大会
翌朝からナグを振り切りたいスチュワートと意地でもついてくるナグの攻防戦が繰り広げられながらも、我々は出発した。
そして予想通りモンスターとは出会う事なく森を抜けてしまう。
森を抜ければ門がありその門をくぐれば人の世界だ。
「貴方いつまでついてくる気ですか?」
「休暇明けまで?」
「迷惑です。お嬢様も言ってやってください。」
この旅の間中スチュワートとナグのやり取りは途切れなかった。
最初はここまで喋るスチュワートが珍しくて眺めていたが段々うざくなってきた。
今では不快指数最高値を記録している。
はっきり言ってナグに突っかかるスチュワートが煩い。
スチュワートの罵詈雑言を聞き流す術を早々に身につけたナグに軍配があがる。
その流し方がまた癪に触るのかスチュワートの口は閉じる事がない。
ナグが一言言えばスチュワートは百喋るのだから。
「スチュワート、貴方が煩い。」
「!」
「ははは!」
私の言葉にスチュワートが口を閉ざしナグが笑う。
「お、お嬢様…?この男を庇うのですか?
私よりその男がいいのですか?
確かに私は失態を犯しましたがそれでもデビの森などに派遣される捨て駒騎士よりは役に立ちます!」
「役に立つ立たない以前の問題として煩い。」
私はスチュワートを睨む。
「…!」
スチュワートは再び口を閉ざした。
「そしてナグ。」
「は」
「貴方も煩い。」
「う」
「ついてくるのは勝手にすればいいわ。
行くべき方角が同じなだけでしょ?
私達は私達のすべきことをやるだけだもの。
貴方を待ったり行き先を告げたり出発時刻を教えたりはしない。
仲間じゃないから囮にする事も盾にする事も厭わない。
それでもいいなら勝手にしなさい。」
「了解です!」
ビシッと敬礼する。
まじか。でも囮にしても盾にしても文句言わないという確約はできた。
「スチュワート、あれは勝手についてきてるだけだから、必要以上に噛みつかない。
少なくても私の目に見える場所での喧嘩はご法度とします。」
「破れば?」
「お仕置き」
一瞬スチュワートの目が輝いたような気がした。
…ま、気のせいでしょう…
そんな話をしながらこちらでも存在する緩衝地帯を通り抜けていく。
「お嬢様、こちらは地方。王都のように治安はよろしくありません。
門の内側ですからモンスターは出ないと思いますが代わりに不届き者が現れます。」
「不届き者?」
「野盗だな。」
すっかり口調が砕けて戻らなくなったナグが言う。
「物乞い、浮浪児、酔っ払い…あげればキリはないな。」
「ですから森とは違う意味でご自身の身…」
「あ」
「どうされました。」
私のあげた声にスチュワートが問いかけてくる。
「あっち。剣の撃ち合う音がする。」
私の高性能な耳が剣の生み出す音をとらえたのだ。
「都市と緩衝地帯との境目での剣の撃ち合いってのは十中八九誰かが野盗に襲われてるな。」
言ってナグは剣を抜く。
「ですね。」
スチュワートは馬車を操り道から外れる。
「ってなんで外れるかな!?」
ナグが突っ込みをいれるが寧ろ何故そんな事を聞いてくる?
「何故ってこのままいけば野盗と遭遇します。
遭遇したら戦闘は避けられません。
危機回避の為、道から外れるという行為は正しいかと?」
スチュワートも不思議そうにナグに言う。
「いやいや!この先で誰かが襲われているんだぜ!?
普通加勢するよな!?」
「何故?加勢することによって私達に何か利益が?」
「だぁぁ!もう!私は騎士だから行くぞ!」
「ああ、私達に許可を取る必要はありません。
何せ偶々行く先が重なっているだけなのですから。」
スチュワートの一言を聞き終わるより早くナグは馬を走らせた。
「お嬢様、では私達はこのまま道を外れ都市へ入ります。」
「わかったわ。」
「これがあの騎士との永遠の別れになればいいのですが。」
スチュワートは言うが私は確信していた。
「それはないわね。」
「何故そう思われるのですか?」
「巨大蚯蚓戦の時の幸運から考えれば私達との再会なんてあっという間でしょうね。」
「知り合いの暗殺者を仕向けてもよろしいでしょうか?」
真面目な顔して問われたが、そんな知り合いがいるのか?
それとも冗談なのか。
私は引きつった笑顔を浮かべたのだった。
「さて、私達も行きますか。」
スチュワートが手綱を操る。
馬首が方向を変えて進もうとした瞬間、先程ナグが向かった先から剣の撃ち合う音に加えて車輪の音が加わった。
「ん?」
加わった?
今ではしなかった車輪の音が加わったということは移動しているということ。
…こっちに向かってきているんですけど…
そして聞こえる人の声。
『はーはっはっはっ!どおした!?小僧!?
