魔狼?vs狂騎士
ザック視点
むせ返るような血の匂いに俄然やる気が沸き起こる。
やべぇ!
俺は走りながら確信した。
向かう先にいるのは強敵だと。
想像しただけでタマラねぇ。
強敵をくだして足元に跪かせる。
最高のスチュエーションじゃねぇか。
やがて、掘っ建て小屋が見えてきた。
あれが家?人が住めるのか?
実に疑問だが、間違いないだろう。
何故って素晴らしくいい光景が広がっていたから。
俺は無造作に近寄る。
モンスターも無造作にこちらを見る。
そして俺達は同時に笑った。
「なあ?これやったのお前?」
俺はモンスターに聞いて見る。
ここに途中出くわした子供。
その子供がモンスターは喋るって言っていた。
喋るときいて俺は興奮した。
そして、その子供を置き去りに俺はここまで走ってきた。
そしてこの光景を見て確信した。
こいつ、マジで喋れると。
『いかにも。のう?子供に出会わなかったか?』
「ああ、会ったぞ?」
それが何か?
『こちらに来る予定はないのかのぅ。』
「どーだろな?俺は置いてきちまったし。」
『そうかぁ、それはまだ近くにいるという事かのぅ?』
「まあ、そこそこ近いんじゃね?人間感覚だけど。」
『ふむふむ、しかし、お主騎士なのだろ?
それに今日出会った人間の中で一番綺麗だ。
なのに、その口調はいただけない。』
「はっ!」
俺は笑った。
「まさかモンスターに口調を注意されるとは!」
笑いすぎて腹が痛い。
「大丈夫だ、普段はきちんとしてる。」
『本当かのぅ?』
「ああ、本当だとも。世間では真面目で寡黙な次期騎士団長様で通ってる。」
『寡黙?話してないなら口調がきちんとしているかはわからぬではないか。』
「….」
言われて俺は言葉に詰まる。
実を言うと貴族らしい話し方が苦手な為に寡黙な男を演じているというのもあるのだ。
「ま、世間が俺をきちんとしていると認識していてくれればいいんだよ。」
俺の本性は貴族連中は知らなくていい。
一生黙って騙して生きていく。
俺の異常性は他でもない俺が一番よく知ってる。
こんな俺を受け入れてくれる奴は…。
きっと彼女しかいないのではなかろうか。
そんな彼女にも全てを晒す勇気はなかったが。
『なるほど、そういう考えもありか。』
モンスターは興味深そうに話してくる。
「それで、お主、強いのか?」
「ああ、そこに転がっている連中よりかは。」
言って視線を下に移す。
俺の目に映るのは冒険者の死体。
ちらりと見た程度の冒険者だったので名前も覚えてない。
『そうか、この三人を基準に考えるとやはりお主も大したことがなさそうだのぅ。』
「そうか?なら…」
俺は剣を引き抜く。
「試してみようぜ!」
言って俺は駆け抜けた!
さあ、楽しい楽しいお遊戯の時間だ。
俺はモンスターの間合いに入り込み剣を振るう。
剣は毛皮に押し返されて傷をつけない。
ならばと二撃目はモンスターの赤い瞳を狙う。
素早い切り込みにモンスターはそれでも対応して避けた。
しかし、俺は追撃する。
狙いは目。喋るモンスターでも目は狙われたくない弱点らしい。
「はっはあーーー!どうした!バケモン!
避けてるだけじゃいつか死んじまうぜぇ!?」
『ふふん、お主言うだけあって中々じゃないか。』
俺もそうだがモンスターも実に楽しげに言う。
「褒めても助けてやらねぇぜ!
俺に斬られて地面に伏せて命乞いをしてみなぁ!」
『それはお前だ。ほら、遊んでやろう!』
言ってモンスターが避けの態勢から一転攻めの態勢へと変化した。
俺はすぐさま追撃をやめて防御….いや、避けの態勢へと変化させる。
瞬間、モンスターの爪が俺の心臓めがけて疾る!
ブン!
唸り音その一秒後に背後で何かが削れる音。
「!」
『ほう!避けたか!』
避ける選択は正しかった。
『防御してれば防ぎきることは叶わなかったからのう!』
俺はちらりと後ろを見た。
削れた何か…それは地面だった。
俺の背後の地面が爪の数…四本線分抉れていたのだ。
『当たれば即死!さあ!いくぞ!』
今度は攻守が逆転した。
モンスターの一撃は洒落にならない。
俺が出会ったモンスターの中で文句なしで一番の破壊力を持っている。
避ける度に後ろで地面が抉れていくのだ。
生身で当たれば即死は免れない。
背中に冷や汗が流れる。
しかし、俺の胸に広がる感覚は恐怖ではない。
歓喜!
