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お父様の許可を取る

ぶいぶい伯爵の領地に行く必要が出てきた。

彼の領地は王都から南街道を通り森を抜けて三日後くらいに到達する地方都市だ。

オリハルコン鉱山からオリハルコンが採取出来た当時は王国一の栄華を誇っていたが、現在はかつての蓄えを切り崩しての領地経営を余儀なくされている。

しかし、かつては王国一と言われた都市なだけあり現在でもなおその美しさは健在であると言われている。


そういう前知識はある。

しかし、行った事はない。

私は王都から出た事がないのだ。

だから、行くとなれば私にとってそれは一大事業。

冒険といってもいいだろう。

私は今からワクワクしていた。

未知を既知に。

この言葉を当てはめるには些か大げさかもしれないが私は敢えてこの言葉を送りたい。

「つまりお嬢様は『お嬢様と既知の間柄である冒険者リズとスチール』という設定で伯爵領地へと向かわれるわけですね。」

「そうよ。」

伯爵との会談を終えて自室。

夕飯も終えて今は自由時間。

スチュワートを部屋に呼んで今後の相談をしていた。

「今回、伯爵は同行しない。従って貴方の顔バレの恐れはないわ。」

「成る程、王都で冒険者をするよりそういう面では遥かに安全ですね。」

スチュワートは頷いた。

「しかし問題が一点。」

「何?」

「学園はどうされるので?」

言われて私は顔が引きつった。

…気づきやがったか…

「サボろっかなぁーと…」

「お嬢様。三週間後が仮面舞踏会です。

そこから二週間後に学園の定期試験があります。

近頃休みがちでありますので、これ以上の不要な休暇は成績降下へ繋がります。」

言われて私は微笑んだ。

「私は今まで自分は将来の王妃だと思い学業に励んできたわ。

しかし、私はもう王妃にはならない。

そう決めたの。即ち学業に邁進する必要はない。

そう思わなくて?」

「お嬢様、例え王妃とならずとも貴女様は王家の血筋であり英雄様の子孫でもあります。

誇り高きこの国の薔薇たるお嬢様の上に高々学園の成績とはいえ誰かがいるなどあり得ないと愚考いたします。」

「…」

「…」

私達は互いに見つめ合う。

私は微笑んでいるがスチュワートは無表情だ。

くっ…!

私は視線を逸らした。

自分でも無理のある学業放棄理由だと思っていたのでこうなるのは当然だった。

しかし、学園の長期休暇を待っている余裕はない。

アリスには残された時間が少ないという理由が一つ。

もう一つは仮面舞踏会でアリスが王家に認められたら貴族達がどう動くかを計算したものに基づく。

もし、王家に認められ王妃候補へと正式に名乗りをあげれば、やはりネックになるのはその家柄。

誰もが彼女の養子先へと名乗りを上げてくるだろう。

彼女が王妃候補に名乗りをあげれば殿下の溺愛ぶりも拍車をかけて一躍彼女が第一候補となるのは間違いないのだから。

貴族は誰しも勝ち馬に乗りたいものなのだ。

未来の王妃と懇意にすることはプラスに働くことはあれどもマイナスにはならない。

そう考えるのが世の常だ。

では、わざわざ私が動かないでも勝手に養子先を自分で見つけて養女になればいいと思うかもしれないがそれは違う。

ミハルバー家の今後の事も考えなくてはならない。

彼女が王妃になれば私は婚約破棄された負け犬である。

私が負ければ家も負け犬。

貴族社会からの追放が待っている。

それとなく派閥からは干され仕事も閑職に追われる。

そんな未来が待っている。

別に私は痛くも痒くもないが発端が自分かと思うとさすがに気分が悪い。

なので、ダメージを最小限にすべく彼女の養子先はミハルバー家の派閥から出す必要性があった。

それも可能なら政治には疎い貴族が望ましい。

我が家の意のままに動いてくれるから。

私は細かく説明も指定もしていなかったが、見事スチュワートは私の理想を叶える伯爵を見つけてくれたのだ。

彼には仮面舞踏会が始まる前にアリスに養子先として打診して貰う必要がある。

他の貴族の横槍を回避する為にも早めの行動を希望する。

だが、彼には爵位はあれども金はない。

現状名乗りをあげても多分殿下が袖にする。

しかし、オリハルコン発掘に成功すれば?

