気球大会2
ゴンドラが浮かび上がった途端足元が不安定になりふらつく。
それをスチュワートが後ろから支えてくれた。
気球はその巨体に似合わず確実に空へと舞い上がっていく。
こんなに大きく重たいものがゴンドラ中央にある小さな炎一つで舞いあがろうとするなんて信じられなかった。
しかし、確かに私達は空に一歩近づいたのだった。
ゴンドラはゆっくりとだが確かに上に上にと登っていきやがて雲より少し低い場所まで到達する。
永遠に登り続けるかと思いきや限界はあったらしい。
「さて、テオ!うまくバランスを取ってくれ!
ここからは風に乗って前に進む!」
気球は上がる事は熱が、前に進むには風が必要となる。
方向転換はほぼ不可能、左右への方向変更は魔法で行える仕様だが、風の強さ、空中の不安定さを考慮すると思ったタイミングでの方向変更が出来るとは限らない。
空を飛べる道具というのは素晴らしい発明ではあるが、利便性は低い。
空を飛べるという以外の利点がないとも言える。
そんな考えてみれば安全性も確立されていないものに切羽詰まっていたとはいえ乗っているのは今思えばかなりの賭けでもある。
ベッドされたチップは自分の命。
…かなりの高さまで舞い上がり下を見てつくづく思った。
…早まったかなぁ…。
「これ、降りる時はどうするんですかねぇ?」
スチュワートが小声で呟く。
「…考えるのはよしましょう。」
「….は。」
細かい事を考えるキリがない。
それにこんなにビビり気味なのは私達だけ。
小動物のテオですら、怖がるそぶりは見せない。
そうこう思っているうちに気球は風に乗ったのか前進し、広場から離れていき、やがて見えなくなった。
「さーーーて!大会最初のやりどころだ!」
『?』
私とスチュワートが同時に首を傾げた。
瞬間、気球が大きく流された!
「ーー!」
「お嬢様!」
「ほらほら!しっかり摑まりなぁ!!」
ケタケタと笑うロバート。
彼が一番バランスを取りづらい体なはずなのに、彼だけが斜めになる気球で直立不動の体勢をくずさない。
テオが気球を操りなんとかバランスを保持する。
「ちょっ!?な、何が!?」
「何って妨害さぁ!」
「妨害!?」
「実力のない連中は自分達が優勝するにはどうすればいいか考える。」
ロバートは耳をかきながら言う。
「あ、優勝候補が沈めばいいんじゃね?ってなぁ!」
取れた耳垢を息で吹き飛ばしながら心底楽しそうに言う。
それは狂気の沙汰でもあった。
「それで狙われたと?」
「あとは、俺個人がクソ嫌われているってのもあるなぁ!」
「はあ!?」
「男爵殴った事で俺に嫌がらせしてくる奴は大概元々俺が嫌いな奴さ!
男爵の命令ってのを大義名分に俺様を虐めて胸をスカッとさせてる金玉のちっせー奴らなのさぁ!」
「なんでそんなに嫌われてるのよ!」
「はっはー!俺に殴られた奴しかり!
俺に女寝取られた奴しかり!!
金を借りて返してねぇってのもあるな!!」
こいつどういう生き方してればそうなるんだ!?
私の顔がひきつる。
つまり、個人的恨みを晴らしたい連中が大会優勝候補を潰すついでに襲ってきたとな!?
「さらにこの気球という乗り物、安全性が確立されておりません。
従って大会の最中落命してもそれは『不運な事故』として処理される可能性が高い…」
「そういうこったぁ!俺様はこの大会で殺されても犯人はなーーんのお咎めもないって寸法よ!」
「貴方笑ってる場合じゃないでしょ!」
私は絶叫した。
「馬鹿野郎!それは俺様も同じ条件なんだよ!」
「はあ!?」
「俺様も誰かをうっかり殺してもなーーんのお咎めもないんだぜぇ?
最高だろーー?」
言って彼は呪文を唱え始めた。
「…あんた!魔法使いなの!?」
私の驚きの声にロバートはニヤリと笑う。
誰が彼を魔法使いだと見破れるのか?
身なりはどうみても盗賊の頭。
口調はチンピラと変わらない。
持ってる武器はサーベル一本。
世間が抱く魔法使いのイメージとは大きくかけ離れている。
その彼が…魔法使いだとぅ!?
