決意
一部修正しました。
思い返せば返す程、アリスの言葉は私の神経を逆なでする。
確かに私は彼に暴力を振るってきた。
しかし、その事を他人であるアリスにとやかく言われる筋合いはない。
それにあの言い方…まるで…
「本当は私の専属執事が嫌みたいじゃない…」
ぽつりと言葉を零し、その言葉の意味を理解して私ははたと気付く。
考えたら当たり前ではないか?
理由のない暴力を振るう無慈悲な主人の側にいたいと思う使用人がどこにいる?
実際私のメイドはすぐに辞める。
十年も居着いたのはスチュワートだけだ。
よくぞ十年もいてくれたと思う。元Aランク冒険者の根性は伊達ではないのか。
しかし、彼ならもっといい職場があるに違いない。
あれだけ優秀なのだから。
…手放す事も彼を思うなら検討すべきなのだろうか…?
そう簡単には手放せない事情もあるが彼なら前職場の機密を守るくらいするだろう。
それくらいには信用している。
スチュワートがいなくなる。
想像するとなんだか違和感しかない。
他の人がいなくなることには違和感はなく、あるのは満たされる思いのみ。
なのに、何故だろうか…?
彼には利用価値があるからか?
秘密を共有する仲だからか?
わからない…。
〈リナ嬢?〉
急にメッセージが飛んできて思考が中断する。
メッセージを飛ばしてきたのはリュド様だ。
〈なんですの…?〉
疲れた感情を隠しもせず返事をする。
〈さっきなんだけど、旅に出るって本当?〉
〈そんな事、嘘をついてどうするのですか。
学園にも長期休暇届けを出しました。〉
〈行き先を聞いても?〉
〈何故貴方にそのような事を?〉
苛つくなぁ。
〈アリスと殿下がリナ嬢が何かを企んでいるのではないかと勘ぐっているんだ。〉
〈はあ…。馬鹿らしい。〉
〈だってあのタイミングで会うんだもの。
そう思うって。〉
〈貴方達こそこんな朝早くになんでいたのですか。〉
〈アリスが話してしまったけど、王都内にフェンリルがいた。
そのフェンリルはザックと偶々一緒に行動をとっていた冒険者の手により屠られた。
しかし、どうやら何者かが黒幕としているのではないかとザックは言うんだ。
その調査に僕達は来ていた。早朝なのは、アリスが王妃教育に忙しくて時間が朝しか取れなかったから。〉
〈そこでどうしてアリス様が首を突っ込んでくるのですか?〉
当然の疑問を口にする。
〈アリスはリナ嬢が陛下を闇の魔法で操ってると思い込んでる。
その証拠探しの一環というわけだ。〉
〈…つまり、彼女はフェンリルが王都内部にいたと聞いた瞬間私を黒幕認定したわけですね。〉
あの小娘が。
元々嫌いではあったが益々嫌いになった。
〈…まあ、そういう事になる。で、アリスが動けば当然殿下も着いてくる訳で…。〉
〈本当、無駄な事に朝早くからご苦労様。〉
私は嫌味を吐く。
〈で?貴方は私を疑っているのかしら?〉
〈そもそも闇の魔法で陛下を操るというのもあり得ない話だし、君の魔力は膨大だけど魔法使いに成り立てで知識皆無な君がフェンリルを作るとか王都に招き入れるとか不可能だと思ってる。〉
〈なら止めなさいよ。〉
〈言っても聞きゃしないんだよ。〉
ため息交じりのメッセージが届いた。
〈一応貴方の惚れた女でしょうに。なんとかしなさいよ。〉
〈でも、一生懸命考えてる姿が可愛いんだよ。
それにこれに時間を費やして王妃教育が不完全に終われば、僕にもワンチャンある訳だし?〉
つ、ま、り、
〈貴方私が無実と知りながら自分に特だからアリス様に付き従っていると。〉
〈そうなるね。〉
悪びれもせずに言い切った!
本気でムカつく!
〈だってさ、事実として君は無関係。
今は疑いながら捜査している訳だけど、情報が出揃えば君の無実は晴れる訳で。
そこはそんなに心配しなくても平気だよ。〉
〈そういう問題では!〉
〈それにね、僕思ったんだ。〉
メッセージは言葉を伝えるだけであり相手の表情まではわからない。
しかし、今、彼は笑ったと思う。
〈ザックの話を聞く限り王都内部に不届き者がいる事は事実だと思う。
こうやって僕達が事件を追う事は不届き者にとって煙たいと思うんだ。〉
〈…でしょうね…〉
〈きっと邪魔が入るよ。〉
〈わかっててやります?〉
〈わかってるからやるんだよ。〉
何を馬鹿な事を…と、思うが彼の行動理由は読める。
全てはアリスを殿下から奪う為に。
私は殿下とアリスをくっつけたいしリュド様はそれに賛成し力を貸してくれる事になってる。
…
あれ?…そう、なっていたわよね?