アリスと伯爵が養子関係を結べばおまけでオリハルコンもついてくる。

他の貴族の誰よりも好条件な彼を誰が袖にするものか。

だから、オリハルコンが手元にあるのが絶対条件。

仮面舞踏会まであと三週間。

今すぐ出なければ間に合わない。

学園なんて行ってる暇はないのだ。

なのにこの執事は融通のきかないことを言ってくるのだ!

「ねえ、スチュワート。」

「はい」

「あの伯爵を見つけてくれた貴方ですもの、この件は可及的速やかに対応する必要があることはお分かりよね?」

「しかし…」

「スチュワート、そこに跪きなさい。」

言って私は足元を指差す。

言われて彼は私の足元にゆっくりと跪く。

「私は誰?」

「リナリーバー・ミハルバー公爵令嬢様です。」

「その通り。殿下の隣に並び立つべく十年という長い年月をかけこの国一番の美貌と知識を得ました。」

言って彼を冷ややかに見下ろす。

俯いた彼の表情は見えない。

「その私を捕まえて高々数週間学園に行かなかった程度で成績が下がると?」

「…」

「スチュワート?本気でお思い?」

「…」

「答えなさい!スチュワート!!」

「……申し訳ありません、出すぎた真似を…」

「わかればいいのよ、わかれば」

これぞ私の特権『我儘』である。

現実的に考えて数週間勉強しなければ成績下降は免れない。

スチュワートは正しいのだ。

しかし悲しいかな彼は私が強く出ると逆らえない。

使用人とは損な役回りである。

とはいえここまで大見得切って成績が思いっきり下がったら笑えない。

帰ってきたらカイルに勉強見てもらって取り繕うと思う。

…成績に関しては未来の自分に丸投げしたとも言える。

頑張れ未来の自分!私は信じてる!!

「どうか罰を…」

「罰?わかればいいのよ。さあ、立ちなさい」

昔は彼を罰するのが大好きだった。

無表情な彼が時々痛みで表情を変えるのが好きで意味もなく鞭打ちしていたが、今は意味もなく他人に絡む気はない。

そういえば私は彼と出会ってから本当によくいじめ倒してた。

こんなに長い間罰を与えなかったのは彼がこの屋敷に来て初めてかもしれない。

寧ろ今のうちに過去を謝罪しておいた方がいいかもしれない。

そう意を決したところでスチュワートが口を開いた。

「…何故罰してくださらないのでしょうか…?」

「え?」

「私には罰する価値すらないのでしょうか?」

「いや…」

「…申し訳ありません、出すぎた真似を。」

言って彼は立ち上がる。

「私がお嬢様のお役にもっとたてば良いだけでした。

今のはお忘れください。」

…忘れられるかな…

一抹の不安が過ぎる。

役に立って鞭で打たれたい?

鞭打ちがご褒美?

…まさか!

辿り着いてはいけない領域を垣間見た気がして慌てて思考を切りかえる。

「お嬢様」

「はい!?」

思わず変な声が出てしまった。

相変わらず無表情で私を見つめるスチュワート。

「…しかし、学園を一週間以上休む場合は長期休暇届けを保護者から提出して貰わねばなりません。

…旦那様がお書きになるでしょうか?」

言われて私は考える。

スチュワートと違い高圧的に出れば折れる人ではない。

あの人は何気に真面目な人である。

無意味に学園を休む事をよしとはしない。

「それは…話の持って行きかた次第じゃないかしら?」

「そうでしたか。では早急にご対応お願い致します。

私は旅の準備がございますので失礼致します。」

行ってスチュワートは一礼し、部屋から出て行く。

私もどう話を持って行くかシュミレーションして、お父様の執務室へと向かった。


「失礼します」

一言の挨拶と共に入室する。

お父様は丁度仕事に区切りがついたのか、休憩に入ろうとしていたところだった。

「なんだ?」

「ご相談したいことがありまして。」

「ふむ?なんだ、言ってみろ。」

言われて私は口を開いた。

「魔法使いとしての話になるのですが。」

「…ほう?」

お父様は目を細めた。

何かを見透かすかのようだが、これは単なるフリである。

お父様は魔法使いではないので魔法に関しては疎いのだから。

「先日アーミオン侯爵の手解きを受け魔力をコントロールする術を身につけました。」

「それはアーミオン侯爵から直々に聞いている。

なんでも王都を一晩一人で照らせる程の魔力の持主とな?」

私は頷く。

「はい、アーミオン侯爵も大変驚いておりました。」

「そうだろうとも!我が国の魔法最高峰の頂点に立つ魔法師団長たるアーミオン侯爵を遥かに凌ぐ魔力の持主…!実に素晴らしい!」

愉快そうにお父様は笑う。

「しかし、喜んでばかりも参りません。」

「どういうことだ?」

「魔力が膨大なら膨大な程コントロールの難易度は上がります。」

お父様は眉を寄せる。

「…それは大丈夫なのか?」

お父様それは何を心配して聞いていらっしゃるのでしょうか?

