冒険者登録と王都不穏の影
真っ白のローブは私が想像していた以上に目立った。
普段の自分ならばこのローブを着こなすのも朝飯前かもしれないが、今の私は平凡な外見リズなのだ。
完全にローブが浮いてる。
…ってことに気づいたのは店を出てすぐだった。
やたら注目されるのだ。
中には二度見する失礼な奴もいる。
そんなに似合わないかなぁ。
平凡な容姿とはいえちょっと落ち込む。
「おじょ…リズさん、大丈夫です。
似合う似合わないではない所で目立っているようです。」
「どういうこと?」
「値段とあの老婆の話ぶりからしてこのローブはかなり有名な代物と想定されます。
それを纏っていれば目立つのは必至。」
「あう。」
「何故、そのような目立つ物の購入を?」
「いや、死にたくないし。話ぶりからして、防御力高いのかなって。」
「……私がいるのですよ?」
「まあ、そうなんだけど…」
と、口を濁すが、そもそも彼の冒険者時代を知らないのだ。
私の中にあるのは鞭打ちされても文句ひとつ言わず頭を下げる無表情な男である。
そんな男に守ると言われても、じゃあ安心だっ!とはなれないのだ。
思わず防御に走る私は間違ってない。
「まあ、もう買っちゃったし?」
この際目立つのは気にしない方向で行こう!
「…おじょ…リズさんが私を信用していない事がよくわかりましたよ…」
ため息混じりにスチュワートは言った。
「まあまあ、それより後は冒険者ギルドだっけ?で登録すればいいのかしら?」
「そうです。」
「ギルドってのはどこにあるの?」
「この道をまっすぐ行った先…ほら、看板が見えて参りました。」
あ、あれかな?
周りの建物より年季の入った無骨な建物があった。
「そういえば、冒険者って女性もいるの?」
「普通にいますよ?」
「へえ。剣とか弓とか使うのかしら?
戦う女性ってかっこいいわね。」
「勿論、そういう方も大勢いますが、女性は魔法使い率が高いですよ。」
「そうなの?」
「まあ、やはり筋力体力瞬発力は男性に勝てませんからね。
しかし魔法は性差はありませんし。」
「なるほど。なんにせよ、女性が冒険者登録するってだけなら目立たないわね。」
「その白のローブさえなければ…」
うっ!耳がいたい!
「さあ、登録してしまいましょう。もう、夕方ですし。」
確かに。
日が沈みかけていた。
私達はギルドに入った。
ギルドとはいうが私は下町の食堂をイメージした。
違うのは受付らしきものがある事か。
中に入った瞬間視線を集めた。
テーブル席で食事やお酒を飲んでいた人達も皆手を止めて私達を見る。
服装からして食事やお酒を飲んでいる人達は皆冒険者みたいだ。
私は彼らをじっくり観察する。
彼らだって私を見ているのだ。お互い様という奴だ。
皆二人から多いのでは十人程度で纏まって席についており一人でいる者はいない。
戦士らしき人が大半だが、二人ほど魔法使いなのか目立ちようのない凡庸な色味のローブを纏った人がいた。
「おじょ…リズさん、行きますよ。」
「あ、うん。」
私は彼らから視線を外して受付と思しき所へ行く。
「失礼、登録をしたいのだが。」
スチュワートが受付にいた女性に声をかけた。
「畏まりました。ではこちらの書類に必要事項の記入を。
文字が書けない場合は代筆しますが?」
「問題ない。」
「ではどうぞ。」
いって女性は私達に書類と羽根ペンを渡してきた。
必要事項…名前、年齢、種族、戦闘職…。
「名前は偽名でいいの?」
「問題ありません。」
なら安心か。
私は名前の欄にリズと書く。
年は16、種族は人間、戦闘職ってのは…
「おじょ…リズさんの場合は魔法使いで。」
「因みにスチュ…スチールは?」
「剣士です。」
「ほう。」
あ、魔法使いの場合は属性記入欄があった。
私は闇と書こうとして…ふと、手を止める。
属性闇が攻撃魔法使ったらまずくね?
