南門警備
翌朝。
朝起きてから部屋移動全てに魔法を使ってみた。
結果メイドはドン引きし、偶々朝食の席で一緒になったお父様は私の突然の出現にスープを零すほど驚いてくれた。
無駄に転移魔法を使ったが魔力の減少は微々たるものでやはり英雄様が言うように早くモンスターを狩る必要があるのだろう。
しかし、現状Fランクの為モンスターを狩ることはできない。
なので、地道にコツコツ警備の仕事をする事にした。
朝食後、すぐに例の白ローブを纏い転移魔法でやって来たのだが冒険者ギルドはごった返していた。
「うわっ!なんでこんなに混んでるの?」
「いい仕事は早いもの勝ちですからね。
朝はこんなもんですよ。」
スチュワートは慣れているのか、あっさりと言う。
しかし、こんなに混んだ場所など私は知らない。
学園で一番混むというランチタイムのカフェテリアでさえこんな喧騒とは無縁なのだ。
私は正直ドン引きだ。
本当に彼らと私は同じ人間なのだろうか。
生まれが違うとこんなにも人間性に違いが出るのか。
私が入口で躊躇すればスチュワートも止まる。
これがいかに迷惑な行為かはすぐに身を持って知る事になった。
「おい!お前ら邪魔だ!」
「ねえ、こういう時ってどうすればいいのかしら?
並べばいいの?」
「いえ、先程も申し上げました通り早いもの順です。
いい仕事が欲しければ、場合によっては力づくです。」
「おい!邪魔だって言ってるんだろーが!」
「ギルドの職員は止めないの?」
「止めますよ?場合によっては力づくで。
それがまたこの喧騒の一因となっているのです。」
冒険者って荒くれ者が多いのね…。
「おい!無視すんじゃねーよ!」
しみじみと物思いにふけっていたらぐっと、私は肩を掴まれた。
心底驚いてそちらを見れば身長は私の倍、体重に至っては三倍はありそうな大柄な男が顔を真っ赤にして立っていた。
「はい?」
「はい?じゃねーよ!邪魔だ、どけ!!」
言われてみれば確かに私達は入口付近で立ち止まっていた。
「確かに邪魔でしたわね。」
言って私達は横に逸れた。
「ふん!」
大柄の男は私を一睨みしてギルド内に入っていく。
大柄の男はその巨体を活かして他の冒険者を蹴散らしていく。
「おらーっ!どけー!!ガルム様のお通りだぁぁ!」
「……自分の事を様付け?テレサ様が聞いたら卒倒ものですわね…」
そう呟きながら彼をなんとなく見る。
彼は掲示板の前に辿りつくと張り出された紙をざっと見て…
「ぐぁぁぁ!俺様が狙っていた依頼がないっ!」
頭を掻き毟り始める。
その時、私と彼は目が合った。
「お前のせいだぁぁぁ!」
またもや他の冒険者を蹴散らして彼が突進してくる。
そして私の目の前に立ち止まった。
「貴様!この俺様が最初に声をかけた時何故どかなかった!?
貴様がすぐにどいていれば依頼を受けられただろうに!!!」
唾がペッペと飛んでくるので顔を顰める。
「落ち着いてください。」
「これが落ち着けるかぁぁぁ!」
「落ち着けと…リズさんが仰っているのが聞こえないか?無礼者」
いつの間にか男の後ろをとり剣を首に添えるスチュワート。
え?いつ移動したの?転移魔法??
「貴様ぁぁぁ!」
しかし、彼の頭に登った血は下がる事がない。
寧ろ何故か上昇する。
不思議とあれだけ騒がしかった周りが静かになる。
「落ち着いてください。最初の質問ですが、声をかけられたと認識しておりませんでした。
ご迷惑をおかけしたようで申し訳ありませんでした。」
いつものようにドレスの裾を掴もうとして、ドレスを着ていない事を思い出す。
暫し迷ったがローブの裾を掴んで一礼する。
「それと、私達が来た時には既にかなりの人出でした。
そこを鑑みるとおそらく私達がすぐにどいて道を譲っても目的の依頼を手に入れられたかは甚だ疑問です。」
いうべき事は言った。
私は彼を見上げる。
しかし、彼は私の言葉に全く納得してくれなかった。
「はぁぁぁぁ!?ふざけるのも大概にしろぉ!?
声に気づかなかっただぁ!?
あんな近くで声をかけたのに気づかないはずねぇだろうがよぉぉ!」
言われて私は困ってしまう。
「そう言われましても…。私、生まれてこの方『おい』とも『邪魔』とも言われた事がありませんし?」
「ふざけるなぁぁあ!どこの貴族令嬢だぁあ!