この俺様の行く道を塞いで無事に済むと思うなよ!?』
『おい!こいつやべぇ!話と違うじゃねーか!』
『片手片足だから簡単にヤレるって!』
『逃すかぁ!!!』
キンキンキン!!
剣の撃ち合う音が合間合間に鳴り響く。
「スチュワート、急いで」
私は直感で関わってはならないと判断した。
しかし、時すでに遅し。
私達の目に飛び込んだのは一台の馬車だった。
馬車の上に三人の人。
一人は金髪で眼帯をした男。
壮年というに相応しい年齢の筋肉質な男ではあったが、右腕左足が無かった。
左足は杖を直接くくりつけたような義足を取り付けて体のバランスを器用にとりサーベル片手に動く馬車の上で二人の若い男を相手取っていた。
いうまでもなく高笑いをあげているのは眼帯の男であり、逃げ道を探しているのが二人の若い男達である。
「ほらほら!!どうしたぁ!この俺様を誰だと思って襲ったかは知らねぇが!
無事に済むと思うなよ!?」
言いながら凄い速さで馬車が目の前を通り過ぎようとして…私と若い男の一人と目が合った。
その男はひらりと走る馬車から飛び降りた!
片膝をついてなんとかバランスを取ると間髪入れず私に向かってきた。
そして私に手を伸ばそうとして…
その手首をスチュワートが斬り落とし失った。
「…は?」
若い男は一瞬惚けた後、失った手首から大量に溢れ出る血液に目を奪われ痛みを感じのたうちまわる。
「うわぁぁぁ!」
男の悲鳴に馬車の上に乗ったままの男が気を取られた。
「こら!小僧!!よそ見をしている暇はないぞ!」
眼帯の男は笑いながら若い男を刺殺した。
若い男の死体は馬車の上から転がり落ちる。
そこで馬車が止まった。
「こら!テオ!お前何逃げてんだ!!
お陰でそうでなくても大会開始時刻に遅れそうなのに!
どうしてくれる!!」
眼帯男が馬車の上から御者を叱責する。
「す、すみません…」
ビクビクしながら若く細く頼りなげな男が謝罪する。
ああ、あの小動物っぽいところお兄様にそっくりだ。
「ほれ!急ぐぞ!」
「は、はい…」
そうは言うものの御者はとろとろしており中々馬車が方向転換をしない。
それにイライラした眼帯男が馬車の上から御者台に飛び降り御者を蹴り倒した。
「ああ!」
御者は地面に転がる。
「遅い!貴様のせいで大会に出れなかったらどうするのだ!!」
言って華麗に馬車を操り方向転換。
ここで漸く私達は眼帯男の視界に入る。
「…ほう?こいつの手首を斬り落としたのは貴様か?」
「はい。お嬢様に触ろうとなさいましたので。
何か問題が?」
「いや?中々の腕だな!気に入ったぞ!」
言ってガハハと下品に笑う。
「ところで偶々途中まで一緒だった騎士が貴方達の方へ向かったのだけど知らない?」
「騎士?ああ、野盗の大半はそいつに押し付けちまったがなんかやばかったか?」
「いえ、素晴らしい対応です。」
スチュワートは眼帯男の対応を絶賛する。
「では、お嬢様、騎士が戻る前に道を外れて都市に入りましょう。」
「なあ、あんたら貴族様だよな?」
そこに眼帯男が声をかけてくる。
「そうですが?」
スチュワートが警戒する。
「あんたらも大会を見に来た口か?」
「大会?」
私が首をかしげる。
「ん?あんたら知らずに来たのか?」
「ええ、何かあるの?」
「ああ!男の浪漫を掻き立てる素晴らしい大会があるのさ!」
そして男は意味もなく馬車の上に登った。
そして、剣先を空に掲げる。
「俺はその大会出場者!ロバート様だ!」
「リズよ」
「スチールです。」
やたら熱い眼帯男に対して冷静に名前を告げる私達。
「お前達!もっと熱くなれ!そして感動せよ!」
「そう言われても….」
そもそも大会が何かも知らないのに感動しろって言われても。
「お嬢様、馬鹿はほっといて行きましょう。
あの騎士が戻ってくる前に。」
「そうね。」
私達が頷き合うのを見て眼帯男は待ったをかける。
「待て待て!大会の事を何も知らないなら、お前達は誰かのスポンサーって訳じゃないんだろ!?」
「…お金なら出さないわよ?」
よくわからないものに金を出すほど私は金持ちではない。
「だーかーら、人の話を聞けっての!」
サーベルを肩に担いで眼帯男は言う。
「悪いけど…」
急いでいるんで失礼します、そう言うより早く男は言った。
「気球大会は浪漫だぞ!?」