かといって全属性書いたら目立つ。
いや、信じて貰えないか。
「属性どうしよう?」
「とりあえず、焔と書いて提出しましょう。
それ以外の属性魔法を使う時はマジックアイテムを使ったと言って誤魔化せばいいんです。」
「なるほど!」
私はアドバイスに従ってそう書く。
「記入ありがとうございます。
ふむふむ…剣士と魔法使いですね?
お二人でパーティを組まれるでよろしいですか?」
「はい。」
「?」
私は首を傾げる。
「パーティって?」
「一緒に森に入る仲間と捉えていいですよ。
ソロで冒険者やるより仲間がいた方が生存率が高いのはわかりますよね?」
「ああ、うん、わかる。」
「では、パーティ登録しますね。パーティ名はどうされますか?」
「パーティ名って決めるの?てか登録って必要?」
「登録すると依頼料が上がったり、宿屋の割引が効いたりするんです。」
「別にいらなくない?」
「……登録しないとソロと看做され仲間に誘われる率が上がります。」
「登録するわ。」
即答して名前を考える。
やっぱり英雄にちなむか?
………いや、それよりも。
「ディレイク」
私ははっきりと言った。
「…ディレイク?男の名前?誰です?」
「私が知る限り最も強くて最も卑怯で全ての元凶よ。」
こいつが英雄様を卑怯な方法で殺すから子孫である私が魔力コントロールの為モンスターを狩らねばならないのだ。
恨み節炸裂なパーティ名だ。
「…誰ですか、それ?」
「まあ、色々あるのよ。」
私はその一言で纏めた。
いかにスチュワートと言えども実は英雄様の記憶があるんですとは言えない。
言われたらどう反応するのだろうか?
私なら病院を勧める。
「……そうですか………」
少し沈んだ声がしたが気のせいだろう。
「パーティ名ディレイクですね?では受付ました。
冒険者のランクの説明はご入用ですか?
「ランク?お願いしても?」
「はい、冒険者にはランクがあり、そのランクに応じて森への進出度、受けれる仕事内容が変わります。」
仕事に興味ないが森への侵入度は気になる。
「ランクは最低Fから最高SSまであります。
勿論お二方はFからスタートとなります。
受けれる仕事はあちらの掲示板からFの物を選んで受注してください。
なお、Fランクは森への侵入は原則不可となっております。」
「なんですって!?」
私は思わず大声を出した。
いや、当たり前だ。
何の為にこんなところで冒険者登録なんてことしてると思うのか。
しかし、私の大声に全くこたえない女性。
さては慣れてる?
「申し訳ございませんが、安全を第一と考えておりまして、新人でもあるFランクの方には森への侵入はお受けしない決まりになっております。」
「どのランクから森に入れるの?」
「Eランクから可能となっております。」
Eランク…一つ上か。
「ランク上げるにはどうすれば?」
「あちらの掲示板から仕事を選んで受注して成功を十個重ねればEランクと看做されます。」
以外と簡単かな?
「こちらが冒険者タグとなります。」
言って渡されたのは銅板で出来たタグだった。
裏側に名前が彫られていた。
「こちらEランクになればタグが青銅に変わります。」
成る程、ランクが上がればタグが少し豪華になるのね。
「わかりました。」
私達はタグを受け取った。
まずは森に入る。
その為に仕事を十こなす。
こなしきるのが早いか魔力暴走が先か。
かなり悩ましい話だ。
私達は説明を聞いて受付から離れた。
「おじょ…リズさん、少し掲示板見てみます?」
「そうね。」
仕事ってどんなものがあるのか。
一日で終わるものか。
私は掲示板を見た。
「エフ、エフ…っと。」
「これですね。」
「うん?」
私は掲示板に張られた紙を読む。
「…王都警備…人探し…護衛…。」
結構ちゃんとした仕事だが、王都内で完結するものとなっている。
これら十こなしてEランクとは気が長い。
「随分警備の仕事が多いですね?」
言われてみればFランクの仕事の大半がそれにあたった。
「……何かあった可能性がありますね?」
「え?そうなの?」
「はい。」
王都で何か?