「あははは!やべぇ!たのしぃーーー!」
『そうか?私は退屈になってきたぞ?』
しかし、モンスターはつまらないという。
「そうか!じゃあ、楽しくしてやるよ!」
『ほう?』
モンスターは攻撃を止める。
俺は大きく一歩引き下がる。
『何をするのだ?』
ワクワクとした面持ちで聞いてくる。
その姿は遊んで欲しい犬そのものだ。
俺は見せびらかすようにして懐から小瓶を取り出す。
『なんだ?それは?マジックアイテムか?』
モンスターの口からマジックアイテムという単語が出てきて驚く。
人の世界にある程度馴染まなければ絶対に知ることのない知識だ。
ただ見てるだけ、聞いてるだけで覚えられる言語知識とは訳が違う。
こいつ…少しおかしい。
「そうだ、マジックアイテムだ。
これは俺のダチ?ライバル?が作った品でな。」
言って俺は小瓶の蓋をあける。
そして、中身を剣に振りかけた。
途端、剣にうっすら光が帯びる。
『魔法!魔法を宿した!!』
楽しさと少々の驚愕を混ぜた声をモンスターはあげた。
「そう、そいつ…天才なんて言われててな。
そいつの試作品。物体に魔法を宿すことが出来るマジックアイテム。
…ま、試作品だから半刻程度しか持たねえんだがな。」
『成る程!』
「ばーか!成る程じゃねぇよ!
つまり、今度は俺が退屈する番ってことだ!」
言うと同時に俺は走った。
モンスターは避けずに受ける!
俺の剣は毛皮を切り裂き、漸く流れる赤い血を見た。
『ほう!これが痛みか!ついぞ忘れておったぞ!』
モンスターは愉快そうに言う!
その言葉に返す代わりに剣を構えて二撃目は赤い目に。
突き刺すように一撃を放つ。
しかし、前回同様避けられる。
だが、三撃目は前回と違いその体へ。
再度流れるモンスターの血!
「はっはあーーー!やっぱ血の匂い最高!」
『お主、イカれておるの!』
「お前もなぁ!!」
俺はモンスターを追い込むように剣を振い続ける。
魔法を帯びた剣はこのモンスターを斬ることが出来る!
充分倒せる!
俺は楽しくなってきた。
退屈はしない。
獲物を追い詰めるのはやはり楽しいのだ。
相手が強ければ強いほど楽しい!
弱いモンスターでは悲鳴を聞くだけで終わりだが強い奴からはそれに比べて学ぶことも多々あるからだ。
俺は誰より強くなりそしてありとあらゆるものを踏みつけて高笑いをかましたいのだ。
そう、たとえば、あの王子とか。
あのお綺麗な顔を踏みつけたらさぞ気分がいいだろうな。
まあ、やったら色々終わるからやらねぇけど。
でも、彼女を取られた恨みはいつかどっかで晴らしてぇなぁ。
そんな事を考えながら斬撃を繰り返していてある事に気付く。
俺の剣は疾い。
騎士団の連中には見えないらしい。
父親は俺の剣の速さをドラゴン並みと称した。
その疾い斬撃を…
『次は右だな!』
俺は右に行きかけていた手を寸でで止めた。
こいつ先読みまでして避けやがる!
まだ見て避けるとは訳が違う!
賢いなんてもんじゃねぇ!!
人間以上の知恵があるだろ!
俺は初めて戦慄した。
こいつのヤバさを初めて肌で感じ取った。
それと同時に気が狂うんじゃねぇかという気の昂りを感じる。
「もっとだ!」
『ん?』
「もっと俺を愉しませてくれよ!!」
『ほう!?まだ力の差がわからぬか?
それともわかっていて挑戦しているのか?
何れにせよ、無謀よの!』
避け続けていたモンスターが反撃に出た。
先ほどは避けた一撃を俺は受け止めた。
剣は魔法の効果で折れずに爪を受けきった。
しかし、生み出される衝撃は体に伝わる。
痺れるように重い!
その重さが心地よい!!
まさに強敵!俺が求めていた強敵!!
