王家機密が漏れてます。
ザック様に全てを丸投げして私達は自宅に戻った。
疲れた。
非常に疲れた。
私は着替えもせずにぐてーっとソファにもたれかかった。
ただの警備だったはずなのに、なんでフェンリルを倒すような事態へと発展してしまったのか。
そして王都を揺るがすような大事件の片鱗を見てしまったのか。
理解に苦しむ。
「お嬢様、お着替えをなさいませんと、いつ誰がくるともしれませんし…」
「そうね…。」
返事はすれども力はない。
ああ、明日は学園かぁ。
面倒くさい、行きたくない。
行かなくてもいいかな…?
「お嬢様、あまり学園を無闇に休みますとテストに響きます。」
「う!」
私の心を先読みして釘を刺してくる。
そうだ、テストがあった…。いつだっけ?
再来月じゃないか。
なら、サボっても…
「お嬢様?」
「…う」
ダメだ、最近サボり気味だったからこそ余計にダメだ。
私は断念し、明日は学園に行くことにしたのだった。
まあ、学園は居心地いいし別にいいよね。
しかし、予想に反して学園は騒がしかった。
その騒ぎに私は無関係だと思っていたら、限りなく当事者だった。
「ミハルバーさまぁぁあ!」
凄まじくお久しぶりなルナ嬢が私に抱きついてきた!
「うわっ!」
「ああん!ずっとお話したかったのですぅぅ!」
嘘つけ!
お前はアリスに鞍替えした口だろ!
今更なんの用だ!
「ミハルバー様ならぁ、ご存知だと思うんですけどぉ、来月の王家主催のパーティー!!」
「ああ、まぁ…」
知ってるけど、私は別に関係ないぞ?
頑張るのはアリスであって私じゃない。
フォローはするがな。自分の為に。
「じゃあ!これをなんとかしてくださいよぉぉぉぉぉ!
私も舞踏会行きたいですぅぅう!
公爵令嬢権限で私に愛の手を差し出してくださいましぃぃ!」
言いながら泣きつくルナ嬢。
「ちょ、ちょっと離れなさい!」
べりっと私はルナ嬢を引き剥がす。
「一体なんの話をしているのですか!
なにを頼むにせよ、アリス様にお頼みすればいいではありませんか!」
私に関わるな!!
「アリス様は王妃になれるかどうかの瀬戸際なんですよぉ?
こんな些事に構ってる暇ありません!」
きっぱり言い切るルナ嬢に私は顔が引きつった。
あんた、私が既に王妃に興味ないからいいけどさ、一応私もその舞踏会が王妃になれるかどうかの瀬戸際に当たるんですよ?
「で?公爵令嬢を顎で使う些事とはどんなものなの?」
私はさっさと話を終わらせたくてルナ嬢に聞く。
「今回、王家主催の舞踏会は仮面舞踏会と決まりましたの!」
「はい!?」
私は素っ頓狂な声をだす。
仮面舞踏会!?
当事者の私が知らないことをなんでこの子は知ってるのかという疑問すら吹っ飛ぶ驚きがその言葉にはあった。
仮面舞踏会とは文字通り舞踏会最中は仮面を被り互いの素性を隠して行われる。
これがなにを意味するか。
仮面舞踏会の別名は不倫パーティーである。
一夜の逢瀬を愉しむ享楽主義者が夜な夜な行うものであり、間違ってでも由緒正しい王家が開くようなものではない。
「そしてこれが極秘の出席者リストですわ!」
ルナ嬢が書類の束をどさっと私に押し付けてくる。
ヤダ、これ王家機密書類原本じゃない!
なんでこの子そんなもの学園に持ち込んでいるの?
ちょっと怖いし本当どうやって手に入れたの?
しかし、それを問い詰めるよりも中身を見ろとの圧力に屈し渋々と中身を見てみた。
ぺら…ぺら…ペラペラ…
「これって…」
私は言葉を飲み込んだ。
書いてある名前はみな伯爵以上の家柄だった。
しかも、明らかに令息より令嬢の方が多い。
その令嬢の年齢も下は十五上は二十と大変偏っている。
王家が決して主催しない筈の仮面舞踏会。
伯爵家以上の家柄の年頃令嬢が数多集まる…。
これって…
「アリス様を認めるという口実の元開かれる殿下お見合いパーティー!!」
私は書類を机に叩きつけた!