私の気のせいではないはず。
だけど、彼は今殿下とアリスの仲を裂く行為をそれとわかっていてしている。
彼が獲物を虎視眈々と狙っているのは彼が我が家で嘘泣きをした時からわかってはいた。
全面的な味方ではない事もわかってはいた。
しかし…!殿下やアリスを危険な目に合わせてまでするような事なのか?
なんだ?これ?
私は眉を寄せる。
ちぐはぐした彼がいる。
『殿下とアリスを祝福したい』だから私と手を組んだリュド様。
しかし実際は『すきあらばアリスを奪い盗りたい』から殿下の失態を待ち望むリュド様。
どちらも同じ人なのにまるで心の中が別人のようだ。
恋をするとこういうものなのか?
…いや、過去の自分を振り返ると私は少なくても違った。
何が何でも手に入れてやると思いその一念で行動していた。
しかし、リュド様は違う。
なんなんだ?これは…!?
気持ちが悪い。
…
あれ?
私は今、何を考えていた?
えっと…?
〈もしかしたらフェンリルが出るかもね?
殿下はその時どうするのかな?〉
リュド様のメッセージが届く。
そうだ、フェンリルの事だった。
〈貴方、仮にも彼は次期国王よ?一臣下として命を賭けて守りなさいよ?〉
〈勿論わかってるよ。見捨てたりしないって。
ただ、戦闘能力のない殿下はフェンリルに対して無力。
対して僕はフェンリルに対抗する術を持っている。
振る舞い方次第では僕は彼女のヒーローになれると思わない?〉
楽しそうにリュド様は言う。
彼の頭の中ではフェンリルにやられるダサい殿下、助けてと神に祈るアリス様、そこに颯爽と現れフェンリルを倒す自分を思い描いているのだ。
そんな都合よく行くかよと思うが、彼は自分が思い描いた夢が現実になると思い込んでいる。
自分がフェンリルに勝てるかどうかは二の次三の次、もしくは負けるなんて夢にも思ってないのだろう。
まあ、どうでもいいが。
〈…とりあえず、死なない程度にやりなさいな…〉
私はこれ以上馬鹿に付き合うのも嫌なので伝達魔法を切った。
朝が早かったから、眠たくなってきた。
意味もなく脳を酷使したせいかもしれない。
私は目を閉じ眠ろうとするが、先程中断したスチュワートの事が頭を巡る。
主に彼は我が家の次にどこへ再就職すべきかという点だ。
我が家より上の職場がいいに決まってる。
我が家より給料もよくて福利厚生もしっかりと充実した人を人として扱う職場がいいだろう。
できれば我が家と同格かそれ以上の家に向かえて貰いたい。
しかし、我が家を基準にするとかなり限られてしまう。
…いや、まてよ。王国内で探すからダメなのでは?
異国…例えば帝国なんてどうだ。
悪くないんじゃないか?
でも、異国に行ってしまったら…。
…
思考が途切れた。
しまったら、なんだ?
今、何を私は思ったのだ?
あれ?本当に記憶がそこだけ無いぞ?
…まあ、いいか。
しかし、自分にとって特にもならない事にこんなに頭を悩ます事が起こるとは。
百パーセント相手の事を思い良かれと動く事は意外と楽しい事なのかもしれない。
少し◯◯◯◯けど。
ふと、スチュワートの顔が見たくなった。
意味もなく誰かの顔をみたいと思ったのは初めてだ。
きっと来るべき別れを思いセンチメンタルな気持ちになってしまったのだろう。
私はらしくなくて苦笑する。
そして、迷わず転移魔法を使用してスチュワートの隣に出現した。
「!?」
突然、現れた私にスチュワートはさすがに驚きの表情を浮かべた。
それはほんの一瞬ですぐに元の無表情に戻る。
私はそれがおかしくて仕方がない。
「お嬢様、いかが致しました?何か車内に問題でも?」
「ええ。」
私は頷く。
「すぐに対処します。」
言ってすぐに馬車を止めようとするスチュワートに待ったをかける。
「大丈夫、ここにいれば解決だから。」
「….は?」
「車内は一人で退屈なのよ。スチュワート、話相手になりなさい!」
言って彼に微笑みかける。
しかし、何が気にくわないのか、彼はそっと視線を外す。
こうやって我儘を言うからダメなのだろう。
しかし、長年培ってきたこの性格はもう直しようもないのだ。
私は決めた。
婚約が破棄され無事にアリスが王妃戴冠を果たした暁にはスチュワートを
解放する事を。