…などと聞くのは野暮というもの。

私は代わりの言葉を吐き出す。

「今はなんとか持たせております。

しかし、予断は許されない状況。」

「どうする気だ?」

ここだ。

「はい、ですので私の魔力を抑える特注品のマジックアイテムを作ろうと思いましてご相談に参りました。」

「金なら幾らでも使え。先行投資だ。」

「残念ながらお金では解決出来そうもない問題があります。」

「なんだ、それは?」

「素材です。私の魔力を抑えるだけの力を持つ素材がありません。」

「…無い物は幾ら私でも用意できないぞ。」

私はわかっていると頷く。

「ですので、自分で採りに行こうと思っております。」

「…自分で採りに…?」

「はい。」

「一体なんの素材を欲しているのだ。」

「オリハルコンです。」

「…な!?」

お父様は驚愕に目を開く。

「私の魔力コントロールにはオリハルコンが必要と判断致しました。」

「しかし…」

「わかっております。ここ数年王国での産出量はゼロ。

他国からの輸入品も殆ど入ってこない状況です。」

「そこまでわかっていて採りに行くとは?」

「文字通りの意味です。」

「…まさか、お前自身の手で掘り当ててくるとでも?」

震える声で問いかけてくる。

私は笑顔で頷いた。

「まさしく。」

「出来るか!お前は公爵令嬢なんだぞ!?」

怒鳴り声が執務室に響いた。

しかし、私はその声を聞き流す。

「問題ありません。まず、場所ですがワトソン伯爵の領地にある鉱山が一番近くまた未発掘の領域があり最も採取の可能性が高いと判断しました。

行って採って帰って二週間程度と愚考しております。」

「行くだけで一週間だぞ!?」

「帰りは転移魔法を使用します。」

「…そういえば使えたな…」

いつかの朝食時を思い出したようで遠い目をするお父様。

「しかし、そもそも未発掘領域にオリハルコンがあるかも不明だというのだ、簡単には採取出来まい。

第一どうやるつもりだ。」

「冒険者を雇います。それも腕利きの。」

「冒険者を雇う?ならばお前が行かなくても…」

「冒険者というならず者を信用せよと?」

目を細めて私は言う。

「私は自分の目で見たものしか信じません。

冒険者が持ってきた塊をオリハルコンだと言われても信用できません。

実際にこの目で発掘される様を見て初めて納得出来るのです。」

「しかし…」

「雇う冒険者は相当な腕利きとすれば私を守り且つオリハルコンを採取する。

それくらいは出来るでしょう。」

「成る程…」

お父様は思案する。

「オリハルコンが無いと魔力コントロールがかなり難しいのです。

いつ暴走するかわかりません。

魔力を暴走させて死んでしまえば、大損になるかと思いますよ。」

悪魔のこどき囁きをする。

お父様の頭の中で今までかけてきた私への投資費用が目まぐるしく回っているに違いない。

「しかし…そう簡単に冒険者が見つかるだろうか。」

「見つかりますよ。と、いうか当てがあります。」

「あて?」

「はい、人づての紹介ですがなかなかの腕とか。」

「ランクは?」

「…聞いておりませんが…紹介者はザック様ですから問題ないかと。」

ごめんザック様、名前借りる。

「ほう、あの男が認める腕前とな。」

再び思案顔をするお父様。

「よし、その冒険者に一度会おう。

実際に見てそれから任せるか決めよう。」

…

私の顔が引きつった。

実際に…会わせる??

「どうした?」

「いえ、なんでもありません。」

精一杯の虚勢を張る。

「時間がないだろう。明日はどうだ?」

「畏まりました。明日学園終了後にその冒険者を呼び寄せお父様に会わせましょう。」

ど、どーしよう。

内心パニックだが、顔に出さないようにするだけで精一杯だ。

「話は以上か?」

「はい。」

私は頷く。

そして、部屋から出た。


そして大きく息を吐く。

さーて、どうしようかな。



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