魔法使いの理と英雄様の加護?
この大会には根本的改革が必要だ。
優勝者イコール生存者ってどうよ?
平民の考える事はよくわからない。
「おい!お前魔法使いだったのかよ!?」
「それはこっちの台詞!」
「お前の魔法おかしいだろ!」
「何がよ!」
「呪文!明らかに短い!」
言われて私は気づいた。
風属性初級単体魔法『衝撃波』
効果は述べるまでもなく衝撃波を生みだし対象を吹っ飛ばすというもの。
まあ、初級なので対象が離れれば離れる程威力は低下するし、重量があれば当然飛ばない。
地面の上なら気球は絶対動かなかった。
動いたのはここが空中という不安定な場所だから。
地面の上だったら成人男性一人を転ばせる程度かなって魔法というちゃちい魔法に数分近くロバートは呪文に費やしていた。
対する私は数十秒程度。この差は大きい。
「なんでそんな短い呪文使ってる!?」
「寧ろなんでそんな長々と唱えているの?」
「そりゃ、唱えなきゃいけないからだろうが!!」
「はあ?」
なんだそれ?唱えなきゃいけないって。
誰かに強制でもされているのか。
「試しに私と同じように唱えてみなさいよ。」
「いや、それはダメだ、できねぇ。」
「いいから、やりなさいよ!」
「それは魔法使いに定められた道から逸れてしまう。」
「…?」
なんだ、それ?
「魔法使いは術の発動に対して必ず決められた呪文を唱えなくてはならない。
それは絶対のルール。外れてはならないし、外れる事も出来ない。
何故、お前はその理から外れている?」
ロバートらしからぬ真面目な顔で問われる。
しかしそんな理、私は知らない。
私は英雄様がくれた記憶を元に呪文を唱えているに過ぎないのだ。
「剣士は剣を使い敵を屠る、魔法使いは魔法で敵を屠る。
剣を振るいながら魔法は使えない。
俺もサーベルを持てば魔法はサーベルを仕舞うまで使えない。
それは絶対の理だ。」
待て、記憶の中の英雄様は剣を振るいながら魔法を使っていたぞ?
あれ?でも対ドラゴン戦では剣を使ってはいなかった。
そんな事、今の今まで気にした事がなかった。
単にあの馬鹿デカイドラゴン相手に剣なんて針みたいなもので役に立たないだろうから使わないのかな程度の認識…いや、それも今後付けで思ったくらいだ。
英雄様?
貴方一体何者なのですか?
「この私にそんな理無意味よ。何故なら私は加護持ちだから!」
うん、嘘は言ってない。
私は事実加護持ちだし、この理から外れている原因の一つは絶対加護者の一人である英雄様のせいなのだから!
「加護持ちだって!?…初めて見た!」
ジロジロ私を見る。
私は珍獣じゃありませんよ。
「成る程と納得すべきかそれともそれでもありえねぇよと突っ込むべきか…」
ぶちぶちと呟くロバート。
とりあえずそれで納得して下さい。
「おい!これからどうする!」
そこに声をかけてきたテオ。
…
「ねえ?」
私はそんな事より気になる事に触れようとロバートに声をかけたが、ロバートに視線をふいっと外されてしまった。
「聞くな。言うな。触れてくるな。」
「いやいや、聞くし、言うし、触れるから。
…彼、さっきから性格違くない?」
「あ?」
テオがチンピラばりに睨みつけてくる。
私の知っているテオはまさしく小動物。
リスみたいな男の子…年頃なのに男の子と表現するに相応しい人だった。
木陰で震えて『いじめる?』とか言って首を傾げているのが似合う系だ。
それが、気球に乗って空を飛んだ辺りからどうも性格が違う。
ガラの悪さだけならロバートと張れる。
「お嬢様、私はかつて普段は大人しいのに馬車に乗せた途端性格が豹変し周りを煽り出す人間を見た事があります。」
「そんな人がいるの?」
「ええ、かつての仲間なのですが、合言葉は『御者台には絶対乗せるな』でした。」
スチュワートが過去を振り返り遠くを見つめる。
つまりテオは気球に乗ると性格が変わると?
「とんだ変態ね。」
「いいか?これはまだマシなほうだ。
根っこは人見知りの小動物だからお前らがいるってだけでかなりのブレーキになってる。」
「賭けてもいいです。そういう場合どこかで必ず暴走します。
今のうちに放り出す事をオススメします。」
「ダメだ!誰がこれを操作するんだ!」
「貴方がいるでしょう?」
「あははは!」
気が狂ったかのような笑い声が突如鳴り響く。
発生源はテオ。
「このアホが気球の繊細な操作なんて出来るわけないじゃーーーん!!」
ロバートを指指して笑いながら言う。
「ぼーーーくーーーが、操作して一等なの!」
「ばーーか!俺様が風を読むから一等なんだよ!」
「いくら風が読めても乗れなきゃ意味ねぇーーー!」
ケタケタ笑いながら言う。
「あんたら、似た者同士だよ…」
『どこが!』
私の疲れた言葉に同時に返してくる二人。
いやいやそっくりだから。
「もう、その辺りを気にするとキリがないのでこの際右に置いておきましょう。」
スチュワートが話を打ち切る。
「そうだな!このまま下の方から進むか?
それとも上昇して気流に乗るか?」
上に行けば間違いなくどんぱちに巻き込まれる。
「ある程度気球が減ってから上に登るのは?」
「それが賢そうだな。」
「だったら、ロバート、下に流れている風をさっさと、読んでよ!
トロトロしてたら優勝逃すよ!?」
「わぁってるよ!」
「この先の岩山はモンスターが出るんだからね!
外れて飛ばないと喰われるよ!」
「….岩山?」
「…あの辺りを飛ぶのですか!?」
私の言葉とスチュワートの言葉が重なり不協和音を生み出す。
「お嬢様、岩山はデビの森と同じくモンスターの発生地です。」
「え?森以外からも出るの!?」
「はい。」
私の言葉にスチュワートは頷く。
「やだ、この人そんな事も知らないのぉ?」
テオが小馬鹿にした感じで言ってきたので睨んでおく。
「はい、しかしデビの森と違いこれから通過する岩山に出るモンスターは一種類だけ。」
「…何がでるのよ?」
「グリフォンです。」
グリフォンってあのグリフォンですか?
スチュワートさん、冗談ですよね?
私の顔は引きつるのだった。