貴様はぁぁあ!」
その叫び声を聞いて私は驚いた。
「な、何故わかりましたの!?」
「貴様とことん俺を愚弄するかぁぁ!」
私の質問には答えず、男が私を殴ろうと大きく手を振りかぶって…
「無礼者!」
スチュワートが俊敏に動き剣の柄部分で後頭部を殴打した。
「うっ…」
巨体がぐらついたが持ちこたえる。
「おや、気絶しませんか。無駄に体が大きいから。」
無表情に感情の無い声でそう言うと剣を鞘に仕舞う。
「貴様ぁぁ!俺様を殴っておいてタダで済むと…」
振り向いた男が全てを言い終わるより早くスチュワートは鞘ごと彼の胴を殴打した。
それで勝負は決した。
男は倒れこみそのまま動かなくなる。
「ご無事でしょうか?」
「大丈夫だけど….。どうして貴族とバレたのかしら…?」
「……リズさ…んは気品溢れるお方ですから。
その気品をこの男は嗅ぎ取ったのでしょう。」
「成る程!」
納得だ!
「それにしても…」
「おにーさん強いんだなっ!」
私が言おうとした言葉をとるように声をかけてきたのは先程この倒れた男に蹴散らされていた一人。
…あれ?
「…貴方昨日王城近辺で警備をしてませんでしたか?」
「おっ?俺を知ってるのかい?」
「昨日見かけましたわ。」
「おー、やっぱ、俺みたいに男前だと覚えて貰えるんだなっ!」
「いえ、共にいた神官に見覚えがありまして、話をしていた貴方はついでで覚えたようなものです。」
「…お嬢さん、結構きついな…」
肩を落として男は言う。
「なあ、仕事を探しに来たんだろ?
どうだ、俺達と一緒に警備の仕事をしないか?
王都南門付近の警備だけどおにーさんみたいに強ければ問題ないっしょ!
それにお嬢さんも………そのローブ!!
何かあっても安全だね!」
「どうされます?」
「危ないの?」
「王城周辺に比べれば森が近いですし門の内側の警備といえども安心はできません。
門を乗り越えて入り込むモンスターは数多くおりますので。」
「そうなの?」
ちょっと怖いかなぁ。
「……申し訳ありませんが…」
私の尻込みを感じ取りスチュワートが断ろうとする。
「うーん、お嬢さんはお留守番でおにーさんだけ来てくれてもいいんだけど…」
ちらっと私を見る。
『…』のところに含みを感じる。
君は帰ってよ、か、ちょっと貸してか。
いずれにしてもいらっとくる。
「いいわ!やりましょう!!」
「よろしいので?」
「ええ。大体私の目的と合致するじゃない。」
うっかり門の内部に入り込んだモンスターを狩るのは問題ないはずだ。
森に入らずモンスターを狩れる可能性があるなら挑戦すべき事案だろう。
「なんなら門を破壊する勢いでモンスターが来てくれても構わなくってよ!
ほーっほっほっほ!!」
意味なく腰に手を当て高笑いをかます。
ギルド内に私の高笑いが鳴り響いた。
その笑い声を皮切りに元の喧騒が始まる。
なんなのだ、一体。
「あら?これってガルム?ツバイク遂にやっちゃった?」
そこに綺麗な女性の声が届いた。
彼女も昨日みかけた一人、尖った耳の持ち主だ。
「俺じゃねーよ、このおにーさん。」
「え?本当に??」
女性はスチュワートをまじまじと見る。
背の高い綺麗な女性なのでスチュワートと並んでも全く違和感がない。
「リズさんに失礼な言動及び行動をとりましたので。」
淡々とスチュワートは言う。
「リズ?」
「あ、私です。」
私が手をあげてアピールしてみたら、女性はその綺麗な目を大きく見開いた。
「貴女、そのローブ!」
「はい?」
「うちのアリーシャが狙っていた奴!」
「アリーシャ?」
私は首をかしげる。
「うちの魔法使いよ。」
女性は私のローブをジロジロ見ながら言う。
「アリーシャは一人前になったら魔法屋に飾ってあったそのローブを着るんだって毎日言っていたくらいそのローブに憧れていたんだから!」
「そ、そうなのですか…」
「うちのアリーシャだけじゃないわよ!
確かBランクのミラーさんもAランクのカローラさんもお金を貯めて買うって言っていたわ!」
そ、そんなにこれって皆が欲しがるような代物な訳…!?
汚れがめちゃ目立ちそうなローブなのに!
