↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/106

魔狼?vs冒険者三人組

冒険者ツバイク視点

血の匂いを追えば家はあっさりと見つかった。

家と呼ぶにはあまりにみすぼらしいそれが俺の視界に入る頃にはむせ返るほどの血生臭さに辺りは満ち満ちていた。

俺達は家から少し離れた所で足を止めて家を警戒する。

「この血生臭さ、モンスターの血の匂いってことは…」

「ないわね。」

シャーロンが断言する。

エルフの鼻はこの匂いがモンスター由来か人間由来かを嗅ぎ分けることなど造作もない。

…と、いうことは。


バン!!!


突然、ドアが開いた…と、同時に出てきた黒い影。

俺達はすぐさま臨戦態勢へと移行する。

俺は剣を抜き、シャーロンは弓を構え、アリーシャは呪文を唱え始める。

黒い影は二つの何かを口に咥えてこちらを見た。

そして何かを探すように辺りを見回す。

こいつ…魔狼…か?

俺は疑問に思った。

見た目は確かに魔狼そのもの。

しかし、魔狼はアレを二つも咥えては動けない。

そこまでの力はないのだ。

魔狼らしきモンスターは口からソレを離した。

そしてこちらをゆっくりと見つめる。

アリーシャの呪文はまだまだ完成しない。

そして、モンスターは口を開いた。

『のう?お主達が子供に頼まれてこれを助けに来たものか?』

「ーーー!?」

「喋った!?」

アリーシャはギリギリで驚きの声を飲み込む。

今、何か話したら呪文の唱え直しだ。

『ん?聞いてなかったのか?』

不思議そうに首を傾げるモンスター。

これは絶対に魔狼ではない。俺は確信する。

「き、聞いてはいたが…」

張り付いた喉を無理矢理引き剥がすようにして俺はモンスターに語りかける。

アリーシャの呪文が完成するまでは時間を稼がないとならない。

『その顔、信じておらなかったな?』

くつくつと愉快そうに嗤う。

まさにその通り。

誰が信じると言うのだ。

『これと同じだなぁ。』

モンスターは足元に転がる二つのうち一つを見下ろす。

『これも信じていなくてのぅ。

私が話した時の驚きに満ちた顔と言ったら!!

傑作じゃったわ!!!』

腹の底から嗤い声をあげるモンスター。

『さて?子供がおらぬが何処へ?』

「何故子供を探す?」

『私は子供が好きなのだ。』

「食材として?」

『ーーーーさあのう?だが、子供は食べぬぞ。

可愛いからのぅ。食べるには惜しい。』

言って少し頭をずらす。

俺達の後ろに視線を送るためだ。

『ここにも子供?

…いや、子供と呼ぶには育ち過ぎてる…。

可愛さはないのぅ。』

失礼にもほどがあることをこのモンスターは言う。

『とにかく、私は子供が好き。

好きなものの一番よい顔を見たいというのは当然の欲求じゃろ?』

一番よい顔?

それが何かはモンスターの足元に転がるものでわかりすぎるくらいわかってしまう。

「そうか、じゃあ、逃して正解だったな。」

『なに?』

「モンスターがいるってわかりきった場所に子供を連れてくるバカいるわけねぇだろ?」

道が分かればたとえ嫌われ役をかってでも逃すに決まってる。

当たり前の道理だ。

『そうか…』

モンスターは息を吐いた。

『では、お主達を殺してすぐに追わねばな。』

言って足元を見る

『これがまだ生きている意味がない』

言ってニタリとモンスターは嗤った。

『安心せよ。お主達はこんなふうにはしないからな。

きちんと一思いに殺してやろう。

…ところで、子供のような女。魔法は完成したか?

まちくたびれたのだが。』

「!?」

「アリーシャ!」

「!?…」

一瞬途切れかけた呪文だったがシャーロンの呼びかけに再び紡がれる。

『まだかのう?暇だぞ?先にそこの二人、殺してやるからかかってこい』

造作もなく俺達を名指しする。

一瞬迷った。

しかし

『こないならば、まずは魔法使い、貴様からだ。』

「ーーーなら!お望みどおりに!」

シャーロンが弓を放った。

一直線に飛ぶ矢は狙いを外さずモンスターの眉間にあたり、ささる事なく落ちた。

「な!?」

『なにかしたか?エルフ?』

首を傾げるモンスター。

『ふむ。かかってきたのだから、最初はエルフ、貴様からだ。』

その言葉を聞いたと同時に俺は走った。

シャーロンを襲わせてなるものか!

「こっちだ!バケモン!」

『ん?』

視線を俺に向けた。

赤い瞳が愉快げに細まる。

完全に相手にされていない。

そして、俺達にこいつは手に負えない。

わかってはいたが撤退の文字はない。

民間人の依頼を受けての行動だから?

冒険者だから?

逃げ切れる相手ではないから?

違う、どれも違う!!そんな理由ではない!

「うわぁぁあ!」

ほとんど悲鳴に近い声をあげて俺は剣を振るった。

しかし、俺の剣をは毛皮にはじかれモンスターから血の一滴とて奪うことはできなかった。

それでも、二撃三撃と剣を振るう。

モンスターは避けるでもなく、かといって俺を追い払うでもなく、させたいようにさせていた。

全ての攻撃は皆毛皮にはじかれ意味をなさない。

しかし、止めることはできなかった。

「ーーーツバイク!」

アリーシャの声が響き、俺は大きく飛び退る!