こいつを倒してくだしたらさぞ、気持ちがいいだろう。
頭の中でその一瞬が描かれる。
『お主、心底楽しいのだな!』
「当たり前だろー!強い奴との戦いがつまらない戦士がいたらそれは戦士じゃねー!」
『成る程!お主はまさに戦士の中の戦士という事か!』
「当然!」
俺は爪を受け止めギリギリと持ちこたえながら言う。
奴の鼻先目の前で笑ってやった。
俺は騎士団長になる男!
戦士の中の戦士であり…
「俺は弱い奴も強い奴も俺の足元に跪かせる男だよ!」
『夢想だな!』
モンスターは俺の言葉嗤った。
『お主の夢は夢で終わる。何故か?
それは、私に殺されるからだ。』
「バカ言うな!実力は拮抗してる!わからねぇぞ!!」
俺の言葉を聞いてモンスターは大きく引いた。
『拮抗?』
モンスターは鼻で嗤う。
『バカも休み休み言え。』
「なんだと!?」
『お主は戦士だったな?』
モンスターが当たり前の事を確認してくる。
「当然だ。」
『ならば、お主の強さに敬意を表し、私とお主の実力差のほんの一欠片見せてやろう。』
言ってモンスターは嗤う。
決してハッタリではない。
勘が囁く。
そしてその勘が正しかったとすぐにわかる。
モンスターの尻尾が大きく膨れ上がった。
それは掘っ建て小屋を包み込めるほどに大きかった。
「ありえねぇだろ…」
俺は茫然とその尻尾を見つめた。
俺はこのモンスターを単なる魔犬や魔狼と思ったことは一度もねぇ。
でも、こんなバケモノとは思ってもいなかった。
精々、魔狼の変異体くらいだと思ってた。
俺は自分の考え違いを漸く悟ったのだ。
『戦士の最高の名誉とは強き者と戦い散る事と聞いたことがある。』
それは違うだろ…。
俺は内心突っ込む。
散ったらダメじゃん。正しくは強き者と戦い勝つ事にある、だ。
『さあ。お主の強さに免じて戦士として殺してやろう。』
「ーーーはっ!」
俺は笑う。
半分以上虚勢だが、僅かばかり違うものもある。
それはやはりおれが持ってる異常な性癖。
未だ感じる強い者を下して跪かせるという妄想。
こいつをこの状況下でくだせたら最高だろうなという昂り。
「あははは!やべーーーー!最高だぁ!」
俺は笑う。
それは虚勢であり本気でもある高笑い。
「さあ、やろう!」
俺は剣を構えた。
『そうだな!』
言ってモンスターは尻尾を大きく上から下へ叩きつけるようにして俺に振るってきた。
尻尾が鼻先をくすぐった。
すぐ足元が崩れた。
足元が崩壊し立つ事が叶わず、俺の方が跪く。
俺は立とうとして…。
己の両腕が無い事に気付いた。
「は?」
俺は思わず二度見した。
夢か幻か魔法かとも思った。
でも違う。
一瞬遅れてやってきた痛みが違うと嫌でもおしえてくる。
「うがぁぁぁぁ!」
俺は喉の限界まで叫んだ。
崩れた足元には潰れた肉塊とひしゃげた剣。
「うわぁぁぁぁぁあ!」
喉は限界を超えた。
こんな声をあげるのは俺ではない。
このバケモノのはずだった!
そうでなくてはおかしい!
いや、これが正しい。
実力差は歴然としていたではないか!?
もう戦えない!
いや、まだ戦える!!
どうやって!?
逃げろ!
跪け!命乞いをしろ!
誰がするか!?
だが…
いや…
脳内が錯綜し感情と情報が混線する。
自分で自分がどうしたいのかわからない。
生きたいのか死にたいのかそれすらも。
『いい声だ。子供なら助けてやったがのう。
お主は戦士なのだろう?
この私の手で散らせてやろう。
それがお主にかける慈悲だ。』
言って俺に再び尻尾を振り下ろそうともたげて…
急に首をあらぬ方向に向けた。
そしてニタリと嗤う。
尻尾をすぐさま元の大きさに戻して嬉しそうに言う。
「おお!子供よ!待っておったぞ!?遅かったではないか!」
尻尾をふりふり心底嬉しそうだ。
俺は今にも閉じそうな目を無理矢理こじあけモンスターと同じ方向を見る。
そこには俺が出会った子供と…
口元をハンカチで覆う白ローブを着た女魔法使いとスチュワートだった。