「それを…貴女昨日登録した新人でしょ!?
なんで新人がそんないい装備してんのよ!
おかしいでしょうが!!」
女性が私に摑みかかろうとしてきたのをスチュワートが間に入って止める。
「リズさんにお手を触れぬようお願い致します。」
「な…?こいつ…」
「シャーロン落ち着けってば。
このにーちゃんはマジ強いから!
ガルムをたったの二撃で沈めたんだぜ?」
「…!」
「で、その強さを見込んで今日の仕事の手伝いを申し込んでる最中なんだ!」
「はあ?この人はいいけど、この人誘うともれなく子守もついてくるんでしょ!?
冗談じゃないわ!あと一つ仕事の成功でランクが上がるって時に子守なんてやってらんないわよ!」
言って彼女はそっぽを向く。
「あー…なあ、悪いがお嬢さん今日一日彼を貸してくれないか?
ちゃんと依頼料は二人分支払うし…」
「申し訳ありませんが、私はリズさんの元を離れる気はありません。」
青年は私に許可を取ろうとするが答えるより早くスチュワートが断ってしまう。
「なあ、シャーロン!南門の警備は本来Dランク相当の依頼だって知ってるだろう?
俺達だけじゃ危ねぇかもしんねーんだ!
ここは彼らに来てもらう方が賢いって!」
「子供のお守りなんてまっぴら!!」
「シャーロン…!」
「あの、私達も…」
暇じゃないんで…と、続けるより早く。
「あー!!!白ローブ!!!」
子供の声が響いてそちらを見ればやはり昨日見かけた少女だった。
つかつかつかと近くに来る。
スチュワートが警戒する。
しかし…
「貴女が噂の新人。」
「噂?」
「その白ローブ。すごく高いからそれ着て歩くだけで注目の的。
遠くから見るだけかと思ったらこんな近くで見れる日が来るとは。触っても?」
「ええ、構わなくてよ」
「感謝する。」
言って私の白ローブを触り始める。
「手触りさいこー」
「ちょ、ちょっとアリーシャ!」
「あ、シャーロンいたの?」
「いたのじゃないわよ!貴女悔しくないの!?」
「悔しい?」
きょとんと少女は首を傾げた。
「だってあんだけ毎日一人前になってこのローブをって言ってたじゃない!」
「うん、言ってた。」
「じゃあ….」
「でも、お店に飾ってあったってことは私の物って訳じゃない。
いつ売れてもおかしくなかった。
私が一人前になるより早く売れた、それだけ。」
「でも、買ったのがミラーさんやカローラさんならともかくこんな新人よ!?
許せる!?」
「許すも許さないもない。売り物は買った人のもの。」
「…!」
「あー…匂い嗅いでも?」
「それはちょっと。」
「なあなあ!アリーシャ!」
「うん?」
私に許可をとらず頬ズリし始めた少女に青年は声をかける。
「ほら、今日の依頼に彼らを誘おうと思っているんだ!」
「なんと!と、言うことは今日一日白ローブと一緒…!」
生まれてはじめて服の付属品のような扱いを私は受ける。
「一緒に仕事しよう、白ローブ。」
私というか明らかに白ローブに話しかけてくる少女。
「ほら、アリーシャはこの通り賛成みたいだしさあ。」
「…!わかったわよ!アリーシャがいいなら私は構わないわ!」
「なら決まりだな!向こうの空いてる席で話そうぜ!」
「ええ、あら?昨日一緒にいた神官はいませんの?」
「彼は臨時で一緒に組んでただけでパーティ仲間って訳じゃないんだ。」
「そんな事もありなの?」
「ええ、ソロの冒険者はギルドの斡旋仲介を受けたりして一時的にどこかのパーティに所属して依頼を受けるということもあります。
…ほら、私達も似たようなものでしょう?」
「成る程…」
「そんな事も知らないペーペーで本当に大丈夫!?
いくらそっちのおにーさんが強くてもお嬢ちゃんが足を引っ張ったら意味ないのよ!?」
「まぁまぁ落ち着いて。」
そんな話をしながら私達はギルドの奥に空いてる席を見つけて座る。
私達は対面して座った。
「改めて自己紹介させてくれ。
俺はツバイク、剣士をやってる。」
言って彼は隣に視線を這わせる。
私達もそれに合わせて彼の隣へと視線を動かす。
そこには今だ不機嫌そうな女性。
「シャーロンよ。弓士。」
こちらを見もせず明後日の方を見ながら彼女は言う。
そんなに白ローブを着てるのが許せないのか。
肝心の少女は全く気にしてないようなのに…。
「大丈夫です、あちらの女性は引っ込みがつかなくなっているだけです。」
そっとスチュワートが耳打ちしてくる。
…引っ込みがつかない?