私と同じというのがいただけない。
なんだか私の価値が下がった気がした。
しかしまあ、なんだか随分長い呪文である。
何をしたいのかわからないが完成するより早くこっちがやられるわ!
私も呪文を唱える。
ロバートは私を見て少し驚くも呪文に影響は与えない。
そして、彼より先に呪文を完成させて手を突き出して解き放つ。
「衝撃波!」
一番近くにいた気球に攻撃魔法を当てる。
正直にいうならば彼らが私達に攻撃をしてきたのかまではわからなかった。
ただ近くにいたので吹っ飛ばしたのだ。
『うわぁ!』
私の攻撃魔法を受けた気球は私達から大きく離れていく。
そして、後方にいた別の気球に接触し二体が同時に急下降していく。
私達がバランスを崩しただけで立ち直れたのはテオのおかげということだ。
二体の気球が急下降して視界から外れると同時にロバートの魔法が完成する。
「衝撃波!」
私と同じ魔法が彼の手から解き放たれ別の気球にぶつかった。
その気球は大きくバランスを崩し、私達から離れるも体勢を整え再度私達に近づいてくる!
よく見ればあの気球、あの身なりの良い連中がのっていた!
それに気づいたロバートは笑いながら再度呪文を唱え始める。
「衝撃波!」
私の魔法を気球が躱した。
この魔法は直線的であり手を前に突き出す必要があるので先読みしやすい。
あの連中は私の魔法を事前察知しあらかじめ回避の動きを気球にとらせていたのだ。
ロバートの攻撃魔法の完成はまだである。
そこに…
『衝撃波!』
相手が呪文を重ねて魔法を解き放った!
ごうっ!
単純に威力が倍になった衝撃波は私達を大きく流されていく!
しかし!
ロバートがゴンドラに触れた。
「衝撃波!」
自分のゴンドラに向けて衝撃波を送ることで流されるスピードを殺し止めに入る。
「テオ!」
「おうよ!」
テオが何やら操作して気球の高度を少し下げた。
それにより衝撃波の余韻から逃れる事に成功する。
「あいつら!」
私の中で何かが切れた。
「テオ!あいつらに近づけ!」
「任せろ!」
テオが華麗に気球を操作するとうまい具合に風に乗り前進していく。
その先にはあの身なりの良い連中の気球!
「ひゃっは!!!!」
ロバートがサーベルを抜きはなち、ゴンドラに足をかけた。
…え?
ま、さ、か。
ロバートは足に力を込めてゴンドラから飛んだ!
最初に言ったがもう一度言っておこう。
ここは雲より少し低い空の上だ!
それをなんの命綱もなくサーベル片手に飛び出していきやがった!!
行き先は言うまでもなく身なりの良い連中の乗る気球。
「やってくれた礼をたっぷりとしてやるぜぇ?」
舌をべろりと出して身なりの良い連中を見る。
しかし、彼らも不敵に笑いナイフを抜き放つ。
「俺達を見くびるなよ!」
躍りかかりる二人組。
それをサーベルでいなすロバート!
地上うん万メートル彼方で繰り広げられる剣と剣とのぶつかり合い!
それに終止符を打ったのは、勿論私だった。
「衝撃波!」
『…あ?』
身なりの良い連中は勿論、ロバートまでもがハモり声をあげるがもう遅い。
彼らの乗る気球は大きくバランスを崩し下降を開始する。
『うわぁぁあ!』
三人の叫び声が下に落ちていく。
それを拾おうとテオが気球を操り同じく下降!
「飛べ!」
「ちっきしょー!」
テオの言葉にロバートはゴンドラから飛び降り、こちらの気球に乗り移った。
それと同時にこちらの気球は下降をやめる。
しかし、相手の気球は下降をやめない。
そのまま落ちていった…!
「お前!危ねぇじゃねぇか!」
「まあ、無事だからいいでしょ?」
私は肩を竦めた。
だってムカついたんだもん。
何かまだまだ文句があるようだったがそれを無視して上を見上げる。
襲い襲われを繰り広げているのは私達だけではなかった。
そこかしこで戦いの火蓋が切って落とされていたのだった…!




