丸投げ!
理想通りではないが死体もどきの件は解決した。
泣き止まない少女は放置して帰ろうかと思ったが、少女自身が泣きながらブチギレた。
普通慰めるでしょ!だと。
そうは言ってもこの面子にそういう役割を期待しないで貰いたい。
しかし、少女を慰める気は皆無だけど、人生最長距離を歩いて疲れたので休みたいとは思ったので、少女の自宅と称する家に入る事にした。
「本来このような場所で休憩などありえないのですが、仕方ありません。
リズさんはどうぞこちらはお座りください。」
言って家主を無視して椅子の上に白のハンカチをふわりと乗せて座るよう勧める。
私は当たり前のようにそこに座る。
「お茶とかない?」
「あのね…。」
言いながらも少女は全員に不揃いなコップに水を注いで渡してくる。
「…」
飲めるの?この水。
なんか、濁ってるけど…。
私の戸惑いを他所にザック様は普通に飲んでる。生まれて初めてザック様を尊敬した。
私はやめておこう。
「あの、本当にありがとうございました。
モンスターを倒してくださっただけでなく、お、おか…たちも…すけて…くれて…ほんと…ありがどうございまじだ!」
嗚咽まじりに少女は礼を言った。
「別に気にする必要はないわ。」
私はそっぽを向きながら言う。
こういうのって本当、苦手。
「リズ照れてる?」
「はあ!?どこが!?」
ザック様の言葉の意味は本当意味不明だ。
「しかし、本当に問題は解決したのでしょうか?」
席が用意してあるにも限らず私の横に控えたスチュワートが言う。
しかし…
「どういうこと?」
私は問いかける。
フェンリルは倒した。
それで終わりではないのか。
「はい、気になる点があります。」
私とザック様は顔を見合わせてスチュワートを見上げる。
「まず、あれはフェンリルと言ってよかったのでしょうか?」
「どういうこと?」
「あれは元々ただの犬になんらかの方法で魔力を投入してフェンリル化していたものでした。」
確かに。そういえばそうだった。
あれは正しくは単なる犬であり断じてフェンリルではないだろう。
「そう考えると厄介だな。」
ザック様が足を組み顎に手を添え考え込む。
「犬をフェンリル化して放った人間が王都にいることになる。」
ザック様が呟くように言う。
まさにその通り。
そういえばあのなんちゃってフェンリルが死ぬ間際ご主人様と叫んでいた。
そいつが犯人なのかもしれない。
目的は不明だが。
「怖い!もしそれが本当なら王都にはまだあの犬みたいなのがいるかもしれないってことですか!?」
『!?』
少女の言葉に全員が息を飲んだ。
少女はなんとはなしに言った言葉だがその通りだ。
誰がなんちゃってフェンリルが一匹と言ったのだ。
もっといてもおかしくはない。
「いや、まて…大丈夫だろ…」
ザック様が青ざめながら言う。
それはさながら己に言い聞かせるかの如く。
「俺は王都内の巡回を時間がある時はしている。
その時は一度たりとてあんな化け物見つけなかった。
複数いるなら見つけてもおかしくはない筈だ…!」
果たしてそうか。
どの程度の頻度で巡回していたのか。
普段は単なる犬の姿をしたなんちゃってフェンリルを見つけることが単なる騎士であるザック様に可能なのか。
甚だ疑問ではある。
それに、今はいなくても今後出現する可能性もあるのだ。
気は抜けない。
…まあ、周りの被害丸無視していいなら私は勝てるけど。
私はコップの中の水の不純物が沈殿していく様を見ながら思う。
「ご主人様がいるとしたら言葉を話すのもマジックアイテムの知識があるのも頷ける。」
ザック様が言う。
「マジックアイテムの知識まであったのですか?」
「ああ」
スチュワートの言葉に頷くザック様。
「強力なモンスターを作り出し知識まで与える存在はモンスター自体より脅威。
加えてフェンリルは正体不明の魔法を使っていました。
魔法の知識では相手に分がある状態。」
フェンリルが使った魔法のくだりで少女は震える。
死体もどきを作り上げた魔法。
これは英雄様の知識をもってしても不明。
なんちゃってフェンリル自身が編み出したというよりご主人様がフェンリルに教えて使わせたとみるべきだろう。
「しかし、アレは…ゾンビではないとスチールは言ったが…よくわかったな…」
ゾンビと聞いて私はピクリと体が跳ねた。
「ゾンビの特性がありませんでしたからね…」
そう言いながらもスチュワートは考え込む。
「ゾンビの特性?」
「ええ、ゾンビは腐った体で喋らないが鉄則です。」
言われて私は教科書に載っていたゾンビを思い出す。
確かに腐ってたな…。
「あ、そういえばそうだったな。余裕なくてそこまで考えが至らなかった。」
ザック様が思い出したように言うが、ゾンビは腐ってるってそれ絶対の条件なの?