私は首をかしげ、その間に自己紹介が進む。
「そしてこっちが…」
「アリーシャと言う。魔法使いだ。短い間だがよろしく。」
次は私達の番か。
「リズよ。私もアリーシャと同じ魔法使いなの。よろしく」
「はっ!アリーシャはその年齢とは思えないくらい魔法に精通しているんだから!
貴女みたいなちょっと魔法使える程度と同じにしないでくれる!?」
シャーロンが噛み付いてきた。
「あまりリズさんに失礼な態度をとるなら仕事の件はなかったことに。」
スチュワートが牽制する。
それに慌てたツバイクが慌ててシャーロンを宥めすかす。
「まあ、確かに…。知らない事の方が多いでしょうから色々教えてくれると嬉しいわ。」
「私でわかる事なら」
私とアリーシャは微笑み合う。
「ほらっ!アリーシャはなんとも思ってないのにお前だけがプリプリしててもしょーがねーだろっ!?」
「っ!」
「こほん…私はスチールと言います。ツバイクさんと同じ剣士ですね。」
「結構年季入った武器と防具ですよね?」
「長い事使ってませんでしたからね。」
「…そうなんすか。」
「ところで…」
スチュワートが仕事の話を切り出す。
「仕事ですが先程Dランク相当と話されてましたが私どもはFランク。
そもそも受けていいのでしょうか。」
え?ダメなの?
私はスチュワートを見上げる。
それに対してツバイクは紙をスチュワートに見せた。
『王都南門内部警備 期間一日から
募集ランクFからD』
「受けることは出来るみたいですが…」
「問題あるの?」
私はスチュワートに身を寄せて紙を覗き見る。
「彼も言ってましたがこれは本来Dランク相当の依頼なんですよ。
FランクやEランクは普通駆り出されません。」
「今、人出不足なんだよな。だから俺達みたいな新人も重要な仕事が回ってくる。」
「それってフェンリルのせい?」
「貴女知ってるの?」
「昨日依頼を読みました。…王都内部にいるとか?」
「ええ、まだ一般人には極秘扱いされているけど冒険者の間では当たり前の話よ。
そのせいで冒険者が尻込みして森近くの依頼を受けなくなってしまい結果私達みたいな新人に声がかかるようになったの。」
「普通、フェンリルを見越して上ランクを警備に当てませんか?」
「上ランクは目撃情報が多いところを重点的に捜索している。」
「警備ではなく捜索。倒す為の行為ですね。」
「そうだな。万一俺達が出くわしたら勝てる相手じゃねーし、即逃げる。」
「フェンリルが出ても逃げていいならなんとかなるかな。」
「言っておくけど、フェンリルが出ても私は貴女を助けないわ。
貴女を盾にして私は逃げる。」
「問題ありませんわ。」
シャーロンが顔をしかめた。
何故しかめるのか。
「じゃあ、依頼料だけど…」
「幾らなの?」
「今日一日の警備で金貨一枚」
「一人?」
「な、訳ない!全部でだ。」
「なら頭割でいいのでは?」
「いいのか?そっちの取り分が….」
「いいじゃない、そっちのお嬢さんはお金があるみたいだしぃ?」
私の白ローブをジロジロ見ながら嫌味ったらしく言ってくる。
「と、いうより働いた者には正当な報酬が支払われるべきだと思いますし?」
「…」
「シャーロン、お前の負け。」
負け?
私達は何か勝負をしていたのか?
「では、話もついたことですし、早めに南門に参りましょう。」
スチュワートの言葉に私達は頷き同時に席を立ったのだった。
王都から外部へと向かう際、通常四つの道が存在する。
北街道
南街道
東街道
西街道
いずれも王家が威信をかけて開拓した道である。
たった四本の道を開通させるだけで建国史の半分が費やされる程の年月がかかっている。
それにかかった費用、人足の数は天文学的数字に登る。
しかし、王家には通さねばならない理由があった。
何故かなど言うまでもない。
道がなければ孤立する位置に王都があるからだ。
まさに死活問題。
故に王家は森全てを開発出来なくてもこの四本の道だけはと必死で通したし、現在もその道を死守すべく多くの騎士を配置している。
その王都の生命線たる道の一つ南街道と王都を隔てる門が南門だ。
南門からはデビの森のほんの表層部だが見ることも出来る。
私達はその門の前に来ていた。
そして、逃げたくなった。
なんでいるんだ!ザック様!!




