsグリフォン
二話目、飛べるかのような記述がありましたが、すみません、修正させていただきます。
グリフォン
それは大変有名なモンスターだ。
物語にも出てくるし、教科書にだって挿絵付きで載っていた。
鷲の上半身、獅子の下半身を持つ空飛ぶモンスター!
…あれ?
単なる学生の時には深く気にしてなかったけど、今なら重要な事が気になる。
森では壁があり門があった。
そこを越えるモンスターは冒険者が狩りとる事で王都の安全が守られていた。
…じゃあ、岩山は?
そもそもさぁ…
「空飛ぶモンスターに壁とか門とかあっても無意味だよね?」
これって岩山のグリフォンだけじゃない。
森にも怪鳥がいたではないか。
あれには門も壁も関係ないではないか!
「それこそ理です。」
「理?」
ここでも理?
「グリフォンは岩山に棲む。
そこから離れては一秒とて生きる事が出来ないのです。」
「嬢ちゃん、なんで知らねぇんだ?
それとも当たり前過ぎて逆に学ばないのか?」
「…?」
なんだ、何を言ってるんだ?
「平民も奴隷もこの世に生まれたばかりの赤ん坊も知ってる事だぞ?」
いやいや、赤ん坊まで知ってるは大げさだろう?
「赤子は女から生まれる。平民の上にいるのが貴族、奴隷に堕ちれば死ぬまで奴隷。
魔法使いは定められた呪文を唱えて初めて魔法を使える。
剣士は戦闘では剣以外を用いる事は出来ない。
モンスターは森に、山に、海に、草原に、砂漠に存在する。
森以外の場所なら壁で囲えば例え空を飛べるモンスターでもそこからは出る事が出来ない。
壁を超えた森に棲むモンスターは冒険者により必ず狩り取られ王都には足を踏み入れる事は出来ない。これが『理』だ。」
なんだ?それは??
魔法使いの呪文。
これはどこかのお偉いさんがそうしろって命令しててそれを世界中の魔法使いが忠実に実行していると思えば理解できる。
剣士も不器用なだけだろうし、探せば剣を抜いたまま魔法が使える人がいると思った。
しかし、子供を産むのが女という当たり前の枠組みと同列にこの二つを語るというのはいささかおかしい。
まして、人間の決め事から外れたモンスターにまで適用されるだって?
「それって本当の話なの?」
「当たり前すぎて誰もわざわざ言わないレベルだ。」
私はスチュワートを見る。
「その通りでございます。何故ご存知ないのでしょうか?」
「…」
スチュワートは嘘をつかない。
ロバートとテオなら嘘を言ってると一刀両断出来たがスチュワートまでもが不安げな声で問いかけてくれば答えは一つ。
おかしいのは世界ではなくて私の方だ。
私の異常はアリスを池に突き落として一緒に溺れた事から始まっている。
池に溺れる前の私はこの事を知っていたのだろうか?
思い返してみてもわからない。
魂に刻み込まれるレベルでの常識ならばわざわざ意識などしていなかっただろうし、今の『わからない』私ではどんなに考えても『わからない』だろう。
この世界にある生きとし生けるもの全てに適用されるルールが私には必ずしも適用されるとは限らない。
ぞっとした。
まるで世界が丸ごと敵に回る可能性が出てきたような気がしたからだ。
もし世界が敵に回るとしたら一体私はどうすれば良いのだろうか?
「ま、この人の非常識っぷりはわかったよ!
それより、風を読むの!ほらほらのんびりしている暇はないよ!?」
「っち!」
舌打ちがして私の世界が動き出した。
同時にヘタリ込む。
「お嬢様!」
「……?」
スチュワートが私の顔を覗き込む。
「顔色がすぐれません。」
「ええ…」
「大丈夫ですか?」
大丈夫かだって?大丈夫なはずがない。
「私がいます。私が最期まで必ずいます。」
ああ、そうか。
私の肺が呼吸を思い出して空気を取り込む。
スチュワートがいる。
私は一人じゃない。
スチュワートがいれば例え世界が敵に回っても…?