私の脳内は使用可能魔法の名前と呪文、効果がずらっと並ぶがそれ以外の知識は全くといっていい。
だから彼らの会話は不明な点が多い。
「ゾンビとは死体に実体のないモンスターが乗り移った存在です。
しかし、死体ではモンスターの魔力に体が耐えられず体が腐っていくと思われます。」
「ゾンビはほっといてもいずれは腐って動かなくなり滅びる最弱モンスターだもんな。」
うんうんと頷くザック様。
「あくまで死体ですから喋ることもありません。
ただ、動き生者を襲うのです。」
「そうなの…」
確かにその点、あの二人は違った。
体は明らかに致命傷なれど腐ってはおらず話してもいたのだから。
「しかし、一点気になる点が。」
スチュワートが言う。
「気になる点?」
「ええ、あのお二人、話すには話しておりましたが…。成人した者とは到底思えないほど知能の低下がみられました。」
確かに。
話し方が、どうも…意思疎通は出来てたけど…。
「長い文章の組立がおそらく出来なかった。
さらに、それに付随して感情もおかしかったです。」
「感情?」
「いくら転生するとはいえ死ですよ?
あんなにあっさり受け入れられるものなのでしょうか?」
「…!じゃあ、お父さん達は…?」
「間違いなく彼らは生きてました。」
「ええ、だから転生魔法は発動した。」
「しかし、その存在は限りなく死体に近い生者であった。
死体を動かしゾンビとするを改良して生者を乗っ取り意のままに操る魔法をフェンリルのご主人様とやらは開発したのかもしれません。」
「なに…!?それ…!」
少女が震える。
「しかし、これは憶測です。全く別物の魔法かもしれませんし、ある程度体を破壊しないと発動しないのかもしれません。
そのある程度いかんによっては普通にゾンビを捕獲した方が早いような気もします。しかし…」
「体の損壊不要で生者を限りなく死者へと近づけ操ることが出来るとすれば。」
子供並みの知能まで下がるとはいえ、そして最弱とはいえモンスターを使役できるということ。
私の知りうる限りモンスターを使役する魔法や作成する魔法は存在しない。
「さらにいえばどの程度量産出来るのかも疑問です。
少なくても二体同時に存在することはわかりました。
もっと作ることができれば?それが王都に溢れれば?
王都は崩壊するでしょう。」
「それって洒落にならないわね…」
私の顔がひきつる。
死体もどきも脅威だがなんちゃってフェンリルも忘れてはいけない。
最悪ご主人様とやらはフェンリルとゾンビ二種のモンスターを作成使役するという未知の魔法を使用出来るのだから。
あたりが静寂に包まれる。
問題はこれからどうするかだが、現状どうにも、ならないのだ。
全ては憶測なのだから。
なんちゃってフェンリルは一匹しかいない。
発生は偶然。
ご主人様ってのは昔あの犬を飼ってた一般人のことを指す。
死体もどきもあのフェンリルしか作れない存在だった….って可能性もあるにはあるのだから。
仮になんちゃってフェンリルは複数王都に潜伏中。
着々と王都内には死体もどきが増えており、ご主人様は王都を襲うその時を待っている状態だとしても、それがいつどこで誰が起こすのかは不明である。
ようはなにも出来ないのだ。
出来ることといえば精々騎士団の巡回を増やすことくらい。
うん、私は何も出来ない。
「ザック頑張れ」
私は全ての問題をザックに丸投げしたのだった。