私にはさっぱりわからないが元冒険者であるスチュワートにはわかるのだろう。
彼は掲示板を上から下まで舐めるように見ていき…
「これか。」
ぴっと一枚の紙を掲示板から引き抜いた。
そして私に見せてくれる。
『討伐レートAフェンリル王都内発生。討伐者求む。
受注可能冒険者ランクB以上』
「んー?」
いまいちピンとこない。
他にもあるよね?モンスター討伐依頼。
「他の依頼とは内容の重要度が違います。」
「そうなの?」
「まず、フェンリル。ご存知ですか?」
「魔法の授業でやったかな…?」
記憶を掘り起こす。
なんかおっきいわんちゃんだった。
「魔法を使う狼です。」
「モンスターなのに魔法使うの!?」
「ええ、討伐レートが高いモンスターの中には人の言葉を解し魔法を使うものもいます。」
モンスターモンスターって馬鹿に出来ない…!
私は戦慄した。
「討伐レートAはかなり高等モンスター。
戦えばランクの高い冒険者といえども命を落とす危険があります。」
「そうなの…?」
「ええ、フェンリルの恐ろしいところは魔法を使うだけでなく、知識の無いものが見たら犬と見分けがつかないところです。
勿論化けているのですが。」
「そうなんだ…」
でっかいわんちゃんと馬鹿にしてはいけないということか。
「そして、この依頼書を見るにそのフェンリルが王都内に発生したとあります。」
「んと…?」
「普通モンスターは森の中にいます。
それが王都内に侵入している…」
「!」
私は刮目した。
平和で安全な王都に隠れるように棲みつくモンスター。
知らないものにとってそれは単なる犬。
しかし、不用意に近づけば…!
「本当にいるの?」
「目撃ではなく発生と言い切ってます。
ギルドは仕事を冒険者に降る前にギルドが仕事内容を精査します。
その過程で調べあげた結果実際にいると判断したから発生と書いてあるのでしょう。」
「怖い…!」
「大丈夫です。ここは王都。Bランク以上の冒険者は数多おります。
彼らが狩ってくれますよ。」
「そ、そうよね…。」
顔色が悪くなった私をスチュワートはそっと抱き寄せてくれた。
スチュワートがそう言うなら大丈夫だろう。
「ところで仕事はどうします?」
「ああ…」
ちょっとそれどころではなくなり忘れていた。
「Fランク冒険者は警備でも比較的安全な場所を警備するみたいです。」
「安全?」
「ええ。王都内部でも比較的中央に近い場所ですし。」
「そうか、それなら…受けようかな。」
「畏まりました。内容は明日一日。王城周辺の警備だそうです。」
「成る程。」
王城周辺は嫌だが、フェンリルには会いたくないのでそれでいい。
モンスターを狩る為に冒険者になったがそれは弱いモンスターをイメージしていた。
ゴブリンとかオーガとかゾンビとか。
いきなりフェンリルは無理。
ここは大人しく王城周辺の警備に勤しむことにする。
魔力暴走はしないでほしい…
「もう一度マジックアイテムを借りてくればいいのでは?」
「確かに!」
それはおもいつかなかった!
また壊すかもしれないけど、そん時はそん時だ!
私はこの足で神殿に向かうことにして…って!
「あ」
「どうされました?」
「王城に行かなきゃ」
「何故?」
「宿題の提出。」
「…ああ、アレ」
少し声が低くなった気がした。
「ええ。一度家に帰って宿題とって王城行って提出して最後に神殿かな。」
「畏まりました。」
スチュワートは深々と頭を下げ…ようとして、途中で止まり、変な位置で固まったのだった。