ダメだ。
瞬時に彼の言葉を拒否する。
仮に世界が敵に回るならば。
尚更スチュワートを側には置けないじゃないか。
彼は世界側にいるべきであって私側にいてはいけない。
この世界に理があるならば、私に適用される理はただ一つ。
『悪役』という理。
『悪役』は正義に滅ぼされ消滅する。
消滅するのは私だけでいい。
どうかスチュワート、貴方だけは幸せに。
太陽はいつの間にか沈み夜になっていた。
魔法の明かりが灯り闇を照らす。
下側に流れる風に乗り私達の乗る気球は静かに前進する。
さすがに夜は誰も戦わない。
暗くて前に進むので精一杯だからだ。
私達は他の気球よりも明らかに下方を前進する。
故に照らせる闇は私が生み出した魔法の明かりのみ。
「見えるか?このすぐ下が岩山だ。」
「そうなの?」
目を凝らせば、ぼやけて見えた。
「モンスターは岩山からは出ない。但し、空飛ぶ高度に関しては理に無いから際限なく飛べる。」
「…ってことは?」
「気配を消せ。そろそろ魔法の明かりも消す。」
ここの下がモンスターの棲みかなら明かりは的にしかならないだろう。
気配を消すというのはよくわからないが、話さずに呼吸もしずかにしろって事だと勝手に判断する。
スチュワートが懐にしまっていたナイフを抜いた。
ロバートがサーベルを抜いていざという時に備える。
テオも気球の操作場所を死守するように陣取る。
皆気配を消しつつもいざという時に備える。
「明かりを消せ…」
ロバートの言葉に従い私は魔法の明かりを消した。
途端、闇が深くなる。
気球を飛ばす為に燃やし続ける小さな炎が唯一の光源となる。
上を見上げれば、星は見えるけれど気球は見えない。
皆明かりを消してモンスターの来襲を防ごうとしているのだ。
「気を抜くな?」
ロバートが忠告する。
「必ずお守りします。」
スチュワートが私の手を握る。
暗くて顔は見えないがきっといつも通りの無表情に違いない。
私はこくりと頷いた。
私も念の為呪文を唱えておく。
呪文を唱え終わり、以降口を閉ざす。
風が流れ、気球は先に先にと進んでいく。
どうか、このまま乗り切れますように…!
ふいに上から何かが落ちていく影が見えた。
一瞬何かわからなかった。
しかし、それは間違いなく人影であった。
「…来たな。」
ロバートがぽつりと呟く。
…上にいる。
上にグリフォンがいてどこかの気球が襲われたのだ。
グリフォンは音もなく忍び寄り人間が悲鳴をあげる時間さえ与えず襲撃したのだ。
「このまま行ける….か?」
こればかりは運だろう。
上の連中を狩るだけで満足してくれればいいが、そうでければ、襲われる。
「このまま気づくなよ…!」
ロバートが天に祈りを捧げた。
瞬間、スチュワートが動いた。
右手が閃きナイフで一閃。
『ガウウ!』
スチュワートが私を引き寄せ守備体勢。
ロバートも動きテオの防御に入る。
テオはすぐに気球を操作し回避に努める!
「ーーー見つかった!」
「明かり!明かりを寄越せ!もう暗いのは意味がない!」
テオに言われてロバートがサーベルをしまい呪文を唱え始める。
私は目を凝らしスチュワートがナイフを振るった方向を見やるが何も見えない。
「います!ロバート!右側!」
「何!?」
スチュワートの言葉に救われロバートは回避する。
一瞬、このゴンドラ内にモンスターが侵入して大きく揺れるがすぐに出ていき安定を取り戻す。
「っち!唱え直し!」
ロバートが呪文を再度唱える。
「大丈夫ですか!?」
問われるが、唱え終わっている呪文がある為応える事は出来ない。
そういえば何故これは『出来ない』のだろう。
ふと思いつき試しにぶつ切りにしてみる。
「大丈夫よ。」
「よかったです。」
そして適当な方向に向かって先程…本来ならば発動しない魔法を発動させてみた。
「衝撃波」
『!?』
衝撃波はテオの横を通り過ぎ、予想外にも何かにぶつかる。
「明かり!」
ロバートの魔法の光が灯り見えたのはモンスター!
グリフォンが衝撃波にぶつかったのかもんどりうって落下しかけているところだった。
「嬢ちゃんナイス!」
言ってロバートがサーベルでグリフォンの喉を突き破る。
グリフォンは目を見開き口をパクパクさせた後、力が抜け落ちる。
ロバートはサーベルを振り、突き刺さっていたグリフォンを落とした。
「周り!よく見て!!」
テオの声が響く。
発動してしまった魔法について考える間もない。
魔法の明かりに灯されて周囲を見渡せば上空ではすでに魔法の明かりが煌々と灯り闇を打ち払っていた。
そのおかげでよく見えるグリフォン!
そして、地上には脈々と続く岩山!
