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「ききゅう?」
私は首をかしげる。
スチュワートをちらっと見たが彼も知らないようだった。
「気球ってのは熱した空気の力で空を飛ぶ道具だ。」
「マジックアイテム?」
「いや、空を飛ぶところは魔法じゃねえ。」
「ってことはそれ以外は魔法を使う?」
「操作はさすがに魔法。だが、空を飛ぶのは魔法じゃねぇぞ?」
眼帯男はニヤリと笑う。
それを聞いて私は少なからず驚愕した。
空を飛ぶ。
それは鳥だけの特権だ。
子供用の寝物語に出てくる魔法使いは普通に空を飛ぶが自分が実際に魔法使いになって初めて魔法使いは空を飛べない事を知った。
風属性の魔法をどれだけ検索しても空を飛ぶ魔法は存在しなかったのだ。
まあ、英雄様が知らないだけでもしかしたらあるのかもしれないが。
しかし、現状空を飛べない私からすればそれは確かに浪漫とよぶに相応しいだろう。
「これこそ浪漫!俺はこの大会で優勝して世界中を気球で旅する賞金を手にするんだ!」
ほうほう。
「だが、その大会出場にはスポンサーの存在が必須!
だが、俺にはいない!」
ダメじゃん。
「大会会場に行けば気球に興味を持つ貴族や豪商がいる。
奴らも芽のある出場者を欲しているから需要と供給は成り立つ!」
なら別に私達に声をかけなくても…。
「三年前の大会で俺のスポンサーだった男爵と意見が割れてぶん殴っちまった!」
おい。
「そのせいで俺のスポンサーになろうって奴が見つからねぇ!
どころか男爵経由で大会出場禁止令が出てる!」
…よくその状態で自身を出場者と名乗ったな。
「だが、俺は気球で世界一周して気球の素晴らしさを伝えるという夢がある!」
遠くを見つめながら彼は言うが…。
「ねえ、貴方もしかして刑務所あがり?」
「おう!大会終了後三年間鉱山で強制労働していて刑期あけたばかりよ!」
ガハハと男は笑う。
「その成りでよく鉱山で働けたわね?」
「お前こういう体の事を言うのって良くねぇんじゃねえの?」
「私には関係ないわ。」
まして犯罪者に気を使う必要はない。
「これは鉱山でやった怪我だ。この怪我のお陰で刑期が短縮されて今回の大会に間に合ったんだ!
俺的には結果オーライよ!」
男は高笑いするがまあ、空を飛ぶのは凄いが私には関係ない。
刑務所あがりの罪人に気を取られている暇はないのだ。
「今回の大会はこの町からワトソン伯爵の領地中央までの距離を一直線上に飛び最初に到着した者が優勝だ!」
私とスチュワートはその言葉に思わず顔を見合わせる。
「因みにそれってどれくらいで着くものなの?」
「平均して二日。」
再度私達は顔を見合わせる。
本来ワトソン伯爵の領地まで三日かかるところを一日短縮出来る。
丁度ロスした時間を取り戻せる計算となる。
しかも平均してと言った。
「優勝者は大体どれくらいで着くの?」
「前回の大会優勝者は一日で着いた。」
「!」
私は刮目する。
旅路を急ぐ私達にとってそれは朗報だ。
「スポンサーってどの程度のお金が必要なの?」
「大会出場料として金貨十枚。」
意外と安い。
「それプラス大会出場後の支援。」
「大会そのものより大会終了後の方がきついわね。」
「具体的に支援とは何をするのですか?」
「金は優勝賞金である程度足りるが、世界中の国を回るとなると入国許可書とか色々必要になるだろ?
それらの準備一式。」
世界のどこでも通じる入国許可書となるとかなりの金額が必要になる。
加えて身分保証人として名義を貸す必要性、行方不明になればその捜索、犯罪を犯せば弁護人の手配、死体になれば回収もする。
ざっと思いつく限りでもそれらがある。
それをこの犯罪者にしろと?
だったら大会とやらに行きスポンサーを探しているまっとうな選手に声をかけた方が賢い。
「因みに俺は三年前の優勝者。」
…。
私は彼を見る。
「ぶっちぎりの一等賞。だけど男爵殴っちまったから賞金はぱあ。
だから今年も大会に出るって訳だ。」
「つまり、貴方ならワトソン伯爵の領地まで一日で行けると?」
「ああ、俺は風を読むのが上手い。今年も一位を目指す。」
「それって私達も気球とやらには乗れるの?」
「乗りたいなら乗せてやってもいい。」
「一日。」
ぴっと指を出す。
「一秒でも遅れたらスポンサーは降りる。」
「一秒はきつくねぇか?」
「自信がないのならば夢とやらは諦めるのね。」
「ぐぬぬぬ…!言っておくが!俺のスポンサーをするって事は俺が殴っちまった男爵家との敵対は避けられねぇって事だぞ!?
そっちもそれぐらいの覚悟はあるんだろうな!?」
「は!どこの男爵を殴ったのか知らないけど、男爵ごとき黙らすのは簡単よ!」
「よし!」
男は馬車から飛び降りた。
片足は不自然な義足なのにそれを物ともせず地面に降り立つ。
「俺はあんたらをワトソン伯爵領地に一日で連れて行く。
あんたは見返りに俺のスポンサーとなり世界一周の手助けをする!商談成立だ!」
眼帯の男…ロバートは手を差し出してきたので、握り返した。
それと同時に騎馬の音。
「ナグが戻ってくるわ。」
「すぐに道から外れ都市まで急ぎましょう。」
「あの騎士お前らの知り合いじゃねぇのか?」
「知り合いですが仲間ではありません。
寧ろつきまとわれて迷惑しています。」
「そうなのか…おい、テオ!」
「はい!」
「俺達もスポンサー様について行くぞ!急げ!」
「はいぃ!」
小動物は体を震わせロバートの命令通りに馬車を動かす。
そしてロバートも御者台に乗り込み私達の後に続いて道を外れ一路地方都市に向かったのだった。