『お?やっとか!』

モンスターはアリーシャに視線を送った。

期待に満ちた視線を。

「洪水!」

水系のなんか難しい魔法が放たれる。

大量の水がモンスターを包み窒息させんと暴れ回る!

「やったか!?」

そうは言うが俺は剣の構えを解かない。

しかし、それはあまり意味をなさなかった。

水を纏ったまま、モンスターが俺の横を駆け抜けた。

それは一瞬であり、全く見抜けるものではなかった。

一呼吸遅れて後ろを向いたら遅かった。

「ーーーきゃぁぁあ!」

「シャーロン!?」

水を纏ったそのままにモンスターはシャーロンに躍りかかったのだ。

そして、次の瞬間彼女の綺麗な顔は永遠に失われた。

どこへ消えたか理解したくはなかった。

したくはなかったが…

ぶるっ!

モンスターが体を震わせた。

途端、モンスターを包んでいた水は全て消え失せてしまった。

「効いてない…!」

『水に濡らして何かあるかと思ったが…なにもなかったのう?

散々待たせておいてこれはつまらぬのう。

次はお前だ、魔法使い。』

「ひっ!?」

アリーシャが一歩下がる。

『これはもういらぬ。』

言って俺に返すようにごろりと蹴りつけてきた。

俺の手元に戻ってきたシャーロン。

あの綺麗な顔はここにはない。

どこへ?

君の綺麗な顔は…

『頭が一番不味いな。』

モンスターは聞かせるように呟いた。

『これは頭だから不味いのか、それともエルフだから不味いのか…?

どちらだと思う?』

「しるかよぉお!!」

涙がこぼれた。

手に力が入らない。

そんな俺を見てニタニタ嗤うモンスター。

どうして俺から彼女を奪った!!!

『エルフは不味かったが、お主のその表情は実にいい。

子供であれば助けてやってもよかったが….。

せめてもの慈悲にお主は最後にしてやろう。

人間は神なるものを信じているのだろう?

ならば、祈るがいい。

仲間の死を弔えるのは最後まで生きていられるお主だけよ。』

モンスターは言ってアリーシャを見た。

「ひっ!」

アリーシャは腰が抜けたか尻餅をつく。

しかし、そんな状況でも諦めていないのか、なにがしかの呪文を唱えていた。

しかし、魔法使いが唱える呪文はあまりに長い。

今の状況で魔法使いが助かる確率は皆無だ。

モンスターはアリーシャに向かっていった。

「いやぁ!」

アリーシャは呪文を中断し、荷物から何かを取り出し投げつけた。

モンスターに当たってそれは弾けて煙を吐き出す。

おそらくそれは!

『痺れ玉かぁ!』

愉快そうにモンスターは言う。

万一に備えて魔法使いは身を守るマジックアイテムを持っている。

今の痺れ玉はまさにそれ。

俺達みたいな新人に毛が生えた程度の冒険者じゃこれひとつしか買えなかったのだが。

これを買う為に金を貯めていたアリーシャ。

前回の仕事でようやく買えるだけの金を貯めたアリーシャ。

魔法屋に行くたびに飾られた白ローブをいつか着ると言っていたアリーシャ。

その、アリーシャが。

俺の目の前で痺れ玉が吐き出す煙を割って出てきた禍々しいバケモンの口に喉を食い破られていた。

俺はなす術もなくただ見ているだけ…。

涙が頬を伝って落ちた。

俺の涙はシャーロンの体を濡らす。

もう一度、君の顔が見たいよ、シャーロン。

君ともっと話したかった。

撤退はできない。

その理由はシャーロン。

君だったんだよ。

惚れた女が狙われて逃げる男がどこにいる?

顔のない亡骸をそっと抱きしめる。

カツン

俺の手に冷たい感触が伝わる。

はっとした。

シャーロンが俺に伝えてきたような気がした。

ーー最期まで諦めんなバカ!ーー

そう言っているような気がした。

いや、きっとそう言っているんだろう。

俺は彼女の腰からそれを取り外した。

『弔いは済んだか?ーーーそれは?』

何が起こるのかとワクワクした面持ちで聞いてきやがる。

「これは発煙筒だ。」

「はつえんとう?」

首を傾げるモンスター。

どうやら知らないようだ。

俺はその発煙筒を高々と掲げた。

「こうやって使うんだよ!」

言ってボタンを押した。

瞬間、俺が想像していた以上の煙と火花が空に炸裂する。

『ほう!仲間を呼ぶ道具か!』

「ああ、そうだよ!騎士団がこれでくる!

俺達より強い冒険者だっている!!」

言って俺はスチールを浮かべる。

彼はくるだろうか?

お嬢様を危険に晒すわけにはいかないと逃げるだろうか?

いや、来る。

俺は確信していた。

あのお嬢様の性格からして来る。

それにひっついて必ずあの男は来る!

「お前は終わりだ!くそったれ!!」

悔しいのは仲間の…シャーロンの仇を俺がこの手で打てないことか。

ーーそんなことないわよ、貴方が呼んだ助けでこいつが死ねばあんたが倒したも同然じゃない!ーー

シャーロン、それはちょっと無理があるよ。

俺は苦笑する。

全く、シャーロンは…


俺の手の中には変わらず顔のないシャーロンがいる。

しかし…


『そうか、では、その強い奴に期待しよう』

言って風の如く俺にモンスターは近寄った。


俺は目を閉じた。

瞼の裏には微笑むシャーロン…。


シャーロン君に伝えていないことが…






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。