なんでそうなった!?
考えろ、考えるんだ私!思考を放棄してはならない。
王家の立場になって考えよう。
ある日殿下が好きになった女性を連れてきた。
しかし、身分も教養も足りないので認めたくない。
だが、殿下は至って本気。
婚約者の公爵令嬢をふってしまった!
それに慌てた王家は…
アリスが王家に相応しいかを試すという名目で舞踏会を開催することにする。
しかし王家は毛頭アリスを認める気はない。
ではどうするか?
公爵令嬢では王妃として完璧でも殿下の嫌悪感が強すぎていずれ国が立ち行かなくなるのではと危惧した。
ならば、二番手三番手を集めて殿下のメガネに叶う子を見繕おうと考える!!
だけど殿下はアリスに夢中!
普通に会わせても眼中にはない。
ならば!今回の舞踏会で仮面を被ってもらいお互いの正体を隠してしまう。
この結果、殿下はアリスを探す為に嫌でも他の令嬢と関わらなくてはならないし、もしかしたらその過程で他の令嬢に心惹かれてアリスと別れてくれるかもしれない。
「ルナ嬢!」
私はぎろりと彼女を睨む。
別に彼女は悪くない。寧ろお手柄だ。
しかし、八つ当たりが必要なのだから仕方ない。
「これは既に殿下はご存知?」
「いいえ!!王家は殿下にギリギリまで隠し通すおつもりだそうですよーー!
因みにアリス様も知りませんの!!」
殿下すら知らない情報をよく子爵令嬢ごときが握れたな。
呆れや疑問を通り越して感心する。
「で?愛の手がどうのこうのってのは…」
「私は子爵令嬢ですからぁ、この面白そうな舞踏会に出席できないんですよぉおー!
出たい!出たい!!でーーたーーいーー!!
ってなわけで連れてってくださいましぃぃ!」
ひしっと抱きつかれてさめざめと泣かれる。
いや、ここであんたを連れてってこっそり参加させて万が一億が一殿下があんたに惹かれたら意味ないからさ!
「もし、連れてってくれなかったら、この書類の出どころはミハルバー様だって言ってやるぅぅう!」
「お待ちになって!」
王家の機密書類持ち出しが私なんてデマでも広がったら貴族社会追放だから!
「どーしますか、連れてってくれますか?
それとも…」
「わかったわよ!連れてけば宜しくて!?」
私は半ばヤケになって叫んだのだった。
王城で私は今日のやりとりを思い出して鬱々としてしまう。
来月….正確には三週間後の仮面舞踏会は自分の事だけでも手一杯だというのに一体どうしたものか。
しかし肩を落としてばかりもいられない。
私にとって朗報もあったのだから。
王家はアリスを認める気はないようだが、私も見限ったとリストからわかる。
前回の謁見ではうちのバカがごめんみたいな態度であったが現実的に王妃の資質はともかく殿下と睦まじくは無理と悟ったのだろう。
王家に嫁ぐには王妃の資質だけでは足りない。
殿下の愛情だけでも足りない。
二つ完璧に揃えなければダメなのだ。
でなければこんなお見合いパーティーは開くまい。
しかし見限られたと言うことは今回の舞踏会の成否によって私は婚約破棄が確定するかもしれないということ!