岩山って一つじゃないのかよ!
上から見下ろす岩山には緑はなく、荒廃しているようにしか見えなかった。
モンスターの棲みかとして相応しいとも言える。
前触れなく私達の乗っている気球が右側に舵を切った。
気持ち右側に傾き方向変更する。
大きな音をたて横を落ちていく気球。
方向を変えていなければ直撃コースだった!
「危なっ!ったく。これだからド下手は!」
テオが悪態をつく。
「嬢ちゃん!あんたは魔法で襲ってくるモンスターを狩っちまえ!
俺達はあんたの撃ち漏らしを狩りとる!」
「わかったわ!」
ロバートの言葉に私は呪文を唱える。
「衝撃波!」
私の打ち出した魔法を躱しグリフォンは襲ってくる。
しかし、ゴンドラの縁に器用にも立ちサーベルを振るいグリフォンの刺殺を試みる。
だが、それもグリフォンは華麗に躱す。
グリフォンのせせら笑うような鳴き声がした。
ふと気づくと隣にいたはずのスチュワートがいない。
え?
ゴンドラは狭い。
いないなんてありえない。
ゴンドラの外には音もなく現れるグリフォン。
まさか?
グリフォンに攫われた?
背中に悪寒が走る。
「ーーーどこにいるの?」
「ここに?」
怖くてたまらず呼べば彼のいつも通りの声が聞こえた。
…ゴンドラの外から。
「ーーは?」
ロバートの惚けた声が聞こえた。
私も口から出なかっただけで同じようなものだ。
スチュワートは夜空の散歩を楽しむかのようにゴンドラの外にいた。
足元はグリフォン。
グリフォンを足場にしてナイフで喉元を切り裂き狩りとる。
落ちるより早く別のグリフォンへと飛び移る。
…を、繰り返していた。
『…』
しばし、状況を忘れてスチュワートを見やる。
さらっと言ってみたけど、無理がある。
出来るか?そんな真似?
私には無理。魔法を使っても無理。
「なんなの!?あの人!?おかしくない!?」
真っ先に我に返ったテオが私に食ってかかる。
「なんなのってAランク冒険者?」
「あれは冒険者の動きじゃねぇよ!」
「そう言われても…」
確かに非常識だなとは思う。
でもスチュワートなら出来て当然な気もするのだ。
完璧執事にして元Aランク冒険者。
それだけで充分非常識な存在なのだから。
そうこうしているうちにスチュワートは私達のゴンドラに舞い戻る。
「ある程度道を作りました。どうぞ、お進み下さい。」
血で汚れたナイフをハンカチで拭こうとして…手を止め、自身のズボンで拭いとる。
…?
何故ハンカチを使わなかったのだろうか?
あの服にシワが少しでもつくのを嫌がるスチュワートがズボンに付着する汚れを気にしないはずがない。
ハンカチが汚れるよりも服が汚れた方がマシと思った?
意味がわからない。
テオが気球を操作してロバートが読んだ風に乗る。
襲われて落ちていく人や気球を避けつつ岩山を抜ける事に全力を尽くす。
「衝撃波!」
近づいてきたグリフォンに一撃を入れようと魔法を解き放つが空中戦では相手に有利。
私が放つ魔法はことごとく避けられる。
しかし、その避けた瞬間僅かに出来る隙をつきロバートがサーベルでグリフォンを刺し殺す。
私の魔法は当たればラッキー、本命は刺殺する為の隙を作る程度のものだった。
「後どれくらいで抜ける!?」
「もう少し!今夜一晩持たせればいい!」
ロバートの言葉にテオが返す。
私達は互いを見つめ合う。
「テオがやられたら確実に死ぬと思え?」
「言われなくてもそう思うわ。」
ロバートの忠告に言葉を返す。
スチュワートは無言でゴンドラの縁に足をかけた。
周りを見れば雑魚どもは粗方落ちきったのか、そこかしこでグリフォンとの一戦を交えていた。
助けは期待出来ないし、助ける事も叶わない。
理とやらが真実ならばこの脈々と続く岩山群を抜ければ私達の逃げ勝ちだ。
私は呪文を唱えながらテオの後方へと下がる。
サーベル片手にロバートは私とは逆に前に出た。
そしてスチュワート。
ナイフ片手に獲物を物色する。
前衛のロバート、後衛の私、遊撃のスチュワート、護衛対象にして命綱のテオ。
「ーーー来るぞ!」
ロバートの声を合図に私達はそれぞれの役割を果たすべく動いた。