そうすれば一歩夢に前進である。
私はにんまりとする。
瞬間頭に痛みが走った。
「集中する。」
そう言ったのはカイルであった。
王妃教育はなにもアリスの特権ではない。
私もまだ王妃候補なのでやらされている。
アリスと違って一月に一度の割合だけどね。
「一体何を考えればそんな間抜け面が出来るのだ?」
「いえ、もしかしたら王妃教育もそろそろ終わりかと思いまして。」
「まだ始まったばかりだぞ?」
言って壁時計を見る。
「そうではなくてアリス様が王妃と決まれば…」
まさか他にも候補が現れかけてるとは言えずカイルにもわかる理由をでっち上げる。
「それはあり得ない。」
きっぱりとカイルは言い切った。
「王家に嫁ぐにはまだまだ教養が足りない。
物覚えも思ったほどはよくない。
あの程度で王妃になろうとは片腹痛い。」
バッサバッサと切り捨てていくカイル。
きっついなー。
「そこをなんとかするのが貴方の仕事でしょう?」
「なんとか?」
はっ!と鼻で笑う。
「冗談じゃない。俺は学問を教える事が仕事だ。
物覚えが悪いお嬢さんの物覚えを良くすることまでは含まれていない。」
「どれほど頭が足りない人間でも理解できる授業を展開してくださればいいのです。」
「それにも限界って物がある。
しかも、今回は時間の制約付き。
元々のスペックが低ければ達成出来ることも低いんだよ。」
カイルの意見にため息をついた。
まさにその通りなだけに反論も難しい。
それでも三週間後に向けて仕上げて貰わねば困るのだ。
「それに、達成しちまったらあんたが王妃になれねぇだろ。」
カイルが当たり前の事を言う。
王妃は一人しかなれないのだから当然だ。
「俺はこの国の王妃はあんただと思って育ててきた。
今更違う辞めますってのは許さねぇ。」
「まあ、なんだかんだで十年ですものね」
私は遠い目をする。
思い返すカイルとの日々。
分厚い本との格闘。テストに次ぐテスト。
ひたすら暗唱させられた歴史。
嫌で嫌で仕方がなかった。
でも殿下の隣に立つんだとその思いだけで乗り切った十年だった。
「無駄になりそうですわね…」
これでもかと身につけた知識。
私には不要だ。
「無駄じゃねえ!」
カイルが怒鳴った。
思わず見返す。
「俺があの女を追い出してやっから!
だから、お前は堂々としてろ!
俺がお前を王妃にしてやる!!」
大きなお世話だ。
熱苦しい言葉に私は曖昧に微笑んでおいた。
王妃教育を適当に乗り切って自宅に戻る。
私はお風呂に入り着替えてお茶を飲む。
「失礼します」
スチュワートが部屋に入ってくる。
冒険者の装備も似合っていたがやはり執事服が彼には一番しっくりくる。
私がローブよりドレスのほうがなんだかんだで似合うのと同じだ。
着て楽なのはローブだが似合うとなると話は別なのだ。
「こちら手紙でございます。」
「手紙?」
私は受け取る。
王家の蜜蝋で封緘されていた。
まさにタイムリー。
私はペーパーナイフで手紙を開封する。
予想通り三週間後に迫った舞踏会への招待状だった。
しかし、仮面舞踏会とは一言も書いてない。
ただ一文『王家より心ばかりの余興を考えております』との記載。
これが仮面舞踏会となる合図なのだろう。
「お嬢様、舞踏会まで日がございません。
ドレスの仕立てを頼む必要があるかと思います。」
「あー」
私は頭が痛くなる。
ついこの間までの私なら舞踏会ともなれば喜んでドレスの仕立てに東奔西走していた。
しかし、今の私はそれが面倒で仕方がない。
「手持ちのドレスでよくない?」
「そうは参りません。幾ら興味のない舞踏会でもお嬢様が一番お美しいと下々の者達に知らしめるためにも準備が必要です。」
別にどうでもいいんだけど…。
ドレスもアクセサリーも腐るほどあるのだ。
どうせ、殿下は私が新しいドレスを着ようが手持ちのドレスを着ようが興味なんてないだろう。
と、いうか殿下は私がどんなドレスを持ってるかなんて覚えてもいない。
そう考えると益々新調するのが面倒臭くなる。
「手待ちのドレスで充分綺麗になれるわよ。
誰がいつどのドレスを着てたかなんて誰が覚えているの?
面倒臭くてたまらないわ!」
「…左様でごさまいますか。では仕立て屋は呼ばないことで宜しいですか。」
「ええ、問題ないわ!」
よし!仕立ての為の採寸とか面倒なのが無くなった!
私はご機嫌になりお茶を飲み干す。
「もう一つ報告がございます。」
スチュワートが私のカップに二杯目のお茶を注ぎながら言う。
「男爵令嬢の養子先を見つけました。」
「本当!?」
私は腰を浮かして声をあげる。
予想以上に早く見たかった!
「誰なの!?」
「ワトソン伯爵です。」
聞いて目を見開いた。
「ワトソン伯爵ってあの…ぶいぶい伯爵!?」